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Fri, 19 April 2024

映画監督・映像作家 関根光才さん

関根光才
KOSAI SEKINE 1976年東京生まれ。映画、広告映像、ミュージック・ビデオ、インスタレーション・アートなどをベースとした映像の演出を手掛ける。2005年に短編映画「RIGHT PLACE」でカンヌ国際広告祭のヤング・ディレクターズ・アワードにてグランプリを受賞。また2011年の福島原発事故を受け発足した、アートプロジェクト「NOddIN(ノディン)」に参加するほか、2018年秋には初の長編劇場映画監督作品となる「生きてるだけで、愛。」や長編ドキュメンタリー映画「太陽の塔」が公開される。

ローカルであると同時に
コスモポリタンな表現を

様々な映像作品を手掛けてこられた関根監督ですが、今回の「生きてるだけで、愛。」が初の長編劇場映画監督作品ですね。しかも、日本に先駆け、レインダンス・フェスティバルがワールド・プレミアとのこと。この作品に対する思い入れなどお聞かせいただけますか。

長編映画はずっとやりたかったことなので、ともかく映画が完成して皆さんにお披露目できることが何よりも嬉しく、また同時にやっとスタート・ラインに立ったという思いです。映画は世界の様々な環境や地域で作られていますが、それぞれの文化性や独自の価値観があってこそユニークになるもの。その意味でローカルであることは大事ですが、それだけではダメで、同時に普遍的でコスモポリタンなテーマでないといけないと思っています。このような点から、日本独自の空気の中で、もがきながら生きる若者たちの葛藤を描いた「生きてるだけで、愛。」も、主人公たちのストーリーのなかで見えてくるテーマは普遍的なもので、世界各地で形は違えど人間の心の奥底にあるものだと思います。レインダンス・フェスティバルでこの映画を見て頂く皆さんにも響くものであることを祈っています。

今回、劇作家で女優でもある本谷(もとや)有希子さんの小説「生きてるだけで、愛。」を映画化しようと思ったきっかけは何だったのでしょう。

本谷さんの書く文体は非常に独特。「人間味」を煮詰めてそのインクで文章を書いているような濃いものです。なかでも、初期の作品である本作は、若いころの彼女の疾走感に満ちていて、そのエネルギーに魅了されました。彼女の小説自体は、若いときの社会に対する恨みや罵詈雑言を書き殴っている感じで、それがある種のキュートなコメディーになっているのですが、僕はそれを、近代社会のシステムを破壊し突き抜けようとする、人間の生命力だとか狂おしい情念というものに転化させて、大人の人間劇として描きたいなと思い、そのアプローチがプロデューサーの甲斐さんの意見と一致し、映画化をオファーしたのです。

監督はCM製作を経て、アートプロジェクト「NOddIN」、ドキュメンタリー「太陽の塔」など、社会や政治にダイレクトに関わる作品を作っておられますね。今回の「生きてるだけで、愛。」は、それとはうって変わって、個人の内面へと向かった作品のように見えますが。

そうですね、例えばアート作品にまつわる長編ドキュメンタリー「太陽の塔」とは180度違う映画に感じられるかもしれません。「太陽の塔」は非常に思索的で、哲学的で、情報量も多くビジュアリゼーションに富んだ映画です。その内容は人間とアートとか、現代社会の構造への疑問、果ては宇宙観にまで発展する「マクロ」な映画です。対して「生きてるだけで、愛。」は、非常にパーソナルで、内面的で、「ミクロ」なものです。取るに足らないあるカップルのささいな出来事をテーマにしているように思えますが、実はこの2作品は共通することが無いとは言えないのです。「生きてるだけで、愛。」の主人公たちの、身につまされるような痛々しいエピソードや状況は、やはりこの現代社会からもたらされた抑圧の結果であって、双方ともに、この抑圧的な状況に抗う、あるいは抗うべき人間の姿をテーマにしていると僕は思っているのです。その中で、マクロは個人の内面を問うミクロに達し、ミクロは愛そのものを問うマクロに達します。実は遠いところで繋がっていると、言えなくもないのだと思います。

過去の各紙インタビューで、「作る前のコンセプトを明確にする」「自分の作品の作り方はアイデア・ベース」とおっしゃっていますが、次回作は決定していますか。今後どのような作品を作っていきたいですか。

次回作はまだ決まっていません!アイデアはいろいろとあるのですが、自分の性格上どうも壮大なテーマを扱う傾向にあり、つい巨大なアイデアを考えてしまうので、もう少し小さい規模のものから始めようと考えています。僕は新しい発想や切り口で、「人間とはいったい何なのか」を問いかけるような映画が好きなので、そういったアプローチの作品を作り続けたいと思っています。

好きな映画監督、映像アーティストは誰でしょうか。

たくさんいますが、ヴィム・ヴェンダース、テオ・アンゲロプロス、エミール・クストリッツァ、クシシュトフ・キェシロフスキ……なかなか現代の監督がいませんね(笑)。映像アーティストだと、アピチャッポン・ウィーラセタクン*はすごく刺激的ですよね。日本だとなかなか目にする機会がないのですが。あとは、昔グレゴリー・コルベール**が撮った「Ashes and Snow」は展示の仕方も含めてすごく圧倒されました。

*タイ出身の映画監督・映像作家。「ブンミおじさんの森」で 2010年のカンヌ映画祭パルムドールを受賞
** カナダ出身の映像アーティスト。自らの写真・映像展「Ashes and Snow」のためにノマディック(移動式)美術館も制作した

ロンドン滞在中に特に行きたいところ、やってみたいことはありますか。

旧友に会いたいなと思っています。あとは、昔ロンドンのレバノン料理屋に行ったらローカルのカラオケ大会に巻き込まれて大騒ぎになり、すごく笑える経験をしたので、チャンスがあればもう一度行ってみたいですね。

関根光才監督作品「生きてるだけで、愛。」が
レインダンス・フィルム・フェスティバルで上映

生きてるだけで、愛。監督: 関根光才
出演: 趣里、菅田将暉、仲里依紗ほか

9月26日~10月7日にロンドンで開催の、レインダンス・フィルム・フェスティバル。インディペンデント作品の発掘に力を入れる同フェスティバルで関根監督の「生きてるだけで、愛。」(英題「Love At Least」)も上映されている。

 

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