ロンドンのゲストハウス
Sat, 25 November 2017

岐路に立つ英国の森林問題
いま、を考える

英国にはロビン・フッドの伝説を始め、森林を舞台にした物語がいくつも存在する。だが現在の森林面積は国土の13%に過ぎず、世界190カ国中135番目の広さだという。16~17世紀には欧州諸国に材木を輸出していたことさえあり、緑豊かだった英国。しかしその後、戦争や産業革命のために乱開発が起き、多くの森が失われた。現在、英国に残された森林はどのような状況にあるのか。森林の所有権に関する法律Charter of the Forest(森林憲章)の制定800年を迎えた今年、天然林を中心に英国の森林問題を見てみよう。(参考: www.woodlandtrust.org.uk

Woodland

Ancient Woodland(天然林)とは

英国で植樹により人工的に森林を作るという考え方が出てきたのは17世紀以降。そのため、1600年(スコットランドは1750年)以前にできた森はすべて自然に作られたものと考えられる。森林には樹木はもちろん、生物や土壌が存在しており、その土壌には森が自然発生した当時からの数百年以上に及ぶ貴重な情報が蓄積されている。そのような情報は一度失えば元に戻らないが、天然林は1930年代からその数を半数に減らし、現在、その面積は国土の2%だという。

危機に瀕する天然林

現在、英国では700以上もの天然林が破壊の危機に瀕していると言われる。ここではどのような問題が起きているかを紹介する。

地球温暖化

1970年代と比較し、中央イングランドの年間平均気温は1度上昇しているという。これにより森林の生態系には変化が見られ、渡り鳥の飛来時期や楢の発芽期が早まっていることが調査から分かっている。そして今まで英国に生息していなかった外来の昆虫や害虫が、温暖化により生き延びるのが可能になったことが問題視される。また、暖かく乾いた夏の気候が、天然林の存続に必要な湿った土壌を乾燥させてしまうことも懸念の一つとなっている。

害虫

2013年、松くい虫病の原因となるマツノマダラカミキリとマツノザイセンチュウが英国で初めて発見された。中国からの木製の椅子に巣食っていたという。害虫は輸入木材に付着して運ばれてくることが多く、イングランド南部ケントのパドック・ウッドでは、数十の樹木がツヤハダゴマダラカミキリの被害に遭い、大発生を抑えるために数千本の木が伐採された。このときは中国から輸入された石版を包んだ木製の梱包材が原因だった。

住宅の建設

2016年、キャメロン政権時に制定された住宅計画法は、イングランドとウェールズの住宅難緩和のため、2020年までに100万戸の住宅を建設するというもの。既に開発された土地(brownfields)であれば、一定の基準の下で住宅建設許可が下りるという、手続きのスピード・アップを図った法だ が、元来、住居のみでは生活環境として成立しない。学校、病院、道路、店舗などが併せて必要となってくるため、結局、周辺地域も開発されることになる。

鉄道の敷設

ロンドン・ユーストン駅とバーミンガムを繋ぐ、高速鉄道路線HS2(ハイ・スピード・ツー)の第1路線(Phase 1)建設計画が2012年に承認され、今年2月に法が発効した。この路線が2026年に開通することによって34の天然林が直接的な被害を被り、29が何らかの影響を受けるという。更に、現在計画中のリーズやマンチェスター方面に延びる第2路線(Phase 2)が実現すれば、20の天然林が被害を、15が影響を受けることになる。

高速鉄道路線HS2

森林保護のための活動

英国で森林保護のために活動するグループはいくつもあるが、最もよく知られている保護団体に、全国に50万人のメンバーとサポーターを持つ大規模なチャリティー団体ウッドランド・トラスト(Woodland Trust)がある。この団体は1972年、引退した農夫のケネス・ワトキンス氏とその妻、友人たちによって始められた。「保護する、復活させる、生み出す」の3つの柱を基本に、危機に瀕している樹木や森林を救う様々な運動を展開している。

ウッドランド・トラストの活動の3本柱

森林を救うためにウッドランド・トラストが行っている事柄について紹介する。

保護する

  • 単にインフラ整備の必要性を否定するのではなく、森林の損失と被害を避け、森林の価値を尊重するような開発プロジェクトを進めるよう、政府や地方自治体、開発業者に提言する。
  • 害虫や病気は、森林だけではなく、公園、庭園、畑や牧草地など、英国の景観にも影響する。それゆえ、樹木の健康を観察し、害虫や病原体から樹木を保護するために他機関とも協力。行政機関である森林委員会の研究機関「フォレスト・リサーチ」と共同で研究プロジェクト「オブザーバトゥリー」を行うなど、広範にわたる活動を展開している。
  • その土地の景観や歴史の一部となっている、生きた記念碑のような存在である老齢の樹木の保護を行う。そうした樹木は地方自治体や開発業者には価値を正しく認識されていないことがあり、地域開発の際などに取り除かれる危険がある。

復活させる

  • 天然林は非常に数少なくなっているのに加え、現在、残っている天然林の多くも、元々は英国になかった針葉樹が植えられていたり、外来種の植物が定着するなどしている。これを、本来、天然林にあるべき姿に復元するため、土地所有者と緊密な協力体制をとり、森林を管理する。樹木や土壌の様子を見つつ適度な太陽光を当てることで、在来種の種を発芽させ、これまで受けた被害から天然林を復活させる。
  • ウッドランド・トラストは所有地で森を育成している。この森は天然林を復活させるための実験場として存在し、様々な状況での復元に対応できるよう調査している。自分の森林を復活させたいと考える土地所有者へのアドバイスも行う。

生み出す

  • 天然林や野性生物の豊富な地域の周りに植樹をし、近隣の土地開発からの直接的な被害を緩和させる。これまでに3807万8206本の植樹が行われた。
  • 学校や企業、地域コミュニティーに苗木を提供。すべての苗木は英国自生のもので、害虫や病害の輸入と拡散の危険を最小限に抑えるために栽培されている。また、種子を収集・保管し、個々の樹木を追跡できるようにすべてコード化、バッチ処理している。今後10年間で、6400万本の植林を目指す。
  • 農場や私有地に多くの木を植えたいと思っている人へのアドバイスや資金援助、苗木提供などを行う。
  • ウッドランド・トラストのサイトでは、個人向けに苗木を1本から販売している。ガーデン用、垣根用など用途に応じて選ぶことができる。

ancient wood

森林と人の関わりにおける変化

1217年

森林憲章「Charter of the Forest」
ヘンリー3世が施行

「Charter of the Forest」(森林憲章)は 1217年11月6日、今からちょうど800年前にヘンリー3世によって施行された、森林の所有権に関する法律。「forest」はここでは森だけではなく、原野、草原、沼地、及び、そこから得られる食糧、燃料などあらゆる資源を含む。それまですべての森林は王室の所有とされ、国民が勝手に利用することは禁じられていたが、この画期的な法律により、一部の森林を除き、一般市民(freemen)も森林の資源から利益を得られるようになった。

森林憲章1225年再販の「森林憲章」(British Library所蔵)

同憲章は、1215年にジョン王によって制定された憲章マグナ・カルタを補充するものであり、イングランド国王の権利を制限した法律の一つとされる。現在ではあまり知られることはないが、一部では、制定当時はマグナカルタよりも大きな影響を国民に与えたのではないかとの意見もある。

当初は一般市民を救済する非常に優れた法律と思われた森林憲章だったが、ときを経るにつれ次第にその基本となっていた考えが崩れ始め、森林という天然資源を商業的に利用する際の制度でしかなくなってしまった。この法律は1971年に廃止されるまで存在した。

森林の銅版画18世紀に描かれた森林の銅版画

2017年

市民による森林保護宣言
森林と人々のための新しいガイダンス
「Charter for Trees, Woods and People」

2017年11月6日、森林憲章が施行されてちょうど800年目のこの日、森林に関する新しいガイダンスが提示される。これは、英国の森林保護団体ウッドランド・トラストを始めとした、複数のセクターにまたがる70を超える組織が共同で編み出した森林保護に関する宣言で、いわば国民の側から提出された新しい森林憲章とも言えるだろう。ここでは森林の重要性が訴えられ、森林が人々の健康や幸せ、子供の成長に必要であることなどが記されている。

現存する2点の森林憲章のうち1点が現在、イングランド東部のリンカン城に保管されている。6日には、その1点が「Charter for Trees, Woods and People」の発表を記念し制作された木彫りの記念碑とともに展示される。

樹齢800年以上の楢の木樹齢800年以上の楢の木

都市の中の小さな天然林
Queen’s Wood クイーンズ・ウッド

ルーシー・ルーツロンドン北部ハイゲート駅に隣接するクイーンズ・ウッドは21ヘクタール(約21万平方メートル)の天然林で、市民の散策の場として人気が高い。自然保護地区に登録されており、小さいながら手入れの行き届いた気持ちの良い森だ。管理者はハリンゲイ・カウンシルだが、日々こまめに森の世話をするのは、ボランティアの住民団体フレンズ・オブ・クイーンズ・ウッド(FQW)のメンバー。今回は、この森で開催されたガイド・ウォークに参加し、イベントを主催したFQWの委員の1人、ルーシー・ルーツさんに話を伺った。

クイーンズ・ウッド

フレンズ・オブ・クイーンズ・ウッドのメンバーは何人くらいいますか。

この付近に住む200軒近くのご家庭がメンバー登録されています。ただ、積極的に活動しているのは40~50人でしょうか。それでもほかの同様の団体に比べれば、かなり人数は多い方だと思います。

どのような活動をされているのでしょう。

地元の方に自分たちの森をよく知ってもらうため、今回のようなガイド・ウォークを定期的に開催しています。樹木や鳥、コウモリ、植物、キノコなど、季節に合ったテーマを設定しますね。ゴミ箱やベンチなどの設置や手入れも私たちが行っています。毎月1回、ゴミ拾いの日もありますよ。

Queen's Wood

森を楽しむのに一番良い時期はいつでしょう。

どの季節にもそれぞれの良さがありますよ!冬は雪景色、春は植物が奇麗だし、秋は紅葉。季節の移り変わりを見ることも楽しみの一つではないでしょうか。

カウンシルとはどのように連携しているのですか。

カウンシルの自然環境保護員と一緒に、区の管理計画に沿って森の世話をしています。樹木の定期的な剪定や、考古学的な研究、動植物の調査といった大きなプロジェクトがあるときは、その手助けや、手配などを受け持ちます。

Queen’s Wood クイーンズ・ウッド

クイーンズ・ウッドは、かつてロンドンやハートフォードシャー、エセックスを覆っていたというミドルセックスの森(Forest of Middlesex)の一部。300種類以上の花やシダ類が生息し、調査によると、キツツキ、ミソサザイ、キクイタダキといった、都市ではなかなか見ることのできない種を含む、25種類の鳥類が確認されている。また、139種の蜘蛛、234種類の甲虫も住むという。
Muswell Hill Road, London N10 3LD 最寄駅: Highgate

Queen's Wood

 
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