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Thu, 21 November 2024
土屋範子大英博物館キュレーター
土屋範子さん

[ 前編 ] 大学時代は経済学を専攻、大学院では江戸時代の絵画を学んだ。英国の名門オークション・ハウスに勤務していたかと思えば、英国が世界に誇る博物館、大英博物館のキュレーターとして活躍。一見、二転三転する人生を歩んでいるように思える土屋さんだが、その中核にぶれることなく存在するのは、「日本美術」だった。全2回の前編。
プロフィール
つちやのりこ - 東京都出身。慶応義塾大学経済学部卒。同大学文学研究科美学美術史学で修士号を取得。大手商社勤務を経て渡英。オークション・ハウスのサザビーズが運営する美術学校Sotheby's Institute of Artの東アジア美術コースで修士号(MA)取得。オークション・ハウスのボナムズでインターンを経て正社員に。数年働いたのちに大英博物館のキュレーターとなる。2014年6月、同博物館所蔵の根付100点についてまとめた書籍「Netsuke: 100 miniature masterpieces from Japan」を上梓。また、6月から8月にかけて、根付を含む江戸時代の男性用装身具に焦点を当てた展覧会「Dressed to Impress: netsuke and Japanese men's fashion」を開催し、好評を得た。
www.britishmuseum.org

 

大英博物館でのとある一日

7月末日、ロンドン中心部ホルボーンにそびえ立つ世界有数の博物館、大英博物館に向かう。入口を入ってすぐ右手にある小さな展示室は、大勢の人々でむっとするような熱気を帯びていた。部屋の奥には日本の着物、手前にあるガラスの展示ケースには、小ぶりな和風の置物が鎮座している。その日行われた「Dressed to Impress」と銘打たれたレクチャーで講義していたのは、日本人キュレーターの土屋さん。江戸時代の男性が身の回りのものを帯にくくり付けるために使用した留め具「根付」について説明する彼女の言葉を聞き漏らすまいと、幅広い年齢層の参加者たちがじっと耳を傾ける。レクチャー終了後には、自分の所有する根付を鑑定してもらうべくビニール袋を抱えている男性や、聞きもらした話を教えてもらおうとする女性らが土屋さんに向かって行列をつくっていた。

展示会「Dressed to Impress: netsuke and Japanese men's fashion」
大英博物館で行われた展示会
「Dressed to Impress: netsuke and Japanese men's fashion」

日本美術を外から見つめ直す

美術館や博物館で作品管理やイベント企画などを行うキュレーターといえば、狭き門とされる芸術分野の中でも特に人気が高いことで知られる職業だ。土屋さんはここ大英博物館で約3年にわたり、日本美術分野のキュレーターを務めている。世界最大規模の博物館のキュレーターともなれば、職を得るのにさぞや激戦が繰り広げられたのではと思いきや、本人は「私はバリバリ進んでいくタイプではないんです。すべては人との縁ですね」とおっとりしている。父親が東京都内にある財団法人美術館の館長を務めていることもあり、生まれたころから第一級の日本美術に触れてきた土屋さん。流れに身を任せるように、将来は何らかの形で美術館に関わることになるだろうと漠然と考えていた。「狭い業界ですから、その前に広い世界を見たくて」と、大学ではあえて経済学を専攻。その後、大学院で日本美術を学んだ。卒業後は海外留学を念頭に数年、企業で働いてから英国へ。名門オークション・ハウス「サザビーズ」が運営する学校の大学院で東アジア美術を専攻した。「クラスメートは13人くらいで日本人は私一人。韓国や中国、イタリアや米国など様々な国から来ていました。そこで1年学ぶうちに、日本美術を英語で理解して伝えられるようになりたい、と考えるようになったんです」。「狭い業界」の外から日本美術を見つめるうちに、「漠然とした思い」が具体的な形を成してきた。

シルクロード
サザビーズの卒業旅行で訪れたシルクロード

卒業後は、オークション・ハウスの「ボナムズ」でインターンを体験。オークションと言えば、紳士淑女が価格を釣り上げていき、オークショニアが槌をカンっと叩いて締めくくる優雅な光景が思い浮かぶが、裏での仕事内容は「肉体労働」。エプロンを着て競売品をワゴンで運び、カタログを作成。撮影の手伝いや作品の鑑定も行った。「オークション・ハウスでは、お客様が持ち込まれた品に直(じか)に触れられる点が良かったです。美術館が所有しているのは質の良い品ばかりですが、こちらに持ち込まれる品はピンからキリまで。『家の屋根裏で見つけた壺なのですが……』なんて持ち込まれることもあります。値打ちが知りたいときなどに皆さん気軽にいらっしゃるんですよね」。

インターンとして1年働いた後には正社員となり、多忙な日々を過ごしていた土屋さんだが、大学院卒業生に与えられるビザが切れるタイミングで大英博物館の現在の上司であるニコル・ルーマニエールさんから一緒に仕事をしないかと声が掛かった。同じタイミングで結婚という人生の節目を迎えた土屋さんは、心機一転、キュレーターとしての道を進み始める。

 

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