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Thu, 13 August 2020

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

ヘンリー王子とメーガン妃が公務退き、称号返上へ英国民に大きな衝撃 - 王室は電光石火で将来を決定

年明け早々の8日、エリザベス女王の孫にあたるヘンリー王子と妻のメーガン妃が、夫妻のインスタグラムのアカウントを使って、王室の中心任務を担う「シニア王族」の立場から退くことを宣言しました。女王や他の王族に事前の相談はなく、「寝耳に水」の宣言でした。皆さんは、どのように感じられましたか。

保守系大衆紙「サン」は「メグジット(Megxit)」(メーガン妃の退出)という新語を発表翌日の一面に載せました。英国の欧州連合(EU)からの離脱「ブレグジット」のもじりですね。同じく保守系の「デーリー・メール」紙は王子夫妻を「悪漢王族」と名付け、2人の声明文の内容を紹介しました。シニア王族がこのような形で、事実上の引退宣言をすることは非常に珍しく、メディアの論調は「事前の相談もなく宣言してしまうとはなんということだ」、「身勝手だ」という視点で、否定的なものが圧倒的でした。

当初、英国民の多くは、夫妻が主要公務から退き、「財政的に自立したい」と言いながら、王族の地位や特権を手放すわけではないという「いいとこ取り」の部分に割り切れない部分を抱いたようです。例えば、夫妻はカナダでの滞在を長期化させる一方で、今後もウィンザー城にある、巨額の税金をかけて改装したフロッグモア・コテージを自宅として使う予定です。夫妻は公務費用の5%を負担する「王室援助金」は受け取らないものの、チャールズ皇太子の所領となるコーンウォール公領からの収入は引き続き貰うようです。また、年間約9000万円と言われる税金を使った警備も続行することを想定しています。

世論調査会社「ユーガブ」によりますと、ヘンリー王子夫妻の公務縮小宣言を支持すると答えた人は46%、反対する人は27%でした。「新たな活動領域を見つけたい」という夫妻の決断を支持する人が半数近くいます。ところが、少し深く聞いてみると、多くの人がかなり厳しい見方をしていました。81%が夫妻は「今後、公的資金を受け取るべきではない」、67%が「コーンウォール公領からの収入を受け取るべきではない」、56%が「フロッグモア・コテージに住むべきではない」と答えていたのです。

ヘンリー王子夫妻の決断の大きな要素として、執拗なメディア報道があったといわれています。2018年5月の結婚以前から、元女優でもあったメーガン妃は世界中で注目の的になりました。米国人、しかもアフリカ系ということで、「部外者」であるメーガン妃は伝統的な英王室に「新たな風を吹かせる」という期待が膨らみました。その一方で、保守系大衆紙を含めたメディアは人種差別的な報道でメーガン妃を攻撃しました。昨年秋、夫妻は複数の大衆紙を相手取り、プライバシー侵害などで提訴しています。同時期に出演した民放ITVの番組で、夫妻は過剰なメディア報道やソーシャル・メディア上のハラスメントに苦しめられたと心情を吐露しました。

13日、エリザベス女王やシニア王族が集まって、緊急の家族会議が開かれ、女王は夫妻を「全面的に支持する」という声明文を出しました。しかしそれから数日後の18日、英王室は王子夫妻が王族としての公務から退き、王族への敬称である「ロイヤル・ハイネス」(殿下、妃殿下)は今後使われないと発表しました。ヘンリー王子夫妻はフロッグモア・コテージの改修費として公的資金から拠出された240万ポンド(約3億4000万円)を返済する方針だそうです。ただし、今春以降、夫妻が公務から退いた後の警備費がどうなるかについては、いまだに不明です。

ヘンリー王子夫妻の突然の「独立宣言」から10日経ち、英王室は電光石火の決断をしたと言ってもよいでしょう。国民の支持を受ける王室の存続を優先したのかもしれません。ヘンリー王子夫妻の独立は、英王室のスリム化にもつながりそうです。

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Sovereign Grant(王室援助金)

女王の公務と宮殿を維持するための費用。君主が所有する公的不動産「クラウン・エステート」からの収入が原資。いったん国庫に入った収入の純剰余金の15%が王室援助金の主要部分になる。これに加え、2017~18年度から10年間のみ、10%がバッキンガム宮殿の修繕費として女王側に戻される。2019~20年度は、総額8240万ポンド(約117億円)に上る予定。
 
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