小林恭子の
英国メディアを読み解く

16歳のダーツ選手が注目の的に - 歴史的なゲーム、人気再燃へ

円型の的に矢を投げて得点を競うゲーム「ダーツ」（darts）といえば、パブの一角で常連客が遊ぶ構図が思い浮かびます。男女を問わず、皆さんも一度はやったことがあるのではないでしょうか。未経験でもそれなりに楽しめるのが魅力の一つですよね。

今年は年明けから、英国でダーツに対する関心が急速に高まりました。著名な世界選手権に無名の16歳の英少年が初出場し、決勝戦まで進んでしまったからです。惜しくも優勝には至りませんでしたが、「優勝するのでは?」という期待が高まり、手に汗握る戦いとなりました。

ダーツ・ファンではない人々が真っ先に目を止めたのが、16歳のルーク・リトラー選手の容姿です。鼻の下のちょびひげ、あごひげ、そして貫禄ある表情からはとても未成年には見えません。リトラーはイングランド北西部ランコーンで生まれ、近隣ウォリントンで育ちました。父親が買ってきた磁石性のダーツボードに矢を放ったのは1歳半のときだったそうです。あっという間に上達し、10歳でセント・ヘレンズ・ダーツ・アカデミーに入学。11歳になると、21歳未満の選手が参加するダーツ選手権で競うようになります。その後は年少者および成人が参加するダーツ選手権でいくつもの勝利を達成していきます。今回大きな話題の舞台となったのは、昨年12月15日から今年1月3日までロンドン北部のアレクサンドラ・パレスで開催されたPDCダーツ世界選手権大会でした。「PDC」とは、プロのダーツ選手が参加する組織「Professional Darts Corporation」の略です。リトラーは、世界ランキング164位で大会に初参加し、元世界チャンピオンを次々と負かしながら、決勝戦に進みました。初出場で優勝という予想も出ていましたが、勝者は28歳のルーク・ハンフリーズで、優勝賞金50万ポンド（約9100万円）を獲得しました。リトラーの賞金は20万ポンド（約3700万円）でしたが、大会の決勝進出の最年少記録、元世界チャンピオンを破った最年少記録、初出場の最高平均スコアを更新し、ギネスブック世界記録にそれぞれ認定されました。

リトラーの世界ランキングは32位に上昇し、ダーツの選手権の中でも最も強い選手が競う「ダーツ・プレミアリーグ選手権」に参加することも可能になると噂されています。ただリトラー自身、これに参加するとほかの選手権の日程と重なってしまい、1週間毎日試合となり「疲れすぎる」とBBCの取材の中で語っています。インスタグラムで100万人を超えるフォロワーを持つリトラーは、普段はシンプルな生活を送っているようで、「起きて、Xボックスでゲームをして、食べて、ダーツをやって、後は寝るだけだよ」とのことだそうです。

イングランドのパブで行われるゲームの中でも最古といわれるダーツですが、第一次世界大戦後の1918年以降、愛好者が広がり、20年代半ばにルールがほぼ統一されます。大衆日曜紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」が主催したダーツ選手権の38年度の大会には28万人もが選手として参加しました。BBCがテレビでダーツの試合を放送したのは36年から。第二次世界大戦でテレビ放送が一旦停止し、戦後は45年からの放送になりました。70年代以降、民放ITVとBBCがいくつもの選手権を盛んに放送するようになり、90年代半ばからスカイUK（当時はBスカイB）が生中継で主導権を握っていきます。今回の世界選手権決勝戦は480万人を超える視聴者が見たそうです。スポーツ専門チャンネル「スカイ・スポーツ」が放送する、サッカー以外の試合の番組で最高の視聴者数を記録し、前年の決勝戦よりも143パーセント増でした。

日本では1970年代に任意団体として「日本ダーツ協会」が発足し、77年には世界ダーツ連盟に加盟。世界各国で行われるダーツ選手権に参加するようになって選手も支援者も増えていき、2014年、協会は公益社団法人化されました。