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Wed, 04 December 2024

第215回 ジキル博士とハイド氏の自宅 - ロンドン中心部に隠された館

学生時代に読んだロバート・スティーヴンソンの小説「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」に登場する場所を散策しました。ハイド氏の住むソーホー地区は薄汚れた繁華街、一方でジキル博士の同僚の医師が住むキャベンディッシュ・スクエアのハーレー・ストリートは世界の名医が集まる高級住宅街。街並みの激しい対比が登場人物の極端な性格に投影されており、ロンドンの霧も人間の心の闇も晴れることがないなあ、と感じました。

ジキル博士とハイド氏は同じ人物ジキル博士とハイド氏は同じ人物

実はジキル博士の邸宅のモデルがロンドン中心部のレスター・スクエアにあります。それは近代外科医学の父と呼ばれたジョン・ハンターが1783年に購入した邸宅。ハンターの昼の顔は高名な医者ですが夜の顔は解剖用の死体を求める「墓荒らし」でした。ハンターは解剖によって生物の複雑な体の構造を読み砕くことに苦心し、チャールズ・ダーウィンより70年も前に進化論を唱えました。でもその論文は世間に受け入れられず出版禁止に。

近代外科医学の父ジョン・ハンター近代外科医学の父ジョン・ハンター

18世紀のレスター・スクエアは貴族の邸宅が広場を囲む高級住宅街でした。ハンターの邸宅は広場に面する西棟に病院の入り口があり、広場を見渡す待合室や診察室がありました。一方、東棟の裏通り側の出入り口からは解剖用の遺体が運び込まれ、解体後はそこから運び出されました。真ん中の棟に劇場のような解剖学の講義室があり、受講者はそこで解剖を見学でき、さらにその上階は1万4000個もの標本が所狭しと並ぶ研究室になっていました。

小説のモデルになった家の広場側(左)と裏口側(右小説のモデルになった家の広場側(左)と裏口側(右

ハンターは自らの医療経験から、もともと人間の身体には自然治癒力も抵抗力も備わっていると考えていました。弟子のエドワード・ジェンナーが後に天然痘のワクチン、種痘を開発できたのもその教えに学んだからだといわれます。また、ハンターの自宅や別荘には世界中から集めた動物があふれていました。ロンドン獣医大学の設立にも貢献し、動物と会話ができる児童小説の主人公「ドリトル先生」のモデルになったといわれています。

近代免疫学の父エドワード・ジェンナーはハンターの弟子近代免疫学の父エドワード・ジェンナーはハンターの弟子

ハンターの集めた標本はその後、シティ北西部ホルボーンの王立外科医師協会が管理するハンテリアン博物館になりました。生物は複雑化=進化していくというハンターの考えた根本原理に基づき、標本は進化の過程の順に並べられていたそうです。生物の奇形を異常なものとして排除せず、進化の可能性を秘めた複雑化の過程と前向きにとらえて研究を続けました。この素晴らしい博物館は現在改修中で、2023年に再公開される予定です。

公開当初のハンテリアン博物館の様子公開当初のハンテリアン博物館の様子

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シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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