東京五輪の「編み物王子」デイリー選手に注目 - チームGBはロンドン五輪並みのメダルを獲得
連日、新型コロナウイルスへの新規感染者の増大が報道される東京で、7月23日から8月8日までオリンピックが開催されました。英国を代表する「チームGB」の選手は22個の金メダルを獲得して米国、中国、日本に次ぐ第4位です。メダル総数は65個で米国、中国、ロシア・オリンピック委員会選手団(ROC)に次ぐ、これも第4位でした。英国は前回リオデジャネイロ五輪で67個を獲得しましたので2個減ってはいますが、地元開催のロンドン大会と同数を獲得し、コロナ禍による規制がある中で「よくやった」と高評価されているようです。
日本で注目された英国選手の一人が、「編み物王子」と呼ばれた、飛込競技のトム・デイリー選手でした。東京五輪では10メートル高飛込シンクロで金メダル、10メートル高飛込で銅メダルを獲得しています。観客席で編み物をする様子がカメラに捉えられ、自分でもインスタグラムでニット作品を投稿しました。
デイリー選手は、1994年イングランド南西部デヴォンのプリマスで生まれました。7歳で水泳を始め、2004年、英国の高飛込競技大会18歳以下の部門で最年少優勝者に。10歳になった直後でした。その後も国内外の水泳大会で次々と高い成績を記録し、2008年には英国選手権10メートル高飛込で優勝、同年、国際水泳連盟(FINA)飛込ワールドカップ(W杯)ではシンクロ部門で銅メダルを獲得。当時13歳のデイリー選手は飛込の世界的競技大会で最年少の男子メダリストになりました。
「オリンピックに出場したい。金メダルを取りたいんだ」。2005年、当時11歳のデイリー選手はBBCの取材にこう語っています。初めての五輪出場は2008年の北京大会になりました。13歳であどけない表情のデイリー選手には「ベイビー」というあだ名がついたそうです。このときはメダル獲得まではいきませんでしたが、五輪出場をきっかけにますます注目度が高まります。その人気ゆえに、学校ではいじめられることもあったそうです。
2回目の出場となるロンドン五輪開催が目前となった2011年5月、大きな悲劇を経験します。父が脳腫瘍で亡くなったのです。死の間際までロンドン五輪の入場券が手に入るかどうか気にかけ、息子の活躍を母国で目にすることをとても楽しみにしていたそうです。母や二人の弟たちを支える、大黒柱としての人生が始まりました。ロンドン大会では紆余曲折の結果を出しながらも、最終的に銅メダルを獲得します。
デイリー選手の個人的な人生の契機は2013年です。世界選手権で上腕を負傷して不満足な記録を出した後、米国に旅行。このとき、米映画の脚本家・プロデューサーのダスティン・ランス・ブラック氏と知り合います。同年12月、自分のユーチューブ・チャンネルで、好きな男性ができたことを告白して、カミングアウトしました。デイリー選手とブラック氏は2017年結婚し、代理出産で翌年、子どもを授っています。
2016年のリオ大会では、デイリー選手は金メダル獲得を有力視されていましたが、シンクロでは銅メダルを獲得する一方、シングル競技では決勝進出を逃してしまいました。「心と体が一致していなかった」とデイリー選手はBBCに語っています。「今度こそ……」という思いで臨んだのが東京大会。7月26日、男子10メートル高飛込シンクロでマティ・リー選手とともに金メダルを獲得したデイリー選手は表彰台に上り、黒いマスクを着けた選手の目から涙がこぼれ落ちました。その後の会見で、デイリー選手は同性愛者で五輪メダリストである自分の経験によって、LGBT(性的少数者)の若者に希望を与えたい、と述べています。
8月24日から9月5日までは、障がい者が選手として競い合うパラリンピックが開催されますね。新たなスポーツのドラマが繰り広げられるでしょう。
Oympic Games(オリンピック大会)
4年に一度開催される、世界的なスポーツの祭典。日本語では「五輪」、英語では単に「Games」と表記されることも。スポーツを通して人間育成と世界平和を目指す。夏季大会と冬季大会がある。起源は古代ギリシャのオリンピア地方で行われた祭典競技。近代オリンピックの開始は、19世紀末フランスのピエール・ド・クーベルタン男爵の提唱による。第1回大会はアテネで開催。