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Sun, 24 November 2024

第99回 回復の狼煙、V-shaped Recovery、のたうつNippon

景気回復の狼煙(のろし)

昨年10~12月に、先進国及び経済成長著しいBRICs諸国の工場生産高は真っ逆さまに転落し、その後賃下げ、首切りと新聞では明るい話題は見たらない。では良い話はないかと、市場関係者や政府当局者などに直接的・間接的に聞いた。

1. 国際通貨基金(IMF)の幹部:
米国人の顔に暗さは全然見られない。不況期のリストラは当然。苦境のときほど我々は団結し、国のために戦う。僕らは移民の子孫だ。移民してきたときに経験したどん底を思えば、現在の苦境はそれほどではない。オバマは確かに希望の星だが、自分たち自身が持つ力こそ信じている。急激な生産調整を経て、ほどなく明かりは見えてこよう。米国に自動車産業は要らない。IT、バイオなど、経済成長の種はいくらでもある。

2. 中国共産党の経済研究機関の幹部:
中国の内陸部は、まだまだインフラが足りない。空港、鉄道、道路、橋、ダム、上下水道、学校などなどこれからいくらでも公共工事が必要になる。貿易黒字をそこに使うのだ。日本は「日本列島改造論」で公共事業の必要性を訴えた田中角栄の後、オイル・ショックで大インフレになったが、中国は物価高の後に原材料価格安が来て、これから国のインフラ整備に本格的に着手することになる。国家の安定のためにも、8%の経済成長率は維持したい。

3. 日本の最大野党の幹部、経済団体の幹部:
社会的な弱者を保護する必要がある。派遣など労働市場の自由化は行き過ぎた。今後は銀行に対してさらに資本注入し、企業も救う。政権党の中小企業向け貸出の信用協会保証の拡大で銀行貸出は拡大したが、まだ足りない。ワーク・シェアリングこそ今年の課題だ。

米中におけるV字型景気回復の見通しが正しいとすると、本欄でサブプライム問題を指摘した一昨年夏が景気の底の始まりと考えられ、それが表面に現れた昨年末は実は回復期で、その回復が外に見えてくるのは今年終わりから来年になると思うのは、小生だけだろうか。


米中の政治リスク

米中のリスクは政治にある。民主党のオバマ大統領は、米国自動車のビッグ3をつぶせない。となれば、米国倒産法第11章(日本の民事再生法に相当)の適用はない。適用すると、年金など支持基盤であるデトロイトの労働者が持つ債権を、カットすることになる。これは政治的に持たない。

トヨタがビッグ3を買って、自動車業界の雇用を緩やかには守って欲しい、というのが米国人の本音だ。日本はアフガニスタンで軍事貢献する位なら、こちらの方が恩を売れる。日本の外務省では、米国に言われる前に環境か人道支援か、何か国際貢献をすべきという議論が盛んだが、IMFが「知恵や人より新興国を助けるための実弾=カネがない」と言っていることも踏まえた方がよい。一方、オバマが米国自動車産業など競争力のない業種を幕引きなく温存しようとすると、中長期では米国にとって大きなリスクになる。

中国は貧富格差に対する一般市民の不満が強い。IMFの予測のように6%台の成長では、恵まれない層の暴動は著増し、これを抑えようと共産党は公共投資に躍起になるだろう。抑え切れないと政治リスクだ。農民反乱や軍隊反乱によって倒されてきた中国歴代王朝の歴史が思い起こされる。


日本は何処(いずこ)へ

世界の方向は、サブプライムや景気の悪化に伴う金融機関や企業の損失を一気に処理して、フレッシュ・スタートしようというものだ。一方、日本だけ、ゆっくり回復しよう、痛みを分かち合おうという政策のオンパレードになっている。エネルギーと食料を自給できない日本は、グローバリゼーションの中で交易と競争を行えないと暮らしていけない国なのではないか。日本の外では、競争の自由を守りつつ、フロンティアを技術面(IT、バイオ)、地理面(アフリカ、南米など)において広げている。日本はもともと競争制限的な規制が多い国なのだが、小泉改革で少し緩んだ規制を元に戻す、または一段と強化する動きが現在では強い。

友人として付き合いのある日本の官僚たちは本当に白けている。NIPPONの本当の危機はここにある。でも、最後に希望を言えば、政治と関係なく、「身の回りのことからやろう」という気が何となく日本に横溢(おういつ)してきた気もする。これからNIPPONがのたうつことは確実として、その過程で1人1人が考え動くことが本当に重要になる。


(2009年1月25日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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