第4回干渉には徹底抗戦の新聞界
レべソン報告書を包み紙に例えた「インディペンデント」紙のウェブサイト
ありとあらゆる手を使ってネタ探しをする英新聞界は、政治家や著名人にとってちょっと怖い存在と言えるでしょう。
でも、そんな新聞界にも怖いものがあります――それは、自分たちの言論活動の手足が縛られること。そんなとき、メディアは「言論の自由」を盾にして、徹底抗戦していきます。
少し前に、「大衆紙による電話盗聴事件」があったことを覚えていらっしゃいますか。もう廃刊になりましたが、日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」の記者たちが政治家、著名人、一般市民の携帯電話の留守電のメッセージを盗み聞きし、得られた情報を基にスクープ記事を書いていた事件です。2005年にこれが明るみに出て、その後の調査で「盗聴」が大規模に行われていたことが分かりました。盗聴対象者には亡くなった英兵の遺族や誘拐された少女が入っていたために大きな非難の声が上がり、新聞は廃刊となりました。
「新聞界の悪しき習慣を調査する」目的で立ち上げられた調査委員会は、委員長の名前をとって「レべソン委員会」と呼ばれました。2012年11月末に出たレべソン報告書(なんと2000ページ近くの厚さです!)は新聞界の行き過ぎた取材手法を厳しく批判し、独立規制機関の立ち上げを推奨しました。このとき、高級紙「インディペンデント」は報告書をフィッシュ・アンド・チップスの包み紙に見立てた紙面を作りました。「明日には捨てられる」運命です。
レベソン報告書がこの規制機関の設置を国の法律で定めるように、と言ったことで、新聞界は大騒ぎとなりました。
英国で印刷業に国が規制をかけたのは17世紀末が最後です。今さらレべソンの推奨に合意するわけにはいきません。各紙は紙面を使って「言論の自由の侵害だ!」と騒ぎ立てました。
新聞界が合意しないので、与野党の政治家たちは2013年3月、新たな法律の立法化ではなく国王の勅許(王立憲章)によって設置することで基本合意します。新聞界はそれでも「法令による規制機関の設置」と同じであると見なし、一斉に反発しました。そして、独自で自主規制機関を設置する方向で話を進めていきます。
ちなみに新聞界が一つにまとまらない中、自主規制組織の早期設置を新聞界にプッシュしてきたのがマリア・ミラー文化相でした。そして「デーリー・テレグラフ」紙は、この文化相の経費不正疑惑をスクープ報道します。立法化による設置の声が強くなっていた渦中の話です。その急先鋒にあると見られた大臣の疑惑報道。2014年4月、大臣はとうとう辞任に追い込まれました。
その5カ月後、立法化を経ない形で新たな自主規制組織「独立新聞基準組織」(通称「IPSO」)が発足しました。前にも苦情があれば受け付ける「PCC」という組織があったのですが、新聞界には甘い組織でした。
左派系高級紙「ガーディアン」や経済高級紙「フィナンシャル・タイムズ」はIPSOに参加していません。両紙ともにIPSOは業界の利益に近過ぎる組織として見ているようです。代わってそれぞれ独自の紙面検証体制を新たに立ち上げました。
編集権に国が少しでも介入することに大きな抵抗をする新聞界。でも、各紙の編集方針は特定の人物の意向によって変化します。次回はこの点について書きましょう。