第139回 アルファロメオと聖ジョージの旗
先日、イタリア・ミラノから来た友人と子供のころに見たアニメの話をしていました。「ルパン3世」の愛車だった赤いアルファロメオ・グランスポルト・クアトロルオーテは格好良かった、と思い出話に花が咲くと、「アルファロメオ社のエンブレムはミラノの誇りですよ」と彼の自慢気な顔。同社はミラノで生まれた自動車会社で、そのエンブレムはミラノ市旗である聖アンブローズ十字と初代ミラノ公・ヴィスコンティ家の紋章から構成される由緒あるデザインです。
アルファロメオ社のエンブレム
ヴィスコンティ家の紋章は、4世紀に王冠をかぶった大蛇の怪物を退治したといわれるミラノの守護聖人、聖アンブローズの伝説から、ビッシオーネ(大蛇)を採用したようです。イングランドの守護聖人、聖ジョージのドラゴン退治伝説も同じく4世紀の出来事。これは、4世紀にローマ帝国が一神教のキリスト教を国教化したため、多神教の神を悪魔に貶める必要があり、殉教者を聖人にしたり、怪物退治伝説が複数生まれたのでしょう。
聖アンブローズ十字も聖ジョージ十字も白地に描かれた赤い十字。でも片や930年に大司教がミラノを自由都市と認めて与えた市旗、片や12世紀に十字軍が使いジェノヴァ共和国などに広まった軍旗で由来が異なります。12世紀ごろ、聖ジョージのドラゴン退治伝説が十字軍の英雄談とともに広まり、聖ジョージは各地で勇士の象徴になりました。十字軍遠征で領土を拡大したジェノヴァ共和国は、聖ジョージ十字を国旗に採用しています。
ミラノ市旗は聖アンブローズ十字
ヴィスコンティ家の紋章
イングランドでは十字軍で活躍したリチャード1世が聖ジョージ十字の軍旗を広め、1348年にはエドワード3世が聖ジョージをイングランドの守護聖人に登用しました。さらに同年には英最古の騎士団であるガーター騎士団の紋章にも採用され、この紋章がフランスとの百年戦争を前にした騎士団の士気を高めました。
聖ジョージのドラゴン退治像
ところで、イングランドは聖ジョージ十字の旗をジェノヴァ共和国から長らく賃借していたそうです。イングランド商船が地中海を航行する際、海賊を寄せ付けないため12世紀当時最強だったジェノヴァ海軍の旗を借りて掲げたのです。1190年に正式に使用承諾を得て以来、オーストリア継承戦争で英国が1746年にジェノヴァ共和国を包囲するまで、毎年その賃借料を支払い続けていたとのこと。十字の旗は魔除けや由緒を明らかにするというよりも、戦争やお金といった実利に関係していたようですね。
14世紀初めのジェノヴァ艦隊を描いた作品