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Fri, 19 April 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

政治に注目の欧州ブレグジット、トランプ氏当選の再現はあるか?

皆様、あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

昨年、英国では「ブレグジット」(英国の欧州連合(EU) からの離脱)、米国ではトランプ共和党候補の大統領選当選という思いがけない動きがありました。いずれの場合も世論調査や専門家の見立ては大きく外れました。

今年も、「まさか、いやでもひょっとしたら?」という現象が再来するかもしれません。欧州全体を見ますと、各国で選挙が目白押しとなっているからです。

選挙が行われる国には共通点があります。反移民で「極右」とされる政党が支持を拡大させているのです。こうした政治勢力は欧州でこれまで常識となっていた価値観ではタブーとされるような感情を持つ人々の本音を受け止め、政策につなげることを試みます。

例えば、第二次大戦後、欧州は統合への歩みを始めましたね。その一つの帰結が現在のEUですが、「EU官僚に自分たちの生活を管理されたくない」「EUから抜け出したい」と思う人は英国のブレグジット派だけではありません。「移民が増えすぎるのは好ましくない」という気持ちも、これまではそんなことを言えば「人種差別主義者」とレッテルを貼られてしまうため、既存政党でこうした懸念をまともに取り上げるところは皆無でした。でも今は、自分たちの本音を政策目標にしてくれる政党があるのです。

今年最初の欧州の国政選挙は3月、オランダで行われます。現在はルッテ首相率いる自由民主国民党が労働党と連立政権を担っていますが、極右の自由党の支持が高まっています。オールバックにした金髪が目印のウィルダース自由党党首は反イスラム教、移民排斥を訴えています。先月、差別を扇動しモロッコ人移民を侮辱した罪で有罪になったばかり。それでも現在保持する12議席(下院に当たる第二院は全150議席)を今度の選挙では35 議席に伸ばすと見られています。支持拡大の理由はほかの政治家が避けようとするイスラム教過激派、移民、EU の影響といった問題に踏み込んでいるからだそうです。

4月にはフランスで大統領選挙の第1回目の投票があります。ここで過半数の票を取る人がいなければ(そう予想されています)、2週間後に上位2名による決戦投票が行われます。決選投票で戦うことになりそうなのが中道・右派の候補者予備選で選ばれたフィヨン元首相です。このときにはフィヨン氏の当選自体が「意外」と評されました。対するは反EUを掲げる極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首です。ルペン氏はブレグジット決定やトランプ氏当選のニュースに喜びの声を上げました。大統領になった場合、ブレグジットならず「フレグジット(Frexit)」に向けて歩を進めると述べています。6月には国民議会選挙が行われます。中道・右派勢力とともに国民戦線も大きく支持を伸ばす見込みです。

今のところ、ウィルダース氏がオランダの次の政権に参加する、あるいはルペン氏がフランスの大統領になる可能性は低いと見られています。でも、英米の例を見ると世論調査や専門家の予想は外れていますから、「ひょっとしたら」ということはあり得るでしょう。移民として英国に住む私たちにとって、息苦しい欧州になりそうですね。

9月にはドイツで連邦議会選挙があります。2005年から政権を担当しているメルケル首相ですが、移民・難民を大量に受け入れたことで内外から批判を浴びました。メルケル氏のキリスト教民主同盟の支持率は40%台から30%台に落ちています。フランスやオランダと比較すると、安定度が高いのがドイツと言われており、政権交代はないという見方は強いですが、難民の受け入れに反対する政党「ドイツのための選択肢」が支持を伸ばしています。メルケル首相は議会選挙で再び連邦首相候補として出馬することを明らかにし、「ドイツのために貢献したい」と述べました。

ブレグジットの行方とともに、欧州の政治動向にも注目ですね。サプライズはあるでしょうか。

 
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