第263回 ロンドンの風向きと滑走路27
先日、ヒースロー空港から日本へ一時帰国する際、機内の窓から外を眺めていたら、滑走路に大きく番号が書かれていることに気が付きました。そのときはあまり気にならなかったのですが、帰路の羽田空港の滑走路にも番号が書かれていて、しかもヒースロー空港とは違う番号だったので、番号に何か特別な意味があるのではないかと気になりました。後日、空港に詳しい方に尋ねると、滑走路の付番にはルールがあるとのことでした。
機内から見た羽田の滑走路
滑走路の番号は磁北の360度から方位角度を時計回りに10分の1にした数値、つまり01から36までの数字で表すのが国際ルールだそうです。磁北に向く滑走路は「滑走路36」で、その逆向きが「滑走路18」になります。同じように東向きが「滑走路09」、西向きが「滑走路27」です。飛行機が離着陸するときの最適な風は向かい風ですので、空港を建設するときには風が吹きやすい方向に向けて滑走路が設計されます。
滑走路の番号が方位を表す
逆にいうと、滑走路の方向でその土地の平均的な風向きが分かりますので、世界中の空港の滑走路を地図に落とし込めれば地球上の風の流れも大体分かることになります。ちなみに、羽田空港は海沿いということもあり、風向きがよく変わるので4本の滑走路を持ちますが、関東地方の主要な空港の滑走路は南北に向き、ロンドンの主要な四つの空港(ヒースロー、シティ、ガトウィック、ルートン)の滑走路はおおむね東西に向いています。
ロンドンの空港の滑走路はほぼ西向き
統計的にシティの風は南風4割、西風3割、北風と東風が15パーセントずつといわれます。それはロンドン北西部にチルターン丘陵が、また南東部にはノースダウンズ丘陵が広がっているため、北風と東風がさえぎられるからです。また、冬になると大西洋で発生した北方の低気圧が英国北部に近づいて海から湿った南西風をロンドンにもたらし、夏になると北アフリカや欧州大陸の移動性高気圧が乾いた南風をロンドンに運んできます。
二つの丘陵に挟まれ南西風が多い
ロンドンの東部に貧民街が多かったのも風向きがその原因の一つといわれます。19世紀にロンドンは工業化が進み、工場からの煤煙で大気が汚染されました。そのため富裕層が風上に住み、低賃金労働者は風下に住むしかなく、これが東部と西部の街づくりの差を生んだそうです。そんな話を耳にしてからロンドンの空港を見てみますと、どの滑走路も西からの風に立ち向かっています。人生は風に流されず、逆風に立ち向かって高く舞い上がれ、と滑走路27を飛び立つ飛行機から応援を受けた気分になります。
滑走路27から逆風に向かって舞い上がれ
寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。