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Fri, 06 December 2019

木村正人の英国ニュースの行間を読め!

第31回 親世代より貧しくなる時代を生きる

親世代より貧しくなる時代を生きる

日本にこの夏、帰省したとき、70歳代の夫婦が100歳までのライフプランを明るく語るのを聞いて少し驚いた。というのも、その老夫婦と同居している40歳代の娘さんが暗い顔で「働きに出ても、両親の年金よりも少ない額しかもらえない」とこぼしていたからだ。両親の世代よりも子供の世代が貧しくなる現象は何も日本に限った話ではない。「衰退の20世紀」をサッチャー改革で乗り越えた英国でも同じ傾向が顕著に現れている。

 

英国の有力シンクタンク、財政研究所(Institute for Fiscal Studies)の調査で、1960~70年代に生まれた世代はそれ以前に生まれた世代よりも厳しい人生を強いられ、その多くが老後のために親からの相続を当てにしていることが浮き彫りになった。第二次大戦後の経済回復、全額免除されていた大学の授業料、不動産価格の上昇という恩恵に預かることができた40~50年代生まれは収入・貯蓄・マイホーム・私的年金といった面で60~70年代世代よりも恵まれているという。

40~50年代生まれの持ち家率は5分の4だったが、60~70年代生まれは3分の2まで急落。40年代前半に生まれた世代で親からの相続を当てにしているのはわずか28%だったが、70年代後半生まれでは70%にハネ上がっていた。不動産価格が高騰し、財政事情の悪化で大学授業料は大幅アップ、公的年金の支給開始年齢が引き上げられるという時代の流れはあるものの、働いて貯蓄に励んだ40~50年代生まれに比べ、初任給が高かった60~70年代生まれの生活は贅沢が身につき、十分に貯蓄してこなかった面は軽視できないという。

世代間格差もさることながら、60~70年代生まれの中でも親が資産をどれだけ持っているかで老後に大きな格差が生じる恐れもある。72~78年生まれの豊かな階層で10万ポンド(約1700万円)相当以上の相続を期待していたのは35%だったのに対し、貧しい階層では12%にとどまった。

もっと過酷な人生を強いられているのは、さらに若い世代だろう。「フィナンシャル・タイムズ」紙による別の分析では2008年の世界金融危機を境に大卒の収入は12%もダウンし、平均で60%も多い学生ローンを抱え込んでいる。11~12年に大学を卒業した若者のうち28%は学生ローンの返済が求められる収入に達しておらず、17%は 仕事にありつけなかった。世界金融危機で先進国と新興国の格差は急速に縮まり、新 興国の低賃金労働力が先進国の雇用機会を奪って、賃金を押し下げている。しかも、それぞれの職場で年配ベテラン労働者が正規雇用ポストを占め、若者世代は無給のインターンシップか、雇用者の必要があるときにだけ働くゼロ・アワー契約を強いられるケースが少なくない。

 

先進国の中で最も早く少子高齢社会を迎えた日本では、有権者にお年寄りが占める 割合が拡大している。11月の人口統計(概算値)では、20~40歳未満は2969万人、40~60歳未満は3356万人、60歳以上は4160万人だった。こうした人口構成では、どうしても高齢者向けの医療や年金が手厚くなり、若者向けの教育や子育て支援が薄くなる「シルバー民主主義」の弊害が目立ち始めている。

子供は未来からの授かり物といわれるが、若者は私たちの未来であり、希望の光である。先の大戦から70年近い歳月を経て豊かさの定義は明らかに変わったが、若者が働いても親の世代より豊かさを実感できない社会の未来は決して明るくない。だんだん貧しくなる経済のスパイラルから脱出する方法はただ一つ。個人の起業精神を刺激して、技術革新やサービス革命といったイノベーションを起こすことだ。

DNA(遺伝子)の解析や宇宙開発に使われていたIT(情報通信)技術が日常生活に利用できる時代がやってきた。スマートフォン(多機能電話)が実現するコミュニケーションの高速化と多様化が人・物・資本・サービスの移動にどんなインパクトを与えるのかは誰も予測できない。起業コストは恐ろしいほど下がり、スマートフォン片手に 起業できる時代なのだ。貧しさのスパイラルを脱して、先進国が「成長の世紀」を取り戻すためには、若者たちの志にエネルギーを注ぎ込む必要がある。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
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