ウクライナ情勢による決算・監査への影響
ロシアによるウクライナ侵攻の政治経済への影響は甚大で、決算においても影響を考察する必要があります。今回はロシアやウクライナと関係のある英国子会社の決算や監査について考えてみます。
現在進行形の出来事による、決算への影響をどのように考えればよいでしょうか。
12月決算か3月決算かによって取り扱いが異なります。12月決算の場合はロシアのウクライナ侵攻という事象の条件が決算日において存在していなかったことから、原則的には無修正後発事象となりますが、影響の大きさによっては開示も考慮します。
一方で3月決算の場合は、決算日後の刻々と変化する侵攻状況や政治経済情勢の変化について3月決算への影響を常に検討し、修正後発事象か否かを判断することが求められます。
ロシア企業と取引がありますが、注意点を教えてください。
企業の法令順守やガバナンスがより厳しく求められるなか、ロシアとの取引が思わぬ形で法令違反、またマネーロンダリングに関与してしまうというリスクが高まります。英国政府のロシアへの制裁措置は常に更新されており、これに違反した企業への罰則が科される可能性があります。またロシア取引先からの支払送金が止められ回収が困難になるケースも考えられます。これらは引当金の計上につながりますし、為替変動も決算においてさまざまなエリアに影響があります。直接の取引先がロシアではなくても、最終的な受益所有権者がロシア企業やロシア政府である場合、同等の制裁措置が適用される可能性もあり、その場合は同様の会計上の問題にもなり得ます。
実はロシアに関連会社があります。
もし英国会社がロシアに子会社や関連会社を持つ場合、さまざまな減損の可能性を検討することになります。仮に撤退を決断した場合、ロシア政府によるロシア現地会社の残余資産の接収リスクを考慮する必要があります。継続する場合でも、事業が大きく減退する場合は子会社投資額の減損の可能性についても検討します。戦争という状況下では、資産の毀損が保険の対象とならない可能性があることも減損計算に影響があります。さらに通貨の暴落の影響も減損につながります。子会社や関連会社への貸し付けも回収がコントロールできなくなった場合、減損を検討しなければならない可能性も出てきます。
監査においてどういった影響があるでしょうか。
英国でロシア子会社を含めた連結決算を行っている場合、ロシア子会社の監査は大きな問題となり得ます。英国グループ監査人がロシア子会社監査人との連携が困難となり、現地監査結果に依拠ができない結果、限定意見となることも考えられます。
また英国企業がロシアへの販売に大きく依存している場合や、サプライチェーンに重大な分断が発生している場合、ビジネスの持続可能性とゴーイングコンサーンについて検討することになります。もし重要な不確実性が認められた場合は決算書に注記が求められ、場合によっては、監査意見に影響は及ぼさないものの、監査報告書で注意喚起とすることも十分にあり得ます。
高西祐介
監査・会計パートナー
英国大手会計事務所にて多くの英系大企業監査を担当。日系企業をサポートしたいという強い思いからGBAへ。監査、ファイナンスデューデリ、組織再編アドバイスを専門とする。