05年7月、ロンドンは強豪ぞろいの5候補都市の中から、3度目の夏季五輪開催地となる権利を勝ち取った。 国を挙げての祝勝ムードは、翌日ロンドンを襲った地下鉄同時テロ事件により消え去ったとはいえ、当然、 水面下では準備が着々と進んでいた。開催を4年後に控えた現在の当地の様子を探ってみよう。
東部地区の再開発
ロンドンが並みいる強豪都市を押さえ選出された理由に、貧困や治安悪化にあえぐロンドン東部地区の再開発をオリンピック村建設に重ね合わせた点が挙げられる。具体的には、ストラットフォードに建設されるオリンピック村は、開催後には3500戸の集合住宅や公園、そして複合ショッピング・センターへと改装され地域活性化の起爆剤となる予定だ。
そのほか、既存のスポーツ施設を競技会場として使用することで、新しい施設の建設コストを抑える「スモール・オリンピック」の方針も高く評価された。というのも、世界的なスポーツの祭典を意識しすぎた過剰な施設建設が、開催後にはほとんど地域社会の発展に貢献せず、ある意味巨大な「粗大ごみ」扱いされていることが近年批判の対象になっているからだ。
「サステイナブル」なスタジアム
昨年末に発表されたメイン・スタジアムのデザインは、そんな人々の批判をかわすような巧みなコンセプトから成り立っている。「サステイナブル(持続可能)」をキーワードに、計8万人を収容するスタジアムのうち固定席はわずか2万5000席だけで、開催後に取り外される可動席は5万5000席にも及ぶ。すなわち、大幅に規模を縮小できる仕組みだ。建設資材の省エネルギー化も考慮され、軽い部材を組み立てて建設するというイメージ戦略は、テレビのコマーシャルにも頻繁に登場している。テンポラリーな仮設構造なら、理論的には建設費用も低く抑えられているはずだ。
しかし、実際には5億ポンド(約1200億円)近くが費やされると推定されている。これは北京オリンピックの「鳥の巣」スタジアムの倍以上の予算だ。テート・モダンのデザインで知られるスイスの建築家集団「ヘルツォーグ&ド・ムーロン」は、建築史にも残りうる、記念碑的な建築を北京の地に築き上げた。対する前衛的建築理論家ピーター・クックとスポーツ施設設計の第一人者「HOKスポーツ」のコラボレーションが弾き出した結論は、物価の違いを考慮しても、何ともお粗末な限りだ。両者の実力を考えると、もっと前衛的なデザインが出てきそうなものだが……。
刻々と顔を変えるオリンピック村
1年近く続いた既存建物の取り壊しや整地作業も、ようやく一段落した。いよいよ本格的な建設工事に取り掛かるオリンピック村は、完成時の緑豊かなイメージがすっかり浸透している。だがその影で、初期のメイン・スタジアム案はすっかり消滅してしまった。当初は、横浜国際フェリー・ターミナルを手掛けた設計事務所「FOA」による、流線的で有機的なフォームのデザインが注目を集めていたのだ。しかし他の五輪施設の設計獲得に集中したいとの理由から、FOAは去年デザイン・チームから撤退した。現在のデザインが正式に採用されたことも、撤退の理由の1つかもしれない。さて、環境へのインパクトを最小限にすると謳っているロンドン五輪だが、果たして思惑通りに事は運ぶのだろうか?
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