太郎君、花子ちゃんと一緒に時事問題を勉強するニュース講座の第4回は、1週間後に行われるロンドン市長選について。現市長と前市長の一騎打ちは果たしてどんな結末を迎えるのかな?( 猫山はるこ)
ロンドン市長選について
現ロンドン市長と前市長の一騎打ち
ウェストミンスター先生: 今日は、5月3日のロンドン市長選について勉強しようね。
太郎君・花子ちゃん: はーい!
ウェストミンスター先生: 5月3日は、イングランドとウェールズ、スコットランドの自治体選挙の日なんだけど、ロンドンでは、ロンドン議会選挙と、そして市長選挙も実施されるんだ。
太郎君: ロンドン市長ってどんな仕事をするの?
先生: 良い質問だね。まずロンドンには、一般に「カウンシル」と呼ばれる自治体が33あって、これらの自治体全部を合わせた地域を「グレーター・ロンドン」と呼ぶんだ。グレーター・ロンドン全体を担当するお役所が「大ロンドン庁(GLA)」で、ロンドン市長は、その大ロンドン庁の中に設置されているポジションだよ。
太郎君: 僕の住んでるイーリング区の上にもう一つお役所があるんだね。
先生: その通り。ロンドン市長の主な役割の一つは、大ロンドン庁、ロンドン交通局(TfL)、ロンドン警視庁(MPS)などの予算を作ることだね。それから、ロンドンの交通、都市計画、環境、警察業務、住宅供給などの分野の戦略策定も市長の業務だよ。
花子ちゃん: 大事なお仕事してるのね。
先生: でも実はね、市民の選挙で選ばれるロンドン市長っていう制度は、2000年に導入されたばかりなんだ。大ロンドン庁も同じ2000年に設置されたんだよ。
太郎君: その前はどうしていたの?
先生: グレーター・ロンドンには、以前は「大ロンドン県(GLC)」という自治体があったんだけど、1986年に廃止されてしまったんだ。それ以降、大ロンドン庁ができるまで、ロンドン市長と大ロンドン庁が今やっている仕事は、中央政府かまたは自治体同士で作る団体が担当していたんだよ。
花子ちゃん: 今回の市長選には、どんな人たちが立候補しているの?
先生: まず保守党の候補者は、現市長のボリス・ジョンソン氏だよ。彼は前回2008年の選挙で初めてロンドン市長になったんだけど、2期目に挑戦しているんだ。
太郎君: 金髪でいつも髪がグシャグシャな人だよね。
先生: よく知ってるね。労働党からはケン・リビングストン前ロンドン市長が立候補しているよ。彼は、2000年に行われた初のロンドン市長選で当選した人で、2004年に再選したけど、2008年の選挙でジョンソン現市長に敗れてしまったんだ。
花子ちゃん: じゃあ今回は雪辱戦なのね。
先生: その通り。リビングストン前市長は、さっき言った、1986年に廃止された大ロンドン県でリーダー(与党のトップ)を務めていたことがあるんだよ。この2人のほかに、自由民主党や緑の党などからも立候補者が出ているし、無所属の候補も1人出馬しているんだ。でも実際のところ、当選の可能性があると考えられているのはジョンソン市長とリビングストン前市長だけで、選挙は事実上、この2人の一騎打ちになっているよ。
花子ちゃん: 候補者の公約はどんな内容なの?
先生: まずリビングストン前市長の目玉公約は、公共交通料金の値下げだよ。今年10月までに7%の値下げを実施して、2013年末までその料金を維持し、2014年以降も値上げ率をインフレ率以下に抑えると約束しているね。
太郎君: へぇー、すごいや。
先生: それから、低所得家庭の出身で、継続教育の学校(*)に通う16〜19歳の若者に対する補助金「教育継続補助金(EMA)」をロンドンで復活させるとも言ってるよ。EMAの制度は、今の保守党と自由民主党の連立政権が、イングランドでの実施を取り止めてしまったんだ。それから、育児支援策として、低中所得世帯を対象とした補助金や無利子の融資制度を実行するとも約束しているね。
花子ちゃん: ジョンソン市長の公約は?
先生: 交通関係では、「2015年までに、地下鉄の遅れを、これまで達成したより更に30%削減する」、治安関係では、「警察官、警察補助員などで構成され、地域コミュニティーの治安維持を役割とする『地域安全対策チーム』を強化する」などがあるね。
太郎君: ふーん。
先生: 経済面では、新鉄道「クロスレール」建設、地下鉄の改善工事、住宅の建設などで、ロンドンに20万の雇用を創出すると言っているよ。
花子ちゃん: リビングストン前市長の公約は、ずいぶん大盤振る舞いよね。
先生: そうだね。でも、「実施する財源がない」との声もあるよ。ジョンソン市長は、リビングストン前市長の公約について、「地方税であるカウンシル税の大ロンドン庁課税分を引き上げるか、道路通行課金制度『コンジェスチョン・チャージ』の実施地域を拡大しないと無理」と主張しているね。
太郎君: そうなんだ。
先生: そうそう、リビングストン前市長については、節税問題がずい分やり玉に上げられていたね。
花子ちゃん: どういうこと?
先生: 今年2月、保守系の新聞が、「リビングストン前市長は、メディア出演や講演などで得られる収入を、自分と妻が所有する会社に移すことで節税している」と報道したんだ。以来、ジョンソン市長陣営からずっとこの問題を追及されているんだよ。
太郎君: 節税かぁー。
先生: リビングストン前市長は、制度の抜け穴を利用して税逃れをする富裕層を批判していたから、「自分だってやっているじゃないか」と言われてしまったんだね。この件は大きな騒ぎになって、結局、ジョンソン市長、リビングストン前市長、それに自由民主党と緑の党の候補者の4人が、最近の所得と納税額を公開するという騒ぎにまで発展したんだ。
ボリス・ジョンソン市長の功績とは
花子ちゃん: ジョンソン市長は、2008年に当選してから、どんなことをしてきたの?
先生: 現市長の政策で一番良く知られているのは、2010年に自転車レンタル・システムを導入したことかな。バークレイズ銀行の青いロゴが入った自転車は、もうロンドンでおなじみの光景になっているよね。でも実は、自転車レンタル・システムの導入を発案したのはリビングストン前市長で、現市長はそれを引き継いだだけなんだけどね。そのほかに良く知られているジョンソン市長の政策には、公共交通機関での飲酒を禁止したこと、1階建てのバスが2車両連結した「ベンディ・バス」を廃止したこと、2階建てバス「ルートマスター」の新型車両を導入したことなどかな。
花子ちゃん: そう言えば、ベンディ・バスってなくなっちゃったわね。
先生: でも、ジョンソン市長は、リビングストン前市長に比べて、市長として達成したことが少ないと言われているね。
太郎君: ふーん。
先生: その割には、市長になる前から手掛けている新聞のコラム執筆をまだ続けていたり、去年秋にはまた新しい著作を発表したりしているので、「そんな暇があったら市長の仕事に専念せよ」っていう声も少なくないよ。
節税報道で前市長への支持低下
花子ちゃん: ジョンソン市長とリビングストン前市長は、どちらが当選しそうなのかしら?
先生: 世論調査では、去年はずっと、現市長優勢という結果が目立っていたね。でも、今年1月のある調査では、リビングストン前市長の支持率がジョンソン市長を上回ったんだよ。下の表を見てみてね。
太郎君: 前市長が2ポイントだけリードしてるね。
先生: これは、公共交通料金の値下げ公約が多くの市民に支持された結果だと推測されているよ。でも、今年3月に同じ会社が実施した調査では、ジョンソン市長が前市長に7ポイントもの差をつけて支持率トップになったとの結果が出たんだ。
太郎君: 本当だ。
先生: リビングストン前市長が支持率を下げたのは、節税報道のせいだと考えられているよ。
花子ちゃん: あらあら。
先生: さっきも説明したように、ジョンソン市長は、市長としての功績は前市長より少ないと言われているし、今回の選挙でも前市長のような派手な公約は打ち出してないね。でも、市長は、以前から、政策よりもユーモアやカリスマ性といった個人としての魅力で支持を獲得しているところがあるんだ。リビングストン前市長に、ロンドン市民に将来への希望を抱かせるようなフレッシュなイメージや勢いに欠けるということなども考え合わせると、このまま行けば、今回の選挙は恐らく、ジョンソン市長の再選という結果に終わるというのが大方の見方だね。
太郎君: へー。ところで先生はどの候補者に投票するの?
先生: それは内緒だよ。では、今日の勉強はここまでにしておこうね。また次回をお楽しみに!
公選市長制度がロンドンに導入された2000年当時の首相は?
ブレア率いる労働党は、ロンドンでの公選市長制度の導入と、グレーター・ロンドンでの広域行政体の設置に関する住民投票を実施することを公約に掲げ、1997年の総選挙で勝利しました。
リビングストン前ロンドン市長が2000〜2008年の市長在任中に実行した政策に含まれないものは、次のうちどれ?
A 地下鉄運賃の無料化
B 同性愛カップルの登録制度導入
C 道路通行課金制度「コンジェスチョン・チャージ」の導入
同性愛カップルの登録制度は、中央政府によるシビル・パートナーシップ制度創設に先駆けて、2001年に導入されました。
現在のロンドン市長の年間報酬は?
ジョンソン市長は、2008年の市長選の公約通り、2階建てバス「ルートマスター」の新型車両を開発し、今年2月から8台を導入しました。これらバスの購入費は1台につき幾らだったでしょう?
ジョンソン市長と、そのライバルと言われるデービッド・キャメロン首相の共通点ではないものは、次のうちどれ?
A 英王室と血がつながっている
B イートン校、オックスフォード大学の出身である
C 離婚経験がある
市長と首相はともに、ハノーバー朝のジョージ2世の子孫で、2人は遠縁に当たります。離婚経験があるのはジョンソン市長だけです。