テート・モダンが、なんと遊園地に?! ロンドンが世界に誇る現代美術館にこのたび、思わず子供心を掻き立てられるオブジェが出現した。話題となっているこのオブジェは、建物の5階から地上までを繋ぐ巨大ならせん型のスライダー。人々は歓声とともにパイプの中を猛スピードで滑っていく。しかし誤解なきように。ここはテート・モダンで、当然ながら滑り台はアートなのだ。
このインスタレーションは、ドイツ出身の芸術家、カールステン・フラー氏(44)の作品。フランスの文芸批評家、ロジェ・カイヨワの言葉である「さもなくば明快すぎるだろう精神における、官能的なパニック」を体現しているという滑り台は、もちろん一般の鑑賞者も実際に体験可能だ。摩擦防止用の大型バッグの中に両足を揃えて横たわり、地上55メートルの高さから12秒かけて半透明のチューブ内を滑り降りる。「喜びと狂気の間の精神状態を体験するための装置です」とフラー氏は豪語する。
移動遊園地のアトラクションか、はたまた緊急脱出路か……といった声も聞こえてきそうだが、テート・モダンの館長を務めるニコラス・セロータ卿は「身体性、そして重力というものに気付かせてくれる作品」と力説。実際に体験した感想は「滑り始めた瞬間、恐怖はかき消された。こいつは君を完全に飲み込むんだ、そう、他のあらゆる偉大な芸術作品と同じようにね」だそうだ。
だが、一般公開前に招待された批評家やジャーナリストの中には「これは事故が起きるのを待っているようなものだ」と眉をしかめる面々も。それもそのはず、栄えある最初の鑑賞者となった彼ら、出口から飛び出してきた時にはアザや打ち身、摩擦による火傷で散々な状態。そんな反省を受けて、急降下地点には急きょ、ぶ厚いマットが設置された。おかげで一般客向けの安全性は向上したが、批評家たちはいい実験台となってしまったともいえる。
インスタレーションは来年4月まで展示の予定。万が一、事故が起こって使用中止……なんて事態になってしまう前に、ぜひ一度お試しあれ?
「Times」紙 “Art-or accident waiting to happen" ほか
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