知っているようで知らない 英国の調味料。
スーパーマーケットの棚に、茶色系の瓶入り調味料がずらりと並ぶ英国。その多くが調理の際に使うものではなく、食べる人が自ら、出来上がった料理に付けたりかけたりする商品だ。その昔、塩やコショウなどが貴重品だった英国では、ゲストを食事に招待した際、客人の前に大盛りの塩が入った器を置くことがもてなしの一つだったという。そんな中世の風習が残ってしまったのかどうかは分からないが、英国では今も、一般家庭ばかりではなく、一定数のレストランのテーブルに塩とコショウ、場所によってはケチャップやビネガーなども並び、各自による味付けのDIYが行われている。この特集では、身近なものから見たことはあるけど使ったことのないものまで、昔から英国で愛されている伝統的な調味料を改めてご紹介。簡単な利用法も記したので、これを機会に手に取ってみてはいかがだろうか。いざ、奥深き英国調味料の世界へ。
(文:英国ニュースダイジェスト編集部)
伝統的な英国の調味料
数ある調味料の中から12の代表的なものを厳選した。どれもスーパーマーケットで手軽に購入できる商品ばかり。
長年培われた英国人の味覚の原点に迫ってみよう。
*価格はTescoのオンライン・ショップを参照(マッシュルーム・ケチャップはWaitrose & Partners)
Bisto
ビスト
1908年の誕生以来、英国で愛され続けている顆粒状グレービー・ソースの素。お湯で溶いてローストビーフやチキン、マッシュド・ポテトなどにかけるほか、カレーや炒飯の隠し味にも良い。「Aah! Bisto」がキャッチフレーズで、伝統的な家庭料理には欠かせない存在。ビーフをはじめ、チキン、ベジタブル味など各種展開している。主成分は小麦粉や片栗粉。
£1.30 / 170g
www.bisto.co.uk
HP Brown Sauce
HP ブラウン・ソース
英国家庭の食卓には必ず1本あると言っても過言ではないブラウン・ソース。パッケージには国会議事堂の絵が描かれており、HPはハウス・オブ・パーラメント(国会議事堂)の略だとされている。トマト、デーツ、タマリンドなどが主成分で、ケチャップの代わりにベーコン・サンドイッチに使うのが英国風。アレンジすればお好み焼き用ソースにも。
£1.00 / 255g
www.hpsauce.co.uk
Oxo Cubes
オクソ・キューブス
煮込み料理にと何かと活躍するストック・キューブは、言ってみればキューブ状だしの素。1910年の発売以来、なくてはならない存在として、各家庭で重宝される定番商品になった。ハーブ、スパイス、粉末グレービー、小麦などが原料で、オリジナルのビーフ味以外にも、チキン、ベジタブル、ハム、ラムがあり、減塩バージョンやグルテン・フリー・タイプも存在する。
£1.30 /12個(71g)
www.oxo.co.uk
Worcestershire Sauce
ウスターシャー・ソース
日本でいうウスター・ソースの原点となるのがこの商品。1837年に英中部ウスターシャーの薬剤師2人によって生み出された。主な原料はモルト・ビネガー、野菜や果物のほかに、各種スパイス、タマリンドやアンチョビも使われている。英国ではチーズ・トーストに振りかけるのが定番。カレーの隠し味やハンバーグを練りこむ際に使うとコクと深みが加わる。
£1.70 / 150ml
www.leaandperrins.co.uk
Maldon Sea Salt
マルドン・シー・ソルト
英南東部エセックスで200年以上にわたり生産されているフレーク状の塩。今も海水を平窯で煮詰める伝統的な製造法を守っている。使う際は、料理中に食材に混ぜ込むのではなく、食べる前の一振りに使うのが効果的。ステーキやサラダなどにかけることで、マイルドな旨味やサクサクした食感が楽しめる。スモークド・ソルトもあり、こちらは魚介類に。
£2.10 / 250g
www.maldonsalt.co.uk
Salad Cream
サラダ・クリーム
サラダ・クリームは1914年に英国で生まれた、他国ではあまり見かけない調味料。味としてはマヨネーズとドレッシングの中間に位置し、砂糖やマスタードが多く含まれている。英国ではサラダ・ドレッシングというよりも、サンドイッチに塗るものとして位置づけられており、卵サンドの際にマヨネーズの代わりに入っていることが多い。
£2.00 / 425g
www.heinz.co.uk
Colman's Mustard
コールマンズ・マスタード
1814年に英東部ノリッジで創業したコールマン社の粉末マスタード。原料となるマスタードの種は近隣のからし菜栽培農家が手掛ける。利用方法はそのまま肉やハム、サラダなどに振りかけるほか、自家製マスタードを作りにも。同社の瓶やチューブ入りイングリッシュ・マスタードには、21パーセントの粉マスタード、小麦粉、ターメリック、水などが加えられている。
£1.35 / 57g
www.colmans.co.uk
Malt Vinegar
モルト・ビネガー
1794年にロンドン東部ショーディッチで創業したサーソン社が作り続ける、麦芽を原料にした茶色いビネガー。フィッシュ&チップスにたっぷりかける、英国らしい調味料として、国内外に定着している。通常の酢よりまろやかでコクがあり、フライや炒め物などに似合う。ピクルド・オニオン(小玉ねぎのピクルス)、コールスローを作る際にも活躍。
£0.80 / 250ml
www.sarsons.co.uk
Mushroom Ketchap
マッシュルーム・ケチャップ
ケチャップの歴史は非常に古く、中国の魚を発酵させて作った調味料「ケ・ツィアプ」が元祖。17世紀に欧州に渡ってケチャップになり、魚介類だけではなくきのこや果物のケチャップも登場した。マッシュルームはもっともポピュラーで、ヴィクトリア朝の英国で重要な調味料の一つとなった。ウスター・ソースに似ており、パイやローストの隠し味に使われる。
£1.35 / 190ml
www.geowatkins.com
Piccalilli
ピッカリリ
調味料というより保存食の一種であるピッカリリは、英国らしからぬ名前と不穏な色合いを持った野菜のピクルス。植民地時代に南アジアのピクルスが英国に伝わり、アレンジされ定着した。主な具材はカリフラワー、小玉ネギ、ガーキンで、マスタードとターメリックが入り酸味も強い。次で述べるブランストン・ピックル同様、パンやハムのお供に。
£1.90 / 400g
www.haywardspickles.co.uk
Branston Pickle
ブランストン・ピックル
ニンジンや玉ねぎなどを細かく刻んだ野菜のチャツネ。モルト・ビネガーやトマト・ピューレー、デーツ・シロップなどで甘酸っぱく味付けされている。チーズ・サンドイッチとの相性が良く、英国らしい味わい。1922年に英中部スタッフォードシャーのメーカー、ブランストンで発売されて以来、変わらぬレシピで英国の定番になった。
£1.50 / 360g
bringoutthebranston.co.uk
Marmite
マーマイト
塩分が強く独特の臭気があることで、英国人でも好き嫌いがはっきり分かれるマーマイトは、ビールの醸造後に残る酵母を使った食品。トーストやクラッカーに伸ばして食すほか、スープに溶かすなどの利用法もある。ビタミンB12成分が高く、認知症の予防に良いと言われることも。また、近年ではベジタリアン食品としての需要が高まっているという。
£2.69 / 250g
www.marmite.co.uk
英国式・世界の調味料
自国の食を自慢することが少ない代わりに、英国人たちが誇るのが、この国では世界各国の味に出合えるということ。このページでは、アジアから中近東、アフリカまで、英国で作られている世界の伝統的な調味料をご紹介する。
Belazu Rose Harissa
ハリッサ
モロッコやチュニジアなど北アフリカで日常的に用いられる唐辛子ペースト。クスクスやタジン鍋の際に添えて食す。本品は、パプリカやガーリック、バラの花びらなども入ったマイルドな辛味で、バーガーや卵料理、ヨーグルトと和えてマリネ液にするのも良い。1991年に2人の幼なじみが立ち上げた、オリーブ・オイルの輸入会社から発展し、今や大手スーパーも扱う食品メーカーに。
£4.35 / 170g
www.belazu.com
Red Kimchi
キムチ
ロンドン東部レイトンで手作りされているキムチ。ピクルスや発酵食品作りに対する愛が高じ、ダルストンの自宅で手作りキムチ教室を開催していたというジェームズさんが、友人からのリクエストに応える形で自身のキムチを商品化。「食のオスカー」とも言われる権威あるグレート・テイスト・アワードで星2つを獲得した。ロンドン東部の野外マーケットやオンラインで購入可能だ。
£6.00 / 350g
www.shedletskysdeli.com
Jerk Barbeque Sauce
ジャーク・ソース
カリブ海の島国ジャマイカの郷土料理、ジャーク・チキンを作るためのスパイシー・ソース。主原料はオールスパイスや唐辛子スコッチボネットで、チキンだけではなくポークや海老などにも合う。バーベキューの際に人気の1本となりそうだ。英国生まれのブラウン氏が、ジャマイカ出身の母親の味を基にジャーク・ハウス・シリーズを編み出した。
£6.00 / 555g
www.marshallandbrown.co.uk/the-jerk-house
Organic Tahini
タヒニ
塩分ゼロのヘルシーなギリシャ風白ゴマ・ペースト。通常のものより香ばしさが感じられるのは、ゴマを石臼でひく前に丁寧に炒っているから。中東料理のフムスやファラフェル作りはもちろんのこと、練りゴマとして扱えば和風、中華風とさまざまに使える。元教師のイリアナさんがギリシャ人の祖母の故郷を旅したことが商品開発のヒントになった。
£3.99 / 350g
www.grecious.co.uk
VFISH Fishless Fish Sauce
フィッシュ・ソース
昨年発売されたばかりの、魚介類が全く入っていない、昆布とワカメが原料のヴィーガン用フィッシュ・ソース。醤油、米酢をベースに、トマト・ペースト、シイタケなども使われているので旨味成分が強く、日本食との相性もよさそうだ。英南西部ポーツマスのクラフト系チリ製品を扱うショップが開発したもので、ヴィーガンでなくとも満足できそう。
£5.99 / 150ml
onestopchillishop.co.uk/product/vfish
マヨネーズ・ブームの謎
ここ数年、英国ではマヨネーズ・ブームが続いているという。「英国人の1番好きな調味料」のランク付けで初めて、トマト・ケチャップを抜いてトップの座に躍り出たのが2017年。同年の調査記録によれば、ケチャップの売り上げが2.7パーセント低下したのに比べ、マヨネーズのそれは6.9パーセントも増加。
専門家によると、この変化は英国人の味覚が昔ながらの調味料から新しいテイストへと移行していることの表れだという。消費者がペリペリ・ソースやチリ・チャツネなどの、味によりパンチがある珍しい商品に目を向けるにつれて、ケチャップの売り上げが低下。
一方でマヨネーズは原材料にフリーレンジの卵を使い、人工着色料や防腐剤を除去するといった方法で健康志向の消費者を取りこんだほか、さまざまなフレーバーの商品も開発されるなど、より魅力的な商品になっていったのが原因だそう。