第155回 おいしい英国版の明石焼
もう10月です。年初から数えて10番目の月なのにオクトーバー(ラテン語のオクトは8を意味し、8番目の月の意味)というのは、昔のローマ暦では3月が年初めの月だったから。西洋音楽では8度の音域をオクターブ、8本足を意味するオクトパスはタコですね。食欲の秋にタコといえば、秋ダコが意外においしいと兵庫県出身の知人が言い、明石焼の英国版を作ることになりました。本来の明石焼の具材は、赤穂の塩と鶏卵、京都の九条ネギ、明石タコ、和風出汁です。
英国版の明石焼に挑戦
九条ネギには弘法大師が大蛇に追いかけられてネギ畑で難を逃れたという逸話がありますが、ウェールズには、アングロ・サクソン族との戦いで敵味方を区別できるよう、ネギを帽子につけたという伝説があります。ならばネギはウェールズ産に決めましょう。塩はエセックスのマルドン産、鶏卵は英国食品基準庁お墨付きのライオン・マークで決まり。タコは英チャンネル諸島で採れたものをシティのビリングスゲート市場で入手する作戦です。
ビリングスゲート市場は午前4時から
ビリングスゲート市場へ向かう途中、ガソリンスタンドに立ち寄るとハイオクの表示がありました。オクタンの分子式はC8H18で、炭素原子が8個あることを意味します。そうそう、人を侮辱する際に使う「タコ」の語源は江戸時代にさかのぼるとか。将軍に謁見できる資格を御目見得(おめみえ)といいますが、それが許される旗本が許してもらえない御家人に向かって、「御目見得以下」とさげすんだところ、イカと言われた御家人がタコと言い返したのが始まりだそう。
オクタン価の高いハイオク
さて、ビリングスゲート市場に到着。もともとはロンドン橋のたもとにある世界最大の魚市場でしたが、1982年に東部のカナリー・ワーフに移転。その品揃えの多さはコスモポリタン都市、ロンドンの胃袋の多様性を表しています。タコを探すとスペイン・ガルシア産に遭遇。俗に岩ダコと呼ばれ、岩礁にへばりついて生息し、吸盤が2列で体色が赤黒く、一方、英チャンネル諸島産のタコは海底の砂上に生息し、吸盤が1列で体色が薄白い。
スペイン産タコは吸盤が2列
この白ダコは地中海にも生息し、イタリアではモスカルディーニ(ムスクの香りのするおしゃれな男性)と呼ばれます。早速、英国産の白ダコで明石焼を作りました。出汁に付けて頬張ると、ホクホクのおいしさに幸せな気分が八の字に末広がり。そして食べて横になるとオクトの8が横になって∞(無限大)の満腹感に包まれました。
英チャンネル諸島のタコは吸盤が1列