BBC への逆風TVライセンス料の将来はどうなる -
保守党からの批判、動画サービスというライバルも
このところ、私たちが毎日のように利用するBBC(英国放送協会)に対する逆風が強くなってきたように見えます。
実は、BBCに対する逆風は最近の出来事ではありません。むしろ、反BBCの動きがなかった時はない、といった方が正確かもしれません。1922年に民間企業「英国放送会社」(British Broadcasting Company)として発足し、27年に現在の公共事業体(British Broadcasting Corporation)として生まれ変わって以来、BBCは国民の圧倒的な支持を受けながらも、ニュースの発信者としてライバルになる新聞メディアや、自分たちに都合がよい報道を望む政治家たちから、その存続を揺るがせるような圧力が常にありました。
今回、反BBC言論が表面化したのは、昨年12月の総選挙の選挙戦でのボリス・ジョンソン与党・保守党党首(現首相)による発言がきっかけです。
受信者から徴収するTV ライセンス料(NHKの放送受信料に相当)について、「現時点で制度自体をなくそうとは考えていないが、(政権が取れたら)必ず検討するつもりだ」と言ったのです。ライセンス料を支払わない人を処罰の対象にしないことも提案しました。
BBCは現在年間約37億ポンド(約5251億円)のライセンス料による収入を得て活動の大部分を賄っています。
もしその制度がなくなって、視聴したい人から視聴料を取る制度(サブスクリプション制)にすれば、収入が大きく減少すると予測されていますので、BBCにとってライセンス料制度の維持は死活問題。BBCの支援者からすると、ジョンソン氏の発言はBBCを縮小したいという意向の表れに見えました。
総選挙で保守党が圧勝すると、もともと保守党内にあった反BBC勢力が勢いづきました。1月20日、BBCのトニー・ホール会長は今年夏に辞任することを表明しましたが、それを受けたジョン・ウィッティングデール保守党議員は、次期会長の課題はライセンス料制度の将来について考えることだと述べました。「BBC改革を進める良い機会だ」という別の保守党議員もいます。保守党は、不偏不党を貫くはずのBBCの報道を「左寄り」、「リベラル」、「反保守党」と目しているようです。
ライセンス料制度が今、話題に取り上げられるのは、2022年春に制度の見直しが行われることになっているからです。BBCはほぼ10年ごとに更新される「王立憲章」(女王の勅許)によってその存立と業務が定められています。今の王立憲章の有効期間は2017年から27年までですが、メディア環境の激しい変化を考慮して、22年に一度見直しをするよう設定されました。
一種の税金のように徴収されてきたライセンス料が曲がり角に来ていることは確かです。まずメディア環境が激変しています。ネットフリックスを始めとする有料の動画ストリーミング・サービスが人気となり、これと反比例するようにBBCのオンデマンド・サービスiPlayerのシェアが縮小。若者層に広がるテレビ離れ、そしてネットに接続したデバイスでの視聴が増加しています。「みんなでお金を出しあって、全ての人に同様に番組コンテンツを提供する」、というBBCの存在意義が大きく問われています。ただし、ネットフリックスは動画だけですが、BBCは動画以外にラジオ放送もあり、ニュース報道の水準が高いことでも世界的に有名です。有料動画サービスをしのぐ存在ではあるのですが。
BBC援護者の声も紹介しましょう。元文化相だったベン・ブラッドショー労働党議員は、「強力な企業、敵対勢力、政党などによって情報が間違って使われることへの懸念が広がる中、信頼でき、客観的で、説明責任を持つメディアの存在意義は、これまでになく高い」と主張します。
筆者はこの意見に共感を覚えますが、皆さんはどう思われますか。