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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

連立政権の教育政策について - アカデミー、フリー・スクールとは

アカデミー、フリー・スクールとは
連立政権の教育政策について

各行政分野のうち、教育は特に連立政権が力を入れているエリアである。その連立政権の教育政策の要となる法律が、7月に成立した「2010年アカデミー法」であり、イングランドの公教育制度に過去数十年で最大の改革をもたらすと言われている。今回は、賛否両論を呼んだ同法を中心に解説する。

イングランドの公立学校の区分

1. 一般の公立校

(1)地域学校(Community school)
イングランドの公立校のほぼ6割を占める。地方自治体が、学校の運営、教師・職員の採用、生徒の入学方針の決定を行う。学校の土地・校舎も自治体が所有する。運営費は、地方自治体が配分する国からの補助金で賄う。

(2) 地方補助学校(Foundation school)
学校理事会(governing body)が、学校の運営、教師・職員の採用、生徒の入学方針の決定を行う。学校の土地・校舎は学校理事会もしくは慈善団体の資格を有する組織(charitable foundation)が所有する。運営費は、地方自治体が配分する国からの補助金で賄う。

(3) 有志団体立補助学校(Voluntary aided school)
大半は宗教系の学校である(カトリック系、英国国教会系など)。学校理事会が、学校の運営、教師・職員の採用、生徒の入学方針の決定を行う。学校の土地・校舎は、ほとんどの場合、教会など宗教関係組織が所有している。運営費は、地方自治体が配分する国からの補助金で賄う。校舎の建設、維持費用等の一部は宗教関係組織等から拠出される。

(4) 有志団体立管理学校(Voluntary controlled school)
「有志団体立補助学校」と同様、大半は宗教系の学校であるが、地方自治体が、学校の運営、教師・職員の採用、生徒の入学方針の決定を行う。学校の土地・校舎はほとんどの場合、教会など宗教関係組織が所有している。運営費は、地方自治体が配分する国からの補助金で賄う。

2. その他の公立校

(1)アカデミー(Academy)
地方自治体の管理下になく、運営費は中央政府から直接、提供されている。教師の給与・待遇、授業カリキュラム、学期期間の設定などで自由裁量を与えられている(ただし、英語、数学、科学については、全国共通カリキュラムに従って授業を行うことが求められている)。法律上の設立形態は「有限責任保証会社(company limited by guarantee)」であり、実際のところは、公立校と言うより、「公費で運営されている独立校(independent school funded by the state)」である。学校の運営、教師・職員の採用、生徒の入学方針の決定を行うのは学校理事会である。学校の土地・校舎に関する権限は学校法人が有する。労働党政権下で、約200の公立校が「アカデミー」に移行した。現政府は今後、更に「アカデミー」を増加させる方針である。

*フリー・スクール(Free school)
「アカデミー」のうち、親や教師のグループ、慈善団体、教会、企業、私立校、大学等が新規に設置する学校。2011年9月から設置予定。「フリー・スクール」の設置を希望するグループ、組織等は、教育省に設置を申請し、審査を受ける。

(2)グラマー・スクール(Grammar school)
学業成績によって入学者を選抜する公立中学校。かつては公立校の形態として主流だったが、現在までに大半が廃校されたか、私立校または選抜をしない公立校に移行している。

*上記は、イングランドの義務教育の学校(小中学校)の分類であるが、これがすべてではない。また、イングランド以外の英国の地域に設置されている学校の形態も含まれる。

Source: Department for Education, direct.gov.ukほか

今年9月から「アカデミー」に移行した学校一覧(一部)

ロンドン
Queen Elizabeth's School(バーネット区)
Kemnal Technology College(ブロムリー区)
Cuckoo Hall Primary School(エンフィールド区)【P】

イングランド南東部
The Westlands School (ケント州)
The Woodgrove Primary School (ケント州)【P】

イングランド南西部
St Buryan Primary School(コーンウォール州)【P】
Broadclyst Community Primary School(デボン州)【P】
Uffculme School(デボン州)

イングランド東部
Watford Grammar School for Boys (ハートフォードシャー州)
Watford Grammar School for Girls(ハートフォードシャー州)
Arthur Mellows Village College(ピーターバラ市)

イースト・ミッドランズ地方
The Giles School(リンカンシャー州)
Northampton School for Boys(ノーサンプトンシャー州)

ヨークシャー・アンド・ザ・ハンバー地方
Heckmondwike Grammar School(カークリース市)
Tollbar Business Enterprise & Humanities College(ノース・イースト・リンカンシャー市)

イングランド北西部
Brine Leas High School(チェシャー・イースト市)
Fallibroome High School(チェシャー・イースト市)
Seaton Infant School(カンブリア州)【P】

*上記は、「2010年アカデミー法」の施行後、現連立政権の呼び掛けに応えて「アカデミー」化を申請した学校のうち、2010年9月に「アカデミー」への移行を果たした学校の一部である。 他に、前労働党政権下で「アカデミー」化が認められた64校も、同じく10年9月に「アカデミー」への移行を果たした。

* 【P】は小学校を意味する。それ以外はすべて中学校である。

Source: Department for Education


全公立校が「アカデミー」への移行申請可

政府は7月下旬、「2010年アカデミー法」を成立させた。同法の狙いは、イングランドの公立校の一形態である「アカデミー」の数を大幅に増やすこと、及び「フリー・スクール」の設置を可能にすることである。

「アカデミー」は、ブレア労働党政権が始めた学校の形態であり、公立校ではあるものの地方自治体の管理下になく、運営資金は中央政府から直接、提供されている。通常の公立校と違って、教師の給与・待遇、授業カリキュラム、学期期間の設定などにおいて自由裁量を与えられている。

労働党政権下での「アカデミー」が、貧困地区にある学業成績の低い学校の改善を目的としていたのに対し、連立政権は、同法によりイングランドのすべての公立校が「アカデミー」への移行を申請することを可能にした(ただし、今年9月からの「アカデミー」への移行には、教育水準監査局「Ofsted」から「最優秀」と判定された学校が優先された)。更に、これまでの「アカデミー」はほぼ中学校のみだったが、今後は小学校も対象となる。

一方、「フリー・スクール」は、「アカデミー」のうち、親や教師のグループ、慈善団体、教会、企業等が設置する学校を指す。「フリー・スクール」以外の「アカデミー」は、その大半が、既存の公立校が移行する形で設立されるが、「フリー・スクール」はすべて新設校となる。カリキュラム等で自由裁量を与えられている点は、他の「アカデミー」と同様である。

同法成立の結果、今年9月から新たに32校の「アカデミー」が誕生した。また、「フリー・スクール」については、政府に提出された申請のうち、16の案に仮承認が下りたことが今月上旬、明らかにされている。

学校運営に自由と柔軟性

政府は、「アカデミー」の数を大幅に増加させる目的を、公立校に学校運営における自由と柔軟性を与え、学業成績の向上を図ることであるなどと述べている。しかし、教育関係者等からは、「アカデミーとそれ以外」という、公立校の二極化を進めるとして懸念の声が上がっている。また、ゴーブ教育相は、今年9月からの「アカデミー」への移行に間に合わせるため、本来は反テロ法の制定などに用いる緊急手段を使って、国会の夏季休暇前に同法を駆け込み成立させた。このため、「過去数十年で最大の教育改革」をもたらす法律であるにもかかわらず、十分な審議時間が取れなかったとして、各党の議員から厳しく批判された。

教育政策不人気との調査結果

こうした背景を反映してか、8月上旬に調査会社ICMが実施した世論調査では、政府による教育改革を支持しない人が42%、支持する人が23%という結果が出た。一方、経済政策では、「支持」が44%、「不支持」が37%との結果になり、教育政策の不人気ぶりが浮き彫りにされた。「未来のための学校建設」プログラムの中止の件でも大きな批判を浴びた政府とゴーブ教育相であるが(「関連キーワード」欄参照)、こうした世論を変えることが出来るかどうかは、「アカデミー」の成否に掛かっているかもしれない。

Building Schools for the Future

「未来のための学校建設」は、前労働党政権が開始したイングランドの公立中学校の校舎改築プログラムである。ゴーブ教育相は7月、同プログラムの中止を発表し、同時に、プログラム参加校のうち、予定通り校舎改築を実行する学校と、改築を取り止める学校のリストを発表した。しかし数日後、同リストに間違いがあり、リスト上では校舎改築が実行されると記されていた複数の学校が、実は改築が取り止めとなった学校であったことが判明。同相は学校関係者などから厳しい批判にさらされた。

(猫)

 

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