第02回 子連れ旅行で知った教育格差
「子供の教育はカントリーサイドよ」という、親切でおせっかいな英国人たちのアドバイスを忠実に守った結果、息子の転校先はコッツウォルズ郊外の村にある、全校生徒60人ほどの小さな小学校に決まりました。
では、なぜカントリーサイドが子供の教育のために良いのか、ここで当時の英国人たちの主張(?)を分析してみましょう。
私たち家族が1999年に敢行した、3カ月にわたる英国縦断旅行で出会った英国人の大多数は、ごく一般的な「労働者階級」の人たちでした。「労働者階級」という響きは日本人としてはやや抵抗を覚えますが、ここで言うところの「労働者階級」とは、要は高額な授業料が必要な私立校や、ロンドンの高級住宅地にあるような「優良な」公立校へ子供を通わせることはないけれども、良識があり、休日にはガーデニングやバーベキューなどを楽しむ、贅沢ではないものの、それなりに英国らしいゆとりある生活を送っているファミリー層や、リタイアした人たちです。
彼らのアドバイスをもう少し詳しく説明すると、大都市圏はもちろん、大きな市街地の中心地にある大規模な公立校より、できれば田舎の小規模な公立校のほうが子供の教育にはベターであるということでした。
実は私と夫は移住する前年の2001年、英国で日本文化紹介を目的とした大規模な交流事業に参加し、その一環として全国各地の小学校に赴きワークショップを行いました。訪問した小学校はロンドン中心地の学校から、地方の小さな村にある学校まで様々。このワークショップは近年まで続き、これまで訪問した学校数は公立、私立ともに数十校に上ります。そうした自らの体験も踏まえたうえで言えることは、学校施設の充実度や先生方の教育熱心な姿勢は、都会もカントリーサイドも大きな格差はありませんが、違いは生徒の多様性です。
ロンドンは白人の英国人(ホワイト・ブリティッシュ)が、人口の50%以下という統計が発表されて既に数年が経ちますが、マンチェスターやバーミンガムなどの大都市圏の学校を訪れると、移民の子供やその子孫たちが大多数を占めています。その善し悪しは別として、私たちにアドバイスした英国人たちは、それは芳しくない教育現場だと判断していたのでしょう。そうした学校に、例えば英語を十分に理解できない子供が転入するとどうなるか……。英語もたどたどしいアジア人の親子3人(つまり私たち家族)と接し、親切な英国人には余程頼りなさそうに映ったのでしょう。
こうして全校生徒がすべてホワイト・ブリティッシュという小学校へ転校した息子。息子も私たち親も、新たなカルチャー・ショックが待ち受けていようとは、当時は想像すらしていませんでした。
世界的に有名なナショナル・トラストのガーデン「Stourhead」で開催した墨絵ワークショップでのひとコマ。ワークショップを通じて、英国中の何千人もの子供たちと接することができた