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Thu, 18 April 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第27回 メイク=インチキ?

9 August 2012 vol.1364

メイク=インチキ?
付け鼻に付け顎の特殊メイクで
「化けた」男性ダンサー

女性の方々には欠かせないお化粧。日本語だと「化けるに粧う」と書くので、あまり見た目が麗しくないですが、英語では「Makeup」で「創り上げる」となるので、かっこ良く聞こえます。少々失礼とも感じられるのがイタリア語で、「Truccare 」、これはインチキをするという意味にもとらえることができる単語です。確かに奇麗に魅せるとはインチキをするという意味合いに取れなくもないですが……と、あれこれ前置きをさせていただいた上で、今回は舞台化粧についてお話しようと思います。


舞台化粧とは、つまり厚化粧。 客席からかなり離れている舞台上でのダンサーの表情が分かりやすいよう、またダンサーがその演じている役になりきれるようにと、演じる役柄によりメイクを変えます。

一般的に、顔全体に立体感を与えるため、普段のメイクより濃いめにシャドーを入れたり、付けまつげを装着し、口紅も濃く塗るなどして、普段より一層美しくなるよう(?)、皆それぞれ工夫を凝らします。特にアジア人は鼻を高くし、目を大きく見せるようにしないと、舞台上でのっぺり顔になってしまい、顔の表情が薄くなってしまうので、そういった点で損をしないよう、特に私は気を使います。

男性は普段メイクをしませんので、舞台上でも女性より控えめに、目、鼻、口を強調させる程度で済ませます。一方、悪役や年配役を演じるとなると、性別関係なしに特種なメイクをしなければなりません。


何年か前までは、主役を演じる人には必ず専門のメイクさんがついていましたが、近年は不景気のため、その予算がカットされてしまい、特殊メイクの場合のみ、プロにお願いできるような形になってしまいました。

今回の写真は 、「火の鳥」というバレエの「不死の魔王、カスチェイ」のメイクをした、男性のプリンシパル・キャラクター・アーティストの方。プリンシパル・キャラクター・アーティストとは、バレエの作品の中で、主に演技中心の役柄を専門にやるダンサーのことを言います。このような特殊メイクをするときは、もちろん、メイクさんにやっていただくのが普通です。付け鼻に付け顎を装着した上にさらにメイクを施すので、最低でも2時間ほどかかり、舞台に出る前は一苦労だと言います。

ちなみに写真のダンサーは、このカスチェイ以外のキャラクターのメイクは、自分でするのだそうです。彼に言わせると、自分が演じるキャラクターがどのように見えるか、メイクをしながら感じたいからだとか。確かに、自分の顔は自分が一番良く知っており、余程の腕前を持ったメイクアップ・アーティストの方でない限り、役は何であれ、ダンサー本人と調和のとれたメイクをするのは難しいと思います。


女性は特に、メイクがうまくいかないと焦るものです。通常の舞台メイクの場合は、平均で30分から45分ぐらいかかりますが、その上、髪もセットしなければならないので、舞台の2、3時間前から支度し始めます。

メイクは演じる役柄に入る一つの準備です。
化けるだろうが、インチキをするだろうが、私たちにとっては、とても重要な舞台前の準備。より美しく、より印象的にお客様の前へ出られるよう、今日も頑張って化ける=インチキすることにします!!

 
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小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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