知っているようで知らない英国の珈琲。
「ロックダウンになってできなくなり、悲しく思うことは何か」という2020年春の調査で、1位「友人や家族に会えない」の次に「コーヒー・ショップに行けない」という結果が出た英国。紅茶の国というイメージがありながら、気が付けば上質のコーヒーを入れてくれるカフェがそこかしこにあるのが当たり前になっていた。今回は、そうしたカフェを支えるロースタリー*にスポットを当てるとともに、コーヒー豆の選び方や保存方法なども紹介する。 (文: 英国ニュースダイジェスト編集部)
*コーヒーを生豆の状態で仕入れて焙煎し、卸売りまたは小売りをする焙煎所。ビール業界でいえばブルワリーに相当する
コーヒーにまつわる豆知識
コーヒー豆はアカネ科コーヒーノキ属から採取されるコーヒーチェリーの種子のこと。貿易量は現在、石油に次ぎ世界第2位といわれているが、その起源は9世紀アフリカ東部のエチオピアにある。カルディというヤギ飼いの男が、ヤギがコーヒーの実を食べると元気になることを発見したのが始まりだそう。英国には中東のイエメンを経て、精神の解毒剤、誘淫剤として17世紀半ばに入ってきた。当時コーヒーを出す店は「コーヒーハウス」と呼ばれ社交場として重宝された。18世紀初めにはロンドンだけで3000軒もあったといい、これが英国の最初のコーヒー・ブームだったといえる。
ロンドンの人気ロースタリー10選
ここ10年のコーヒー・ブームで台頭した数あるロースタリーの中から、ロンドンを基盤にするこだわりの10軒を厳選した。このページで紹介したロースタリーのコーヒー豆は、どれもカフェやオンラインで購入できる。自分好みの味を見つけてみてはいかがだろうか。
スクエア・マイル・コーヒーSquare Mile Coffee
2008年に2人のコーヒー・スペシャリストが立ち上げたスクエア・マイルは、初期のコーヒー・ブームを牽引した立役者ともいえる。卸売りにフォーカスしており、現地企業などが提供するビジネス講習を取り入れている農園から直接豆を購入。公平で公正なサプライチェーンを確保することに努めている。写真の「レッド・ブリック」は深めにローストされたエスプレッソ用の豆で、「オレンジ、アーモンド、チョコレート、ファッジ」の味わい。苦みだけが強調されがちなエスプレッソの意外なフルーティーさに驚くかも。
Red Brick
£12 / 350g
https://shop.squaremilecoffee.com
モンマス・コーヒーMonmouth Coffee
1978年創業の老舗ロースタリー。英国でコーヒー人気が高まる以前から、おいしいコーヒーが飲める店として知られていた。かつてはコヴェント・ガーデンの店の地下で直火焙煎していたが、現在はロースターを南部バーモンジーに移動。バラ・マーケット内の支店も常に行列ができる人気店だ。写真の「スケ・クト」はエチオピアの農園名。味わいは「ミクスド・ピール、ジャスミン・ウィズ・ブライト・アシディティー・アンド・フレッシュ・ボディ」。浅めのローストで少し酸味があるが、癖がなく飲みやすい。
Suke Quto
£7.50 / 250g
www.monmouthcoffee.co.uk
オールド・スパイク・ロースタリーOld Spike Roastery
2014年にロンドン南部ペッカム・ライで誕生したオールド・スパイクは、社会問題の解決を目指し、その手段としてコーヒーを扱うソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)。売り上げの65パーセントをホームレスの自立支援に投資するほか、森林破壊を防ぐ取り組みにも参加し、コーヒー1パックにつき1本植林しているという。写真のコーヒー「ホライゾン」はルワンダ南部産の豆レッド・ブルボン種を使い、味わいは「レッド・チェリー、レモン・ドリズル、メープル」。甘みと酸味が溶け合う濃厚だがすっきりした口当たりだ。
Horizon-Rwanda-
£10 / 200g
https://oldspikeroastery.com
ヴォルケーノ・コーヒー・ワークスVolcano Coffee Works
ニュージーランド出身のカート・スチュワート氏が2010年にロンドン南部ブリクストンで始めたロースタリーで、後述のアセンブリー・コーヒーはこの姉妹店にあたる。ロンドンを中心に英国各地のカフェ、レストラン、ホテルなどで広く扱われているので、知らずに口にしている人もいるかもしれない。写真の「ファイアーハウス・ブレンド」は、ブラジル産をベースにしたエチオピア、ウガンダ産のブレンドで、「チョコレート・オレンジ、フォレスト・フルーツ、シナモン」の味わい。
Firehouse Blend
£7.50 / 200g
https://volcanocoffeeworks.com
アセンブリー・コーヒーAssembly Coffee
ロンドン南部ブリクストンをベースに、2015年に立ち上げられたロースタリー。生産者と積極的に触れ合い絆を深めることで、高品質なコーヒー豆を生産者から直接購入している。コーヒーは生産者と最終的な買い手との間に多数の業者を介することがあり、その結果生産者はほんのわずかな収入しか得られないというシステムが存在する。アセンブリー・コーヒーはその悪しきサイクルを正そうと努めているとのこと。写真の「エチオピア」は、種類の異なるコーヒー2パック・セットのうちの一つで、「スウィート・スパイス、フローラル」の味わい。
Ethiopia (Assembly Care Packcage)
£20 / 400g
https://assemblycoffee.co.uk
スカーレット・コーヒー・ロースターズScarlett Coffee Roasters
ロンドン北部イズリントン、エンジェルのおしゃれなロースタリー。南米の鳥スカーレット・アイビスをパッケージのモチーフに、エスプレッソ用のド・ボーヴォワール、ミルク・コーヒー用のアイビス、フィルター用のザ・ボウ・モンド、そしてアイビス・デカフの4種類が用意されている。いずれもさらにその中から国を選べ、アイビスの「グアテマラ」は同国チマルテナンゴ産の4種の豆をブレンドしたもの。味わいは「ブレイバーン・アップル、ミルク・チョコレート、ダブル・クリーム」でバランスが良い。
IBIS-Guatemala-
£10.50 / 225g
https://wearescarlett.co.uk
ミッション・コーヒー・ワークスMission Coffee Works
現在ロンドン東部クラプトンを拠点にするミッション・コーヒーは2012年に創業。以来、最良の生豆だけに焦点を絞り焙煎してきた。今では英国だけではなく欧州のカフェ、ホテル、レストランに届けられている。ほかのロースタリーと同様に、オンライン・サブスクリプションのシステムを使えば、家庭やオフィスでも気軽に試すことができる。写真の「ピヴォット」は、オールド・スパイク・ロースタリーの「ホライゾン」と同じ農園の豆を使っており、2021年の英グレート・テイスト・アウォーズで星2つを獲得。
Pivot
£9.40 / 200g
www.missioncoffeeworks.com
キス・ザ・ヒッポKiss the Hippo
2018年にロンドン南西部リッチモンドで誕生し、同年から英国バリスタ選手権でスタッフが3年連続入賞を果たした。地球に優しいコーヒーを目指し、二酸化炭素の吸収量が排出量より多い「カーボン・ネガティブ」の認証を受けた企業としても知られている。写真の「ジョージ・ストリート・ブレンド」は、コロンビアとエチオピアの豆を半々に使ったハウス・ブレンドで、豆の個性を引き出す「チョコレート、ベリーズ、バタースコッチ」の味わい。リッチモンドのほか、中心部マーガレット・ストリートにカフェを持つ。
George Street Blend
£10.50 / 250g
https://kissthehippo.com
ダーク・アーツ・コーヒーDark Arts Coffee
コーヒーの焙煎は錬金術のようなものだと考える、バイクやオカルト好きのメンバーによって2014年にロンドン東部ハックニーで創業されたロースタリー。ウクライナ軍の言葉から取った「ロシアン・ワーシップ・ゴー・ファック・ユアセルフ」はエルサルバドル産の豆のブレンド。1パック購入するとそのうち2ポンドが、ロシア軍のウクライナ侵攻で被害を受けた住民や避難民のサポート団体に寄付される。味わいは「ミルク、プラリネ、ラズベリー」。日本にも葉山に支店がある。
Russian Warship Go Fuck Yourself -El Salvador-
£10 / 250g(現在Sold Out)
www.darkartscoffee.co.uk
バランス・コーヒーBalance Coffee
ロンドン北部のロースタリー、バランスは、自宅で飲むコーヒーの質を上げることをモットーに、コーヒーを自分で丁寧に入れたいと思っている人々のために焙煎している。コロナ禍の在宅期間中、自宅のキッチンにバリスタもどきの器具をそろえた人も多いというが、そんな人にこそぴったりのコーヒーが見つかりそうだ。写真の「スタビリティー・ブレンド」は「ミルク・チョコレート、ヘーゼル・ナッツ、フィグ」の味わいを持つ人気商品。学生は全商品が20パーセント割引でお財布にも優しい。
Stability Blend
£7.99 / 250g
https://balancecoffee.co.uk
いまさら聞けないコーヒーの6つの基本
店頭やオンライン・ショップ上で、コーヒーの種類の多さに戸惑ってしまう人も多いはず。味の好みは人それぞれだとしても、知っておいたら少しは役に立つかもしれない6つの豆知識をご紹介。
1. コーヒー豆にも旬がある
コーヒーも農作物なので野菜や果物と同様に旬がある。北半球と南半球では収穫時期が異なるため、一括りにすることはできないが、コロンビアは3~6月、ブラジルは5~8月、エチオピアは11~2月が収穫期。英国のロースタリーに豆が届き焙煎される時間を考えると、ここから1カ月ほど後ろ倒しした時期が、私たちが旬のコーヒーを味わえる期間といえそうだ。ただし豆の種類にもよるので、詳しくはロースタリーで聞いてみよう。
2. グリーン・コーヒーって何?
コーヒー豆が茶色なのは焙煎しているから。皮をむいて果肉を取り去った生の豆はピスタチオにも似た緑色で、この生豆をグリーン・コーヒーと呼ぶ。一方で、焙煎をせずに生豆で作られたコーヒーをグリーン・コーヒーと呼ぶこともある。このコーヒーは緑茶のような色合いで、焙煎しないことから豆そのものの特徴が分かり、栄養分もそのまま摂取できると一時期話題になった。ただし、コーヒー特有の苦みが全くしないので、コーヒー好きには物足りないかも?
3. ウォッシュドかナチュラルか
ロースタリーから豆を取り寄せると、ウォッシュド、ナチュラルなどの説明書きが付いているが、これは生産者が豆を果実から取り出す精製方法を示したもの。ウォッシュドは水を使って果肉を洗い流す方法で、すっきりとクリアな味わいに仕上がり、豆の味を1番引き出す方法だともいわれている。一方のナチュラルは、果肉が付いた状態で乾燥させる伝統的な方法。ウォッシュドよりフルーティーに仕上がるので、どちらが良いというより個人の好みの問題といえる。
4. シングル・エステートはすごいのか
シングル・エステート・コーヒーやシングル・オリジン・コーヒーは、一つの農園、あるいは一つのエリアで採れたコーヒー豆のこと。そのコーヒー農園ならではの独特の風味を感じることができるうえ、品種や精製方法などについても確実に分かるため品質にぶれが出ない。ではいくつかの産地の豆を混ぜたブレンド・コーヒーは悪いのかといえば、ロースタリーがそれぞれの地域のコーヒー豆が持つ特徴を生かし調合するので、ロースタリーの腕の見せ所ともいえる。
5. 深煎り・浅煎りとは
コーヒー豆の焙煎時間が長いか短いかを表し、長く焙煎する深煎りの豆(ディープ・ロースト)は濃い茶褐色で香ばしい香りと苦みの強い味わいがある。朝しっかり目覚めたいときや食後に適しており、エスプレッソには深煎りが使われる。一方、浅煎りの豆(ライト・ロースト)はこんがりとしたきつね色。焙煎時間が短いので苦みが少なく酸味があり、フルーティーな味わいを楽しめる。ケーキやフルーツとの相性も良い。焙煎の度合いは深~浅8段階ほどある。
6. どっちを買う? 粉と豆
フレッシュなコーヒーを楽しみたかったら、粉よりも豆を買うべき。コーヒーは空気に触れると酸化が始まり劣化していくので、毎朝とは言わずとも2、3日分ずつ挽いていくのが良い。挽いたコーヒーは空気に触れないようしっかり蓋の閉まる容器に入れて、日の当たらないところに保存。もちろん残った豆にも同様のケアが必要だ。ちなみに冷蔵庫は湿気がある上、コーヒーがほかの食品の匂いを吸収してしまうのでお勧めしない。