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Thu, 28 March 2024

政府が上院の改革案を発表

議員数を300人に削減、8割は公選
政府が上院の改革案を発表

上院と下院の最大の違いは、上院議員が選挙で選ばれていないことである。このため、「非民主的であり、公選制にすべき」との意見はかねてからある。政府がこのほど発表した上院改革案はそうした流れを受けたものであるが、同案に対する反応は、必ずしも好意的なものばかりではなさそうだ。

現在の上院議員の構成(2011年5月3日時点)

所属政党名など 一代貴族 世襲貴族 聖職者 合計
保守党 170 48 - 218
労働党 239 4 - 243
自由民主党 88 4 - 92
無所属(Crossbench) 152 30 - 182
その他 27 2 - 29
聖職者 - - 25 25
合計 676 88 25 789
(*)上院議員を休職中、停職処分中などの23名は上記表に含まれていない
Source: UK Parliament

上院議員に聞いた上院改革への賛否


「上院議員の数を300名に減らし、
比例代表制による選挙で選ぶ」
という案に賛成ですか? 反対ですか?
オバマ大統領

上記の設問で調査対象となった上院議員のうち、
「賛成」と答えた議員の政党別割合
ホワイトハウス前に集う人々

(*)上院議員121人を対象に2011年1〜2月に調査
Source: ComRes



任期15年、選挙は比例代表制

クレッグ副首相は5月中旬、上院の改革案を盛り込んだ政府法案の草案と白書を同時に発表した。「上院改革法案草案」に盛り込まれた提案は、現在約800人いる上院議員を300人に減らすことなどが柱。現在は一代貴族、世襲貴族、聖職者で構成されている上院議員の80%を公選制とし、20%を任命制とすることを提案している。聖職者議員については、人数を今の20数名から12名に減らす。公選議員の任期は15年で、再選は不可。選挙には、1つの選挙区から2人以上が当選する大選挙区制を用い、投票方法は、比例代表制の一つである「単記移譲式(STV)」を使うことを提案している。

ブレア政権が世襲議員を大幅削減

英国における上院改革の歴史は長い。1911年に自由党政権が制定した「1911年議会法」及び1949年制定のその改正法は、税制・予算関連法案に対する拒否権を上院から剥奪したほか、その他の法案についても、拒否できる期間に上限を設けた(「関連キーワード」参照)。このように、上院の権限を制限することにより、上院に対する下院優位の原則が確立した。また、1958年には、世襲議員と並んで、一代貴族も上院議員の地位を得ることが可能になった。更に、ブレア労働党政権は1999年、当時750人程いた世襲議員 について、92人を除き、議員資格を剥奪した。労働党政権はその後も上院改革の継続を試みたが、成果はなかった。

昨年の総選挙時、主要3政党はすべて、上院への公選制度の導入を公約していた。保守党と自民党の連立政権が昨年5月に発表した政策文書は、「上院議員のすべてまたは大半」を公選制にするための改革の実行を約しており、今回のクレッグ副首相の発表は、同方針に沿ったものである。法案の草案及び白書に盛り込まれた提案は、今後、上下両院の議員から成る委員会が検討し、今年末頃にその結果が発表される。

「下院の優位」維持できなくなるとの懸念

しかし、政府案に対しては、上院議員はもちろん、保守党を中心とする下院議員からも強い反対の声が上がっている。反対の主張の主な内容は、上院を公選制にすると、前述した下院の優位を維持できなくなるというものである。ある専門家は、上院議員が比例代表で選出されれば、「小選挙区制で選ばれる下院議員よりも民意を反映した国民の代表である」と主張することも可能になると指摘し、上下院の対立の可能性を懸念している。また逆に、労働党議員の一部からは、「クレッグ副首相は、自民党のマニフェストに沿って、すべての上院議員を公選制とすることを目指すべきであり、80%案は妥協」との声も聞かれている(ただし、上院議員の80% を公選制とすることを提案した草案と同時に発表された白書には、全上院議員の公選案が含まれている)。

更には、公共支出削減と物価高が人々の生活を圧迫する中、政治機構改革は国民の関心事ではないとの声も上がっている。過去約100年間、英国議会の課題であり続けている上院改革。しかし、今後も早期の進展は困難と見られ、改革にはまだ長い時間が掛かりそうである。

Parliament Acts 1911 and 1949

「1911年議会法」と1949年に施行されたその改正法。1911年法は、政府の予算案を拒否するなど、保守党議員が過半数を占める上院が、当時の自由党政権と何度も衝突したことを受け、 上院の権限縮小を目的に制定された。同法は、税制・予算関係の法案の拒否権を上院から剥奪したほか、その他の下院が可決した法案についても、上院の遅延権を2年に限定した。更に、戦後に制定された1949年法は、この期間を1年に削減した。これら2つの法律が実際に使用され、下院の承認のみで法律が制定されたことは、これまでに7回しかない。

(猫山はるこ)

 
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