最先端の投資はどこに行くのか
昨今の世間を騒がすサブプライム問題において、遅ればせながら中央銀行のみならず、大統領や金融担当大臣など政治家までがファンドの規制をするといったことを述べている。9月6日に掲載した第60回で述べたように、サブプライム問題が米中の実体経済まで影響が出れば為替調整という政治問題になるのだから、遅ればせでも意味がないとは言うまい。しかし最先端の投資家はとうにサブプライムの投資から次に焦点を移している。
シティはいわば世界の生き馬の目を抜く市場だ。こうした混乱が起こるたびにいつも思うが、混乱が起きて当局などが来る時には先駆投資者は既に最先端の投資を思いつき、次の狩場で次の獲物を狙っている。しかもそのサイクルは年々早まっている。当局が学習したのか、先駆になれなかった二流インベストメント・バンカーが当局に入っているためか、またはIT技術の進歩により知識の普及が早まったからなのか。ただ、悲しいことに日本の金融機関は先駆投資者にはなっていない。このためババをつかむリスクが十分にあるのだ。もちろん一番不幸なのは、そうした金融機関に低金利で預金している日本の消費者なのだが。
英仏が主役を担うアフリカ投資
米国サブプライム市場の次に注目されているのが、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国への投資である。ヘッジファンドやプライベート・エクイティ*のアフリカ投資は着実に増えている。2007年のアフリカの資本市場規模は、80億ドルと2002年の8倍、2005年の2倍など年々倍々ゲームになっている。
その主役は言うまでもなく英仏だ。次いで中国。中国はアフリカ諸国に眠る資源を狙って、アジア・アフリカ諸国以来の馴染みから政治攻勢とチャイナタウン作りなど人口攻勢をかけている。南アフリカでは中国人30万人、日本人300人とその人口規模の大きさは比較にならない。
しかしなんといっても植民地時代からの遺産が英仏にとっては大きい。結局アフリカの資源や低賃金労働を利用した企業活動、そして一部金持ち層を狙った消費財販売のための企業投資は、英仏人を中心にロンドン市場を通して行われることが多いのだ。そうした先駆的投資は、確実に大きな利益をもたらすであろう。
植民地の遺産が英仏の大きな余裕となっていることは、投資という限定された問題を取ってもはっきりと分かる。こうした余裕があるからこそ、ユーロスターはウォータールーからセントパンクラス駅へターミナルを変えることでロンドン-パリ間を30分以上も短縮できるのではないか。日本なら予めそうしたことも十分考慮の上、最初から作り直しがないように線路を引くのが普通だが、やり直せばいいじゃないかという余裕があるのが英仏だと思う。その余裕は、莫大な遺産の蓄積から来ているのではないか。
「経済学の父」と呼ばれる英国生まれの経済学者アダム・スミスが「道徳感情論」で指摘しているように、自由市場の前提には市場参加者の倫理や道徳がある。衣食足りて礼節を知るというか、この点で日中は英仏に対し、後進国として追いつくためにはまだまだ時間を要するのではないかと思ったりする。今後は中国語もさることながら、金融で働くならフランス語もやはり重要度を増すと予想する。
英仏の余裕の持続性
しかしながら、英仏の余裕の持続性については問題もある。まずは地球環境の問題で、これを無視してアフリカ開発はできないであろう。さらにベネズエラのチャベス大統領を見るまでもなく、やがてアフリカ人のナショナリズムが勃興するであろうということだ。この点、ロシアのプーチン大統領が今週インドネシアを訪問した一件は非常に興味深い。 東ティモールの混乱を原因として英米がインドネシアへの武器禁輸を施行した間隙に、ロシアが資源確保と武器売込みに出たのだ。同様のことがアフリカであれば、米国や中国も政治でアフリカに噛んでくることになる。
英仏は旧宗主国のためナショナリズムの標的になりやすい。去年フランスで発生したマグレバンの暴動を想起されたい。この出来事は、フーコーが監獄の誕生で述べていたことであり、アフリカという異界がなくなってしまうと、異界は先進国の内部にでき、それがロンドンでの同時多発テロとなってアルカイダの温床となる。結局、植民地時代の遺産というものが英仏人にとって如何に大きなものか再度思い知ることになるであろう。
ただ、英国の懐は深い。アフリカ諸国のエリートの子弟は英国で学ぶ例が多く、ANNUAL DAY(学校の年度末の終業式)などで隣にナイジェリアの大臣がいたりしたこともあった。こうしたことも英国の余裕なのだろう。
*未上場株に投資し、企業の経営権を握って上場により株式価格を上げ年率20%近くで儲けるファンドのこと。ここ5年ほど隆盛している。
(07年9月9日脱稿)
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