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Sat, 23 November 2024

木村正人の英国ニュースの行間を読め!

ロンドン同時爆破テロから10年-
無秩序に拡散するテロのリスク

2005年7月7日午前8時49分、ロンドンの地下鉄が3件連続の自爆テロに見舞われた。約1時間後、今度は2階建てバスが爆発した。死者52人、負傷者784人。自爆したイスラム系移民の若者4人も死亡した。阿鼻叫喚(あびきょうかん)の同時多発テロ「7・7」からちょうど10年が経つ。7日、52柱の記念碑が立つハイド・パークでキャメロン首相とジョンソン・ロンドン市長が献花を行い、犠牲者の冥福を改めて祈った。キャメロン首相は「英国は決してテロに屈しない」とテロ対策を強化する方針を表明した。

セント・ポール大聖堂では4つの現場名が記された大きなロウソクが燭台(しょくだい)の上に置かれ、午前11時半から1分間の黙祷が捧げられた。地下鉄では構内放送が止められ、バスは最寄りの停留所に停車した。10年前、14歳だったエマ・クレイグさんはオールドゲイト駅に向かう列車内で爆破テロに巻き込まれた。職業体験学習に参加する途中だった。「テロはロンドンを破壊することはできなかった。しかし、私たちの一部を破壊した」とエマさんは涙を拭いながら、振り返った。

01年の米中枢同時テロ。ブッシュ米大統領とブレア英首相が主導したアフガニスタンとイラクの2つの戦争。そして中東の民主化運動「アラブの春」で中東・北アフリカは一気に不安定化した。シリア内戦に乗じて過激派組織「イスラム国」が台頭し、テロのネットワークを世界中に拡散させている。世界は10年前に比べて安全になったかと聞かれれば、答えは明らかに「ノー」だ。

英国内では防諜と治安を担当するMI5(英情報局保安部)の人員が4000人に倍増されるなど、確かにテロ対策は進んだ。ロンドン警視庁のテロ対策班や英政府通信本部(GCHQ)との連携が強化され、MI5は2000~3000人を監視下に置くが、人員不足は否めない。MI5のパーカー長官は「2005年にロンドンで起きた恐ろしい出来事は、私たちの組織が日々未然防止に取り組んでいる現実を思い起こさせてくれる」と口元を引き締めた。

しかし、チュニジア北東部スースのホテルで6月26日、外国人観光客ら38人が殺害された。このうち30人が英国人で、「7・7 」以来、最悪というテロ被害を出した。銃乱射テロの実行犯、サイフディン・レズギ容疑者(23)は射殺された。レズキ容疑者はブレイクダンス愛好家で、自宅から離れた貧困地区のモスク(イスラム教の礼拝所)で過激思想に染まったと報じられている。自分のフェイスブックに「イスラム国」への共感をほのめかし、「イスラム国」もすぐに犯行声明を出した。

 

「イスラム国」には約100カ国2万人の外国人戦士が参加し、このうち英国組は700人とみられている。しかし半数の350人が斬首など「イスラム国」の残虐性に幻滅したり、トラウマを抱え込んだりして既に英国に帰国。カウンセリングを受けている若者もいる。テロは10年前に比べ、国境を超えた広がりを見せている。インターネットを通じて過激思想や暴力への誘いが恐ろしい勢いで無秩序に散らばっていく。

保守党単独政権を樹立したキャメロン政権はテロ対策として、過激派組織が公の場でヘイト・スピーチを行うのを禁止、スノーデン事件で批判を浴びたもののGCHQの市民監視プログラムを強化する法案を議会に提出した。小・中学校に過激思想が入り込まないよう警戒を強めている。しかし、「7・7」の再発を確実に防げるとは断言できないのが現実だ。英国内に潜むテロリスト予備軍のスイッチがいつ、どこで入るのか、もはや誰にも予測できない。GCHQの「ビッグ・ブラザー(市民監視プログラム)」でも捕捉不可能だ。

 

シリアやイラクで「イスラム国」の拠点を爆破して過激派を1人殺害すれば、「イスラム国」への参加者が10倍以上の勢いで増える。米国家安全保障局(NSA)やGCHQはテロの脅威に備えるため、人員や予算を拡大して市民監視プログラムを強化するという悪循環に陥っている。「イスラム国」はその矛盾につけ込み、ソーシャル・メディアでイスラム教徒の「恐怖」と「屈辱感」をあおり立てる。中東・北アフリカの国境は崩れ始めている。「イスラム国」は独自の行政区分を一方的に宣言した。20世紀に築かれた世界秩序は確実に崩壊に向かい始めている。

 

 

木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
ブログ: 木村正人のロンドンでつぶやいたろう
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