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Mon, 13 January 2025

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

大手メーカーが電気自動車の販売低迷で工場閉鎖へ ネットゼロを目指す政府の目標は実現できるか

「ボクスホール、お前もか」。昨年11月末、そんな声が聞こえてきそうなニュースが発表されました。欧州の自動車メーカー大手ステランティスが、傘下ボクスホールの英中部ルートン工場の閉鎖を発表したのです。工場で働く1100人の雇用が危うくなりました。シトロエン、プジョーなどの著名ブランドを持つステランティスは、電気自動車(EV)の販売に課せられた厳しい販売ノルマがルートン工場の閉鎖の重大な要因になったと述べています。過去10年間にホンダ、フォード、ジャガー・ランドローバー(JLR)が次々と工場閉鎖を発表しており、ボクスホールのルートン工場も続いた形です。

ステランティスの発表の前週にはフォードが「EVの販売が予測以上に鈍化している」ため、800人の雇用削減を決定。日産も政府がEVの販売ノルマを緩めないと、北東イングランドにある英国最大の自動車の生産拠点サンダーランド工場の雇用にリスクが生じると述べています。


英国政府は気候温暖化防止対策の一環としてEVをプッシュしています。2050年までに全ての温室効果ガス排出量を実質ゼロ(ネットゼロ)にする目標を法令で定めているのですが、21年時点で温室効果ガス総排出量の26パーセントは運輸部門によって発生し、しかもその半分強が車によるものでした。35年までにガソリンとディーゼル車の新車販売が禁止され、EVはネットゼロを達成するために重要な役割を果たしていくことになります。

EV生産に移行させるため、政府は自動車メーカーに対し、ゼロエミッション車(ZEV)の販売を義務化しています。24年は乗用車販売台数の22パーセント以上をZEVとし、30年に80パーセント、35年に100パーセントへと段階的に比率を引き上げることになっています。メーカーは規制を超えて販売されたZEV以外の乗用車1台につき最大1万5000ポンド(約291万円)の罰金を科せられます。ずいぶんと厳しい数字ですが、救済策もあります。義務化の水準を達成したメーカーから二酸化炭素の排出枠を買い取ることができるのです。ごまかしっぽいですが……。

EV車の販売が増えないため、メーカー側は政府に対し販売ノルマの緩和と車の購買を考えている人にEVを選択するための優遇措置を提供してほしいと訴えています。EVの販売台数は次第に増えており、昨年11月時点では新車販売4台のうち1台がEVでした。メーカー側は自分たちが価格に巨額のディスカウントを提供しているから増加しているのであって、今後の継続は困難と言っています。新車・中古車を含めた車市場全体で見ると、EV販売台数は全体の3.9パーセント。小さな存在です。

価格もまだまだ高めです。オンラインの自動車売買市場「オートトレーダー」の調べによると、EVは新車で1台3万ポンド(約583万円)以下が少なく、ディーゼルやガソリン車はこれ以下が大部分です。EV車は自宅でも充電できるものの、路上にある充電スタンドの数がまだ十分ではありません。完全充電の後どれくらい走行できるのかについても、まだまだ不安が消えません。


話を英国外に広めてみましょう。「フィナンシャル・タイムズ」紙の記事(11月29日付)によると、米国の自動車界でEVが占める割合は今年13パーセントに達する見込みで、欧州では23パーセントに。いずれも減少傾向です。一方、国家戦略としてEVの生産に力を入れてきた中国では50パーセント強に。欧州の消費者はEVの実売り価格の半額を「買えそうな金額」と考えており、ギャップがあります。唯一EV普及度で例外といえるのがノルウェーで、なんと新車販売の96パーセントがEVだそうです。価格面での優遇策、充電インフラの充実などが主な理由です。労働党政権も英国の自動車産業を支援し、EVをさらに後押しするために動くでしょうか?

キーワード

Electric Vehicles=EVs(電気自動車)

電気を使って走る車。「ゼロエミッションEV」には、バッテリーに充電した電力でモータを動かして走行する「バッテリー式電動自動車」(BEV)と水素と酸素で電気を発生させる燃料電池を搭載する「燃料電池自動車」(FCEV)がある。ガソリンで動くエンジンと電気で動くモーターが付くのが「ハイブリッドEV」(HEV)。

 

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