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Fri, 29 March 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

BBCが高額報酬者を発表 男女格差が歴然に

英国のメディアの中で、ダントツなのがBBCです。私自身、BBCのファンの一人ですが、先月19日、年次報告書の発表とともに公開された、年間15万ポンド(約2200万円)以上の報酬を得る出演者や職員ら96人のリストには心底驚きました。その額の大きさに、です。

メイ首相でも年間給与は15万ポンド弱ですので、首相よりも大きな金額をもらっているのです。しかも、トップがBBCラジオ2のDJクリス・エバンズで何と200万ポンドを超えています(220~約225万ポンド)。円に換算すれば3億2000万円以上。次が元サッカー選手で今は解説者のギャリー・リネカー(175万~約180万ポンド)、これに自分の名前を冠したショーを持つグレアム・ノートン(80万~約85万ポンド)、ラジオ2のDJ、ジェレミー・バイン(70万~約75万ポンド)が続きます。

96人の報酬を上から見ていくと、あることに気付きます。女性の名前がなかなか出てこないのです。女性のトップは「ストリクトリー・カム・ダンシング」のクローディア・ウィンクルマン(45万~約50万ポンド)でした。男性のトップと比べると随分と差がありますね。トップの稼ぎ手96人の中で3分の2が男性です。こうした格差を解消すべしと、40人に上る女性司会者などがBBCのトニー・ホール会長に公開書簡を送る騒ぎとなりました。

実際に、BBC全体では男女の賃金格差はどれぐらいなのでしょうか。まず、国民全般を見てみると、国民統計局の調べでは、男性の方が女性よりも18.1%多い報酬を得ていたそうです。雇用者の1%をサンプルとして、女性の賃金の中央値と男性の賃金の中央値を比較した数字です。ホール会長によると、BBCで働く人全員で計算すると、その差は10%だったとのこと。会長は「2020年までに男女の報酬格差を解消したい」と述べていますが、「2020年までは待てない。今すぐにでも実行してほしい」というのが、先の公開書簡の意図でした。

15万ポンド以上の収入を得ているはずでもリストに名前が出なかった人もいます。動物学者としても知られるデービッド・アッテンボローや「クエスチョン・タイム」の司会歴が長いデービッド・ディンブルビーは制作会社から報酬を受ける形にしているため、個人の報酬リストには名前が出ていません。

「差」は男女間だけではありませんでした。例えば、同じ番組の仕事をしているのに、ある司会者はほかの司会者の何倍もの報酬を得ていました。ラジオ4「トゥデー」の司会者の一人、ジョン・ハンフリーズはほかの司会者の2倍以上の約60万~65万ポンドの収入です。リストが発表された19日、同じ局の「メディア・ショー」に出演したハンフリーズは「最初からたくさんお金がほしいと思っていたわけではないが、長く続けることで増えていった」と主張。「報酬がカットされてもBBCに残るか」と聞かれ、「もちろんだとも」と答えています。「10~20万ポンドカットと言われても?」と聞かれ、「それはBBCに聞いてほしい」と返していました。酷な質問ですよね。

BBC経営陣はこれまで、スター級の出演者・職員に高額報酬を支払う理由の一つを「ライバル局に取られないため」と答えてきました。民放は報酬額を公表していないので比較できませんが、先のハンフリーズも含め「民放からBBCよりも高額の報酬で働かないかと言われた」という人が少なくありませんので、民放の報酬がBBCより上であるのは本当かもしれません。ただ、BBCは視聴者数が多いですし、認知度も圧倒的に違います。よほど良いポジションと報酬を約束されたのでなければ、他局に行きたいという人はいないのではないかと思うのですが。

それにしても、スター級の出演者・職員の年間報酬は自分や知人、さらには政治家の報酬と比較しても、実に大きいです。でも、実はその大きさに最も衝撃を受けたのは、視聴者の私たちではなく、はるかに低い給与でも一生懸命働いている、BBCのその他の職員だったのではないでしょうか。BBC内の給与格差が気になるこのごろです。

 
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