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Mon, 04 July 2022

第211回
聖バレンタイン・デーと反逆者の門 - ロンドン塔を舞台にした愛憎劇

2月14日のバレンタイン・デーはカップルが愛を祝う日とされ、カードやお花、チョコレートなどを相手に贈ります。チョコを贈る風習は、英国のキャドバリー社が1868年に贈答用箱詰めチョコを販売したのが最初だそうです。また、2月14日に愛のメッセージを伝えるという考え方は、ジェフリー・チョーサーの詩「鳥たちの議会」(1382年ごろ)やロンドン塔から仏オルレアン公が妻に贈った詩(15世紀初め)が始まりとも言われます。

バレンタイン・デーにチョコを贈るバレンタイン・デーにチョコを贈る

オルレアン公はフランス王シャルル6世の弟の子で詩人でもあります。英仏百年戦争中に21歳の若さで英国軍の捕虜となり、1415年から25年間、英国に幽閉されました。大英図書館にオルレアン公の詩集と挿絵本の原稿が保管されています。その挿絵には漆喰が塗られたホワイト・タワーに幽閉された公爵が詩を書き、手紙を出す姿が描かれています。オルレアン公は詩の中で妻をマイ・スウィート・バレンタインと呼びました。

オルレアン公は21歳で捕虜にオルレアン公は21歳で捕虜に

さて、この挿絵の川岸には聖トマス塔と「トレイターズ・ゲート」(反逆者の門)が描かれています。この塔はもともと14世紀の終わりにエドワード1世が建てた、王様用の宿泊施設でした。王の寝室や居間を備え、テムズ川から直接出入りできる水門も作られました。聖トマスというのはカンタベリー大聖堂で1170年に殉教したトマス・ベケットのことです。塔の中に聖人ベケットを祭る礼拝堂があり、川を見下ろす美しい景観を有しています。

オルレアン公が幽閉されたロンドン塔の川岸に聖トマス塔オルレアン公が幽閉されたロンドン塔の川岸に聖トマス塔

中世のロンドン庶民には、聖人ベケットの霊廟があるカンタベリー大聖堂に巡礼することが年中行事でした。ところが16世紀半ばにこれが大きく変わります。ヘンリー8世が宗教改革を断行した際、聖人ベケットは謀反を働いた反逆者だと激しく糾弾されました。それはベケットが12 世紀後半にヘンリー2世と教会法をめぐって争ったからです。ベケットに関連する聖遺物や遺跡はことごとく破壊され、巡礼も禁じられました。

ヘンリー2世と争ったベケット(中央)ヘンリー2世と争ったベケット(中央)

ヘンリー8世は自分の意見にくみしない者を次々と捕らえては聖トマス塔の水門をくぐらせ、ロンドン塔の監獄に送りました。トマス・モア大法官やアン・ブーリン元王妃がその例です。やがてこの水門は高貴な身分から反逆者の烙印を押された者が通る、反逆者の門と呼ばれるようになりました。国王に対する愛や忠誠心が深ければ深いほど、その人の憎悪や反逆も強まったことでしょう。壁の石からは祈りの声や魂の雄叫びが聞こえてくる気がします。目の前のテムズ川は音もなく緩やかにいくつもの時代を洗い流しているようです。

聖トマス塔と反逆者の門聖トマス塔と反逆者の門

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シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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