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Sat, 20 April 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

リーク事件で注目、中国通信大手ファーウェイ、なぜ議論沸騰か
- 首相が国防相を更迭、英国のお家事情

英国の欧州連合(EU)からの離脱問題を巡って、既に何人もの閣僚を失ってきたテリーザ・メイ首相。これまでは自らの意思で去る人ばかりでしたが、5月1日、今度は首相自身が「あなたを完全に信頼できない」として更迭したのが、ギャビン・ウィリアムソン国防相です。

きっかけは、保守系新聞の「テレグラフ」紙が主要閣僚らで構成する「英国家安全保障会議(NSC)」の情報を基に書いた4月23日付の記事でした。それは英政府が次世代通信規格「5G」のインフラ整備に中国の通信大手ファーウェイ(華為技術)製の機器を一部採用することを容認したというものです。どのような内容であれ、国家機密を扱うNSCの議論を外に漏らすのはご法度中のご法度ですが、一体誰が情報をリークしたのでしょう? 会議終了後に「テレグラフ」紙の記者と電話で会話したウィリアムソン国防相が疑われ、首相は不正な情報開示を行った「有力な証拠がある」と書簡で指摘。同相はこれを強く否定して、メイ首相と真っ向から対立しています。

さて、ファーウェイとはいったいどんな企業なのでしょう? 1987年、企業家の任正非(じんせいひ)氏が人民解放軍の元仲間たちと一緒に創業した通信機器メーカーで、本社は中国南東部の深圳(しんせん)市に置かれています。従業員数は約18万人(そのうちの8万人が株主)で、日本法人もあります。世界のスマートフォン市場では韓国のサムスン、米アップルに続く第3位。ファーウェイは研究開発に巨額をつぎ込むことでも知られており、同社によると現在約150億ドル(約1.65兆円)を投資しています。この投資額は世界第5位で、将来は200億ドルに増やす予定だそうです。瞬時の通信が実現する5Gの開発には約5000人が従事しています。

英国は今年中に5Gの商用化を計画していますが、通信業界はコスト面でも優位とされるファーウェイの参画を望んでいるようです。ところが、以前から米国はファーウェイの背後には中国政府があると見て、5G網構築に同社を参画させれば機密情報が漏えいする、重要なインフラにサイバー攻撃が加えられると警告を発してきました。米国は、ともに諜報機関の情報を共有する同盟「ファイブ・アイズ」の構成国である英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドに対し、ファーウェイの5G網通信からの排除を呼びかけており、既にオーストラリアとニュージーランドはこれに応じています。昨年12月、カナダ当局は米国の要請でファーウェイの創業者の娘で副会長兼最高財務責任者の孟晩舟(もうばんしゅう)氏を逮捕しました。対イラン経済制裁に違反し、金融不正を働いた容疑ですが、本人は罪状を否定。孟氏は「米中のハイテク貿易戦争の人質となった」とする見方もあります(BBCニュース、昨年12月6日)。ファーウェイに対する米国の強硬な態度には貿易大国としての自国の存在を脅かされることへの恐れやライバル心がありそうです。

英国は現在、ファーウェイを敵視しておらず、ファイブ・アイズの中では独立独歩の立場です。先のNSCで政府が5G網におけるファーウェイの採用に前向きであることを示したのは、大きな進展だったのかもしれません。ただ「まだ正式な決定ではない」(英デジタル・文化・メディア・スポーツ省)ことになっています。

ファーウェイの起用で安全保障に関わる機密情報の漏えいやインフラへのサイバー攻撃のリスクがあるのか、ないのか。専門家の間でも意見が分かれているようです。ファーウェイ側はそんなことは発生しないと主張しています。BBCの安全保障問題担当記者ゴードン・コレラ氏の4月24日付記事によると、政府は「ファーウェイの起用を全面的に禁止すれば5G網の開発を遅延させ、中国政府の怒りを買うことになる」と見て、「リスクを管理する形で将来もやっていく」道を選択したと分析しています。

キーワード

5th Generation(5G)
(第5世代移動通信システム)

現在使われている第4世代(4G)の次世代の高速通信規格。実効速度は4Gの約100倍。大量の端末と接続できる「多数同時接続」も可能に。あらゆるものがネットにつながることでセキュリティー・リスクが高まるという声も。4月、米国と韓国でスマホ向けサービスが開始。英国は年内、日本は2020年に商用サービス開始予定。
 
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