音楽好きでなくても一度は行ってみたいと
憧れてしまう音楽の祭典、プロムス。
世界有数のオーケストラや音楽家たちが集結することに加え、
クラシックやジャズ、ポップスなどの垣根を取り払った
懐の深いプログラム構成や、その年ごとに旬のテーマを設ける
柔軟性が毎年大勢の人たちを惹きつけてやまない理由の一つだろう。
約2カ月にわたって連日行われる珠玉のコンサートの数々、
今年はどれに行ってみる?
www.bbc.co.uk/proms
音で堪能するシェイクスピア
シェイクスピア没後400年関連
今年は英国の誇る劇作家ウィリアム・シェイクスピアの没後400年ということで 一年を通じて関連行事が各地で開催。もちろん、プロムスも例外ではない。今年は例年以上に、シェイクスピアの戯曲に着想を得て作曲された曲が演奏される プロムが盛りだくさん。音で味わうシェイクスピアもまた、格別だ。
Prom 7
Faure, Stravinsky and Poulenc
仏劇作家エドモン・アロクールが「ベニスの商人」を基に執筆した喜劇「シャイロック」のために仏作曲家フォーレが曲を付けた付随音楽が演奏される。強欲なユダヤ人の金貸しの名前が付けられているが、抒情的なメロディーが印象的な作品だ。同プロムでは20世紀初期のパリの音楽に着目。このほか、ストラビンスキーが20世紀初期にパリで人気を博したバレエ団バレエ・リュスのために作曲したバレエ組曲「プルチネルラ」などが披露される。
7月20日(水)19:30
フォーレ「シャイロック」 ストラビンスキー「バレエ組曲『プルチネルラ』」ほか
ソプラノ: ジュリー・フックス
BBC交響楽団ほか
指揮: マルク・ミンコフスキ
Prom 16
Prokofiev – Romeo and Juliet
現在、ウェスト・エンドでケネス・ブラナー・シアター・カンパニーによる舞台版が上演されている「ロミオとジュリエット」。プロコフィエフ作のドラマティックなバレエ音楽はドラマやCMでもよく使われ、クラシック音楽通でなくとも誰もが耳にしたことがあるはず。仏作曲家デュカスによる「ラ・ペリ」は、バレエ・リュスから依頼を受けて作曲された、ペルシャの妖精ペリをテーマにしたバレエ音楽。金管楽器の華やかな音色が耳を楽しませてくれる。
7月27日(水)19:00
プロコフィエフ「ロミオとジュリエット-抜粋」
デュカス「ラ・ペリ-ファンファーレ、ポエム・ダンス」ほか
バイオリン: クロエ・ハンスリップ
BBC ウェールズ交響楽団
指揮: ヤク・ファン・ステーン
Prom 28
National Jazz Orchestra of
Scotland
1957年にジャズ界の大御所デューク・エリントンが発表した「Such Sweet Thunder」は、シェイクスピアの「夏の夜の夢」の一節から取られたタイトルからも分かる通り、シェイクスピアの戯曲に着想を得て作られた12曲から成るアルバム。夜10時過ぎから始まるこのレイト・ナイト・プロムでは、ナショナル・ユース・ジャズ・オーケストラ・オブ・スコットランドやサクソフォニストのイアン・バラミーらの演奏による洒脱なジャズの調べでシェイクスピアの世界を垣間見ることができる珍しい機会だ。
8月5日(金)22:15
サクソフォン: イアン・バラミー
ナショナル・ユース・ジャズ・オーケストラ・オブ・スコットランドほか
指揮: アンドリュー・ベイン
Proms at …
Sam Wanamaker Playhouse, Shakespeare's Globe
ロンドンにおけるシェイクスピア劇の中心地と言えるのがサウスバンクに位置する劇場シェイクスピアズ・グローブ。その一角にある屋内劇場、サム・ワナメイカー・プレイハウスで、王政復古期演劇の音楽を楽しむことができる。「アテネのタイモン」や「テンペスト」、「夏の夜の夢」を基にした「妖精の女王」など、パーセルやロックといった作曲家たちがシェイクスピアの戯曲から想像力を膨らませて生み出した曲の抜粋を、本物のろうそくの火が灯された小さな空間で堪能しよう。
8月13日(土)15:00 & 20:00
パーセル「妖精の女王」(抜粋)
ロック「テンペスト」(抜粋)ほか
アルカンジェロほか
演出 / ハープシコード / オルガン: ジョナサン・コーエン
Prom 44
Shakespeare: Stage and Screen
シェイクスピアの舞台や映画に焦点を当てたプロム。前半はウォルトンが音楽を手掛けたローレンス・オリヴィエ監督・主演映画「リチャード3世」の前奏曲を始めとする英作曲家の手による曲が演奏される。後半は「ロミオとジュリエット」を基にしたバーンスタイン作曲の「ウェスト・サイド・ストーリー」から「シンフォニック・ダンス」、劇中劇で「じゃじゃ馬ならし」が使われるポーター作詞作曲のミュージカル「キス・ミー・ケイト」の抜粋など米作曲家の作品が並ぶ。
8月18日(木)19:30
ウォルトン「リチャード3世-前奏曲」
フィンジ「組曲『恋の骨折り損』」ほか
BBC コンサート・オーケストラ
指揮: キース・ロックハート
Prom 55
City of Birmingham Symphony Orchestra and
Mirga Gražinytė-Tyla
「ハムレット」において、狂気を装うハムレットに翻弄される恋人のオフィーリア。デンマーク出身の作曲家エブラハムセンがソプラノ歌手バーバラ・ハニガンのために作曲し、作家ポール・グリフィスが戯曲内のオフィーリアの台詞のみを使ってその胸の内を語らせた自身の短編小説を基に作詞したという新作「レット・ミー・テル・ユー」がロンドン・プレミアを迎える。タクトを振るのは、9月からバーミンガム市交響楽団の音楽監督となるミルガ・グラジニーテ=ティーラ。
8月27日(土)19:30
エブラハムセン「レット・ミー・テル・ユー」
チャイコフスキー「交響曲第4番 ヘ短調」ほか
ソプラノ: バーバラ・ハニガン
バーミンガム市交響楽団
指揮: ミルガ・グラジニーテ=ティーラ
プロムスはクラシックだけにあらず!?
他ジャンルとの融合
プロムスでは正統派クラシックはもちろんのこと、ジャズやポップス、ミュージカルなど他ジャンルのミュージシャンによるプロムや、人気の子供番組やテレビ・ドラマをテーマにしたプロムなど、柔軟でユニークなプログラムも目立つ。ここでは異種混合とも言えるこれらのプロムに注目。
Prom 8
Strictly Prom
BBCの社交ダンス番組「ストリクトリー・カム・ダンシング」で2015年にファイナルまで進んだ人気ニュースキャスターのケイティ・ダラムが再び登場! ケビンとジョアンのクリフトン兄妹にケビンの妻カレンなどかつて番組を盛り上げたプロ・ダンサーらとともに、ワルツからタンゴまで幅広いダンスを披露する。演奏はBBC コンサート・オーケストラ、指揮を務めるのはイングリッシュ・ナショナル・バレエの音楽監督ギャビン・サザーランド。
7月21日(木)19:30
BBC コンサート・オーケストラほか
指揮: ギャビン・サザーランド
Prom 19
David Bowie Prom
今年1月に69歳で死去したミュージシャン、デービッド・ボウイの偉業を偲ぶプロム。独ベルリンを拠点に、ジャンルを超えた音楽活動を行うミュージシャン集団「s t a r g a z e」とその音楽監督アンドレ・デ・リダーが、ボウイへの弦楽トリビュート・アルバムを作ったジェレク・ビショフとアマンダ・パーマーらをゲストに迎え、ボウイが生み出した音楽を新たに蘇らせる。ボウイ関連のコンサートは数あれど、プロムスならではのユニークさが光る一夜となりそうだ。
7月29日(金)22:15
s t a r g a z e
指揮: アンドレ・デ・リダー
Prom 32
Esa-Pekka Salonen conducts
Schoenberg, Dutilleux and Mahler
第二次大戦の傷跡を音楽で表現する一夜。大戦時のワルシャワで生き延びたユダヤ人男性の思いを、シェーンベルクがたった8分に凝縮させた「ワルシャワの生き残り」は、英国を代表する舞台俳優の一人、サイモン・ラッセル・ビールをナレーターに迎える。「時の影」は仏現代作曲家デュティユーが、ナチス・ドイツの強制収容所で命を落としたユダヤ系ドイツ人の少女アンネ・フランクの日記に着想を得て作曲した作品。そのほか、マーラーの「交響曲第一番 ニ長調」も演奏される。
8月8日(月)19:30
デュティユー「時の影」
マーラー「交響曲第一番 ニ長調」ほか
ナレーター: サイモン・ラッセル・ビール
フィルハーモニア管弦楽団ほか
指揮: エサ=ペッカ・サロネン
Prom 36
Jamie Cullum Prom
2010年にプロムス・デビューを果たしたジャズ・シンガーのジェイミー・カラムが再びロイヤル・アルバート・ホールに戻ってくる。ジャズをベースにポップス、ロックなどを取り入れて独自の世界を構築するカラムは今回、歌に焦点を当て、自分自身が作曲した曲のみならず、自らの感性で選んだ曲も合わせて披露するという。ヘリテージ・オーケストラとラウンドハウス・クアイアのほか、音楽界の新たな才能を発掘するラジオ番組「BBC ミュージック・イントロデューシング」出身者も参加する予定。
8月11日(木)22:15
ピアノ / ボーカル: ジェイミー・カラム
ヘリテージ・オーケストラほか
指揮: ジュールズ・バックリー
世界のクラシック音楽ファン垂涎
大御所 & 注目の音楽家たち
ユニークなプログラムが目立つとはいえ、世界最大級の音楽祭、やはりクラシックの王道のプロムは外せない。今年の目玉と言えるのが、サイモン・ラトル率いる ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と、ダニエル・バレンボイムが音楽監督を務めるベルリン国立歌劇場管弦楽団。前売りチケットが売り切れの場合でも、当日券にチャレンジを。
Prom 64 & 66
Berlin Philharmonic and Sir Simon Rattle
–
Boulez and Mahler
Berlin Philharmonic and Sir Simon Rattle
–
Julian Anderson, Dvořák and Brahms
来年からロンドン交響楽団の音楽監督となるサイモン・ラトルが、自身が現在、音楽監督を務めるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と登場する2夜。プロム64では、今年1月に世を去った仏作曲家 / 指揮者ブーレーズの「エクラ」に続き、マーラーの数ある交響曲の中でも最も先鋭的であるとも言われる「交響曲第7番ホ短調」が、プロム66ではブラームスの「田園交響曲」とも呼ばれる「交響曲第2番ニ長調」やドボルザークの「スラブ舞曲」などが演奏される。
Prom64
9月2日(金)19:00
ブーレーズ「エクラ」
マーラー「交響曲第7番ホ短調」
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮: サイモン・ラトル
Prom 66
9月3日(土)19:30
ドボルザーク「スラブ舞曲」
ブラームス「交響曲第2 番 ニ長調」 ほか
ベルリン・フィルハーモニー 管弦楽団
指揮: サイモン・ラトル
Prom 67
Simón Bolívar Symphony Orchestra
and Gustavo Dudamel
今年はブラジルのリオで五輪が開催されるということで、プロムスでも南米の曲や音楽家をフィーチャー。その中でも特に注目されるのが、ベネズエラ出身の若手指揮者グスターボ・ドゥダメル率いるシモン・ボリバル交響楽団だ。3回目のプロムス参加となる今回は、ブラジル出身で南米を代表する現代音楽家と言われるビラ=ロボスの代表作で、J・S・バッハの音楽様式とブラジルの民族音楽を融合させた「ブラジル風バッハ第2番」や、ベネズエラ人作曲家ドゥゼンヌの作品などが演奏される。
9月4日(日)15:45
ビラ=ロボス「ブラジル風バッハ第2番」
ラベル「ラ・バルス」ほか
シモン・ボリバル交響楽団
指揮: グスターボ・ドゥダメル
Prom 69 & 70
Staatskapelle Berlin and Daniel Barenboim
– Mozart and Bruckner
Staatskapelle Berlin and Daniel Barenboim
– Mozart and Bruckner
プロムスの常連で、イスラエル国籍を持つユダヤ人指揮者として、パレスチナ問題などの政治問題にも積極的に声を上げる大御所ダニエル・バレンボイムが2夜連続で登場。自身が音楽総監督を務めるベルリン国立歌劇場管弦楽団とともに、モーツァルトとブルックナーを奏でる。今年2月には日本でブルックナーの交響曲全9曲を演奏した彼らだが、プロム69で「交響曲第4番 変ホ長調『ロマンティック』」を、70では「交響曲第6番 イ長調」を披露する。
Prom 69
9月5日(月)19: 30
モーツァルト「ピアノ協奏曲第24番 ハ短調K.491」
ブルックナー「交響曲第4番 変ホ長調『ロマンティック』」
ベルリン国立歌劇場管弦楽団
指揮: ダニエル・バレンボイム
Prom 70
9月6日(火)19:30
ドボルザーク「スラブ舞曲」
モーツァルト「ピアノ協奏曲第26番 ニ長調 K537『戴冠式』」
ブルックナー「交響曲第6番 イ長調」
ベルリン国立歌劇場管弦楽団
指揮: ダニエル・バレンボイム
2カ月の最後を締めくくるお祭り騒ぎ
プロムス最終夜
歌手が仮装!? 口笛が鳴り響く!? ―― 2カ月にわたり続いたプロムスの最後を飾るのは、クラシック・コンサートとしてはおきて破りのお楽しみがてんこ盛りになったラスト・ナイト。英国人の心のよりどころとも言える楽曲が並ぶラインナップで、時には観客も一緒になって歌うことも。また、すぐそばのハイド・パークでは、野外コンサートが開かれる。
Prom 75
The Last Night
「ルール・ブリタニア」や「エルサレム」などおなじみの曲が並ぶ最終夜。一曲終わるごとに観客が持ち込んだ世界各国の国旗がはためき、割れんばかりの拍手や歓声が沸き起こるラスト・ナイトは、通常のクラシック・コンサートとは異なる躍動感に満ちた、まさに「お祭り騒ぎ」だ。指揮を務めるのはフィンランド出身のサカリ・オラモ。現代オペラ界屈指の人気テノール歌手ファン・ディエゴ・フローレスが出演することで、例年以上の注目を集めている。
9月10日(土)19:15
ウッド「イギリスの海の歌による幻想曲」
エルガー「行進曲『威風堂々』第1番 ニ長調」ほか
テノール: ファン・ディエゴ・フローレス
BBC交響楽団ほか
指揮: サカリ・オラモ
Proms in the Park, Hyde Park
プロムスのメイン会場であるロイヤル・アルバート・ホールの目と鼻の先にあるハイド・パークで行われる開放感あふれる野外コンサート。巨大なスクリーン上にはホールで行われているラスト・ナイトに加え、英各地で同時進行するコンサートの様子も随時映されるので、英国全体が一体になったような気分で約2カ月にわたって開催されたプロムスの最後を締めくくることができる。ホールに出演するフローレスがこちらにも参加するほか、人気ミュージカル「マチルダ」のキャストも花を添える。
9月10日(土)17:15(開場15:00)
テノール: ファン・ディエゴ・フローレス
BBC コンサート・オーケストラほか
指揮: リチャード・バルカム
チケット購入方法
当日立ち見席は6ポンド、通常のチケットも7.50ポンドから(最高97ポンド)と比較的安価に一流の音楽を聴くチャンスとあって、人気プロムのチケット争奪戦は熾烈を極めることも。購入方法をきちんと確認した上で、効率的にチケットをゲットしよう
前売券の買い方
- ボックス・オフィスで
直接予約
Box Office(ドア12)
The Royal Albert Hall
Kensington Gore, London SW7 2AP
受付時間: 9:00-21:00 - 電話で予約
Tel: 0845 401 5040
受付時間: 9:00-21:00 - ウェブサイトで予約
ロイヤル・アルバート・ホールのウェブサイト より購入可能。
www.royalalberthall.com
当日券の買い方
通常、500席以上のアリーナ席(ステージ前の立見席)とギャラリー席(天井桟敷の立見席)が当日、6ポンドで販売される(現金またはコンタクトレス・ペイメント・カード)。開演2時間半前から一部アリーナ席が販売され、残りの席はドア11(アリーナ席)とドア10(ギャラリー席)で開演45分前から売り出される。また、今年から一部のアリーナ席及びギャラリー席がネット上でも購入可能に。夜のプロム及びレイト・ナイト・プロムのチケットは当日の朝9時から午後12時まで、一人1枚購入できる。なお、チケット料金の2%の手数料プラス1ポンドが加算されるので要注意。
ラスト・ナイトのチケットの買い方
抽選オープン・バロット
「オープン・バロット」ではセンター・ストールズ席(89ポンド)が100席、フロント・サークル席(58ポンド)が100席、売り出される。公式ガイドブックの応募用紙(154ページ。公式ウェブサイトからダウンロードも可能)に必要事項を記入の上、右記住所へ郵送する。6月30日(木)必着。
BBC Proms Open Ballot
Box Office Royal Albert Hall, London SW7 2AP
当日券5つ以上の過去の当日券を利用する
今年のプロムスにおける当日券を5枚以上購入した人は、使用済みの当日券を提示することでボックス・オフィスより一人一枚購入することができる。7月20日(水)、8月17日(水)、9月2日(金)の3回に分けて発売される。
当日券当日券を購入する
そのほかのプロム同様、ラスト・ナイトの当日券も基本的にすべて立見席となる。例年長蛇の列ができることで知られており、購入場所は通常の当日券とは異なる可能性もあるので、当日は早めに到着し、スタッフの誘導に従って並ぼう。
* チケット購入方法に関しては、レイト・ナイト・プロムやカドガン・ホールで行われるプロムス・チェンバー・ミュージックなど例外もあります。 詳細についてはプロムスの公式ウェブサイトをご参照ください。
会場情報
Royal Albert Hall
Kensington Gore,
London SW7 2AP
Sam Wanamaker Playhouse
Shakespeare’s Globe, London SE1 9DT
Hyde Park
London W2 2UH
*このほか、Cadogan HallやImperial College Unionなどもあり。
詳細は公式プログラムまたは公式ウェブサイト(www.bbc.co.uk/proms) を参照のこと。