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Tue, 08 October 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

英金融サービス企業グリーンシルの破綻 政界との深い結びつき - キャメロン元首相もロビー活動で支援

先月初旬、英金融サービス企業グリーンシル・キャピタルが破綻し、大きな波紋を広げています。「タイムズ」紙の報道によると、デービッド・キャメロン元首相はリシ・スナク財務相に「テキスト・メールを送り」、同社の利を図るために「ロビー活動をした」そうです。キャメロン氏はグリーンシルの顧問でした。ロビー活動自体は違法ではありませんが、元首相が現財務相に直訴とは、並々ならぬ熱意です。一体どんな会社なのでしょう。

グリーンシルの創業者は、オーストラリアの農場経営者の息子アレクサンダー(「レックス」)・グリーンシル氏です。2001年、24歳で英国に移住し、4年後、金融大手モーガン・スタンレーに就職。ここで元中央官僚のジェレミー・ヘイワード氏(2018年11月に病死)と知り合います。ヘイワード氏は2008年に官僚界に戻り、グリーンシル氏は別の金融大手シティグループに転職。モーガン時代に学んだサプライチェーン・ファイナンス(SCF)のサービスを金融商品化し、2011年、グリーンシル・キャピタルを立ち上げました。これはテクノロジーを使って企業間の支払いを代行し、金銭のやり取りを迅速化するサービスです。金融とITを結びつけるフィンテックを体現する人物となったグリーンシル氏を、このころ官房長官となっていたヘイワード氏が内閣府に招き入れます。グリーンシル氏はSCFサービスを政府省庁に導入させようと奔走。2012年、当時のキャメロン首相が国民医療サービス(NHS)に薬を提供する薬局の決済にこれを導入することを承認しました。導入から6年間はシティグループが担当していましたが、2018年からはグリーンシル社が手掛けるようになります。

キャメロン政権にしっかりと食い込んだグリーンシル氏は、2012~16年に内閣府のシニア顧問として働き、17年には「経済への貢献」を評価されて大英勲章第3位(CBE)の叙勲を受けました。企業規模を拡大し、2019年には日本のソフトバンクグループからおよそ15億ドル(約1600億円)の出資を受けるまでに成長。鉄鋼・エネルギー大手GFGアライアンスに多額の投資をする側にも回りました。

2020年春、新型コロナウイルスの感染が拡大し、政府は企業支援のための公的融資制度を設置。同年4月、キャメロン氏は財務省や官邸に直接連絡を取り、優良企業が低金利で融資を受けられる「COVID企業金融ファシリティー」を同社が利用できるように働きかけました。グリーンシル社は鉄鋼大手リバティ・スティールなどGFGアライアンス傘下企業への融資を増やすことを狙っていましたが、「基準を満たさない」という理由で却下されてしまいます。その後、グリーンシル社は中小企業向けの「コロナウイルス・ビジネス中断融資スキーム」の貸し手として認定を受け、GFGアライアンス関連企業に数億ポンドの融資を提供。このスキームは支援額の最大80パーセントを国が保証するものです。

破綻のきっかけは、3月1日、グリーンシルが提供する金融商品に投資していた金融大手クレディ・スイスが、100億ドル相当の資金を凍結すると発表したことです。背景には資産に付与されていた保険の失効がありました。英メディアの報道によると、昨年7月、オーストラリアの保険会社が、グリーンシルが提供する融資の保険契約の更新を拒否。同時にドイツ連邦金融監督庁がドイツ内に設置されたグリーンシル銀行の不正会計を突き止めました。グリーンシル社は代わりの保険会社を見つけることができないまま、破産へ。現在は、グリーンシル関連企業に勤める英国内外で約5万人の職が危うい状態です。

顧問であるキャメロン氏はグリーンシル社の持ち株を行使価格で購入できる権利を持ち、友人に「6000万ポンド(約90億円)、手に入る」と漏らしていたことも分かりましたが、今となっては全て絵に描いた餅になってしまいました。

キーワード

CCFF(COVID企業金融ファシリティー)

COVID Corporate Financing Facilityを指す。2020年3月17日、新型コロナウイルスの感染拡大により影響を受けた企業の支援のために英財務省が発表した施策の一つ。財務省とイングランド銀行が共同で大企業の資金繰りの流動性を高めることを狙った。2021年3月23日の終了日までに107社に370億ポンド(約5兆円)を融資。対象企業に勤務する従業員は約250万人に達した。

 

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