監査報告書の変更点
英国の全ての企業は、2006年会社法に基づいて監査が義務付けられています。企業の規模や属するグループの規模に応じて、いくつかの免除規定があります。 監査手続きを完了した全ての企業に対しては、監査人が監査報告書を作成し、法定財務諸表に挿入します。
監査報告書の基準はどのようなものですか。
財務諸表に対する意見の形成と監査報告であるISA(UK)700は、ここ数年の間に何度か改訂されています。改訂されるたびに、新たな変更点をカバーするため標準化された新しい文言が基準の付録に含まれ、これにより監査報告書の形式と内容が、財務諸表とこうした報告書を発行する監査法人の間で標準化されています。
基準は、2019年11月に最新の改訂が行われ、2020年1月に更新されました。この基準は、2019年12月15日以降に始まる会計期間の財務諸表の監査に適用されます。したがって大多数の事業者にとっては、2020年12月以降の年度末に対する財務諸表の監査から発効となります。そのため企業が財務諸表で更新された監査報告書を目にするのは、2020年12月の年度末がおそらく初めてとなります。
監査報告書にはどのような変更点がありますか。
ISA(UK)700の最新版では、監査報告書のなかで詐欺行為を含む不正を発見できると考えられる監査の範囲を説明することが監査人に求められています。 これは、すでに公益事業体の監査報告書の要件となっていましたが、これが全ての事業者に拡大されました。
また英国財務報告評議会(FRC)は、こうした変更点を対象とする推奨文言を提示していないため、こうした追加項目の書式や内容は、監査対象企業に合わせてカスタマイズされることになります。
なぜ基準が改訂されるのですか。
ISA(UK)700の改訂は、非常に注目されていた企業がいくつか破綻し、監査人に対する疑問および企業が継続企業として存続できる能力に関して監査人が行った作業に対する疑問が投げかけられたことを受けて実施されました。
監査報告書では、監査人の監査手法が詐欺行為を含む不正をどの程度発見できるかについて、監査人が質的・量的な要因を考慮して説明します。この説明は、そもそも不正を発見することが本質的に難しい点や、企業の統制環境の有効性、監査人が実施した監査手続の時期と範囲により影響を受けます。監査の性質上、重点的に取り組むのは、不正により財務諸表の重要な虚偽表示のリスクが高まる分野となります。したがって、こうした分野で実施した取り組みは、監査報告書の中で詳細に説明されます。
そのほかに変更点はありますか。
監査リスクの識別と評価に関する基準(ISA(UK)315)の改訂版が、2021年12月15日以降に始まる会計期間から発効します。ただし早期適用が認められています。
この改訂版は、リスク評価を支援するための新たな固有リスクの要因、新たなリスクの範囲、固有リスクと統制リスクを別々に評価する必要性などの変更を導入することにより、リスク評価のプロセスを根本的に変えるもので、広範囲におよぶ可能性があります。
こうしたリスクは監査報告書の文言の基本となるため、近い将来に監査報告書の改訂が行われることが予想されます。
ジェフ・ジョンソン
監査・会計 パートナー
BDOに9年勤務。英国会計基準(UK GAAP)や国際会計基準(IFRS)、米国会計基準(US GAAP)の豊富な知識を基に、監査と財務会計を専門とする。勅許会計士(ACA)の資格を持つ。