英国最大の資産を蓄え、恐らく誰よりも自国の歴史や文化にも深く精通している英王室メンバーたち。 彼らは望めば大概なものは手に入る立場にあると思われるが、しかし、そのお眼鏡にかなう品質を維持する商品は 実際のところそれほど多く存在しないだろう。逆に言えば、彼ら王室メンバーがお墨付きを与えた商品なら、 最上級の品質保証が付けられたことを意味する。王室御用達の食品を購入すれば、英王室の食卓を再現することも可能。英国生活でのちょっとした贅沢を味わうために、記念日のプレゼントに、日本へのお土産に。王室御用達を意味する「ロイヤル・ウォラント」が授けられた食品店を紹介する。(写真: 小原 祐一)
有閑マダムたちが好む家庭料理
Partridges
ウィリアム王子と結婚する前のキャサリン妃が頻繁に出没したと言われる、高級ショッピング街のスローン・スクエアに位置する高級食材店。近隣地区には無償で配達を行っているので、界隈のマダムたちの台所として大活躍している。店内に併設されたデリでは、ステーキ&キドニー・パイやシェパーズ・パイといった英国の代表的な惣菜を用意。「英国の料理はまずい」との固定観念に縛られた日本人観光客に紹介するには、打ってつけの場所かも。さらに毎週土曜日には、同店前でフード・マーケットが開かれる。グロスター・ロード地区にも支店あり。
2-5 Duke of York Square, Sloane Square,
London SW3 4LY
Tel: 020 7730 0651
最寄駅: Sloane Square
www.partridges.co.uk
食の国イタリアから運ばれてきた健康的な食材
Carluccio’s
青い看板と清潔感溢れる内装が特徴的なイタリア食材チェーン店。店名は、シェフのアントニオ・カルッチオ氏の名前から取られたもの。自然食品ブランドの運営を自ら手掛けるなど、食材に対しては強いこだわりを持つことで知られるチャールズ皇太子のお墨付きだけあって、オリーブ・オイル、パスタ、ハーブ、そして食パンなど、イタリア本場から運ばれてきた健康的な食材がたくさん。併設されたレストランで食事することもできる。上記のコベント・ガーデン店のほかに、高級店が集うボンド・ストリート駅近くなど英国各地に支店あり。
Garrick Street, Covent Garden, London WC2E 9BH
Tel: 020 7836 0990
最寄駅: Covent Garden
www.carluccios.com
チョコレート職人が仕込んだ手作りの味
Prestat
英国に帰化したフランス人チョコレート職人の息子が開業した、100年以上の歴史を持つ高級チョコレート店。最高級のココアを使用した商品は今でもすべて手作りで、その完璧主義を貫き通すために、チョコレート販売に関わる全作業を同店スタッフが手掛ける。顧客リストには、お墨付きを与えたエリザベス女王だけではなく、彼女の母である故クイーン・マザーや、故ダイアナ元妃も名を連ねていたとか。上記の店舗に加えて、ハロッズやロンドン三越などのデパート、またはウェイトローズなどのスーパーでも同社製品を販売している。
14 Princes Arcade, Piccadilly, London SW1 6DS
Tel: 0800 021 3023
最寄駅: Piccadilly Circus / Green Park
www.prestat.co.uk
英国紳士はこの店でチーズを買う
Paxton & Whitfield
ロンドン市内でチーズ販売の屋台を構えていた商人が、店名となったハリー・パクストン氏とチャールズ・ホイットフィールド氏の2人と共同して1797年に創業。1850年にヴィクトリア女王よりロイヤル・ウォラントを授かって以来、エドワード7世、ジョージ5世からエリザベス女王、チャールズ皇太子などに至るまで、歴代の王家メンバーに愛されている。ウィンストン・チャーチル元首相は、「紳士たる者は同店でチーズを買う」という言葉を残したとの逸話も。イングランド中部ストラトフォード・アポン・エイボンや同西部バースにも支店あり。
93 Jermyn Street, London SW1Y 6JE
Tel: 020 7930 0259
最寄駅: Piccadilly Circus / Green Park
www.paxtonandwhitfield.co.uk
英国産のシーフードを堪能するなら
James Knight of Mayfair
魚屋としては唯一、2個以上のロイヤル・ウォラントを保持するジェームズ・ナイト・オブ・メイフェア。店名となったジェームズ・アーサー・ナイト氏が100年以上前にこの魚屋を創業し、その後、ホテルへの卸売り業者として事業を著しく成長させたという。店内に並べられた商品の8割は、英国内またはアイルランドから取り寄せたもの。どの魚も新鮮なので、刺身にするのに適しているという点も日本人には大変うれしい。やはり王室御用達として有名なロンドンのデパート、セルフリッジ内に店舗を構えている。
Selfridges Food Hall, 400 Oxford Street, London W1A 1AB
Tel: 020 7318 3725
最寄駅: Bond Street
www.james-knight.com
クリミア戦争時から国民的人気を誇る食材店
Fortnum and Mason
ロウソクの販売店として始まり、今や良質の紅茶を販売するデパートの老舗として広く知られるフォートナム&メイソン。18世紀前半を生きたアン女王の宮殿でロウソクの取り換えを行っていたウィリアム・フォートナム氏と、彼が住んでいた家の家主のヒュー・メイソン氏が1707年に創業した。クリミア戦争時には、ヴィクトリア女王が野戦病院へ同社の食料品を送らせたとの逸話まで残っている。日本人観光客のお土産として人気の紅茶に加えて、英国人が夏の晴れた日に持参するハンパー(ピクニック・セット)の販売店として愛されている。
181 Piccadilly, London W1A 1ER
Tel: 0845 300 1707
最寄駅: Piccadilly Circus / Green Park
www.fortnumandmason.co.uk
300年以上にわたり同じ敷地で営まれるワイン商の最古参
Berry Bros & Rudd Ltd
300年以上にわたり、同じ敷地内にずっと同じ店舗を構えているという、まさに英国人好みの最古参のワインとスピリッツ商。食料雑貨店として始まった1698年の創業当時は、商品の計量のために店内に設置されていた大型の量りで、顧客の体重測定を行うなどのサービスを提供し、話題を集めていたという。19世紀前半から20世紀前半に英国を統治したエドワード7世の時代に王室御用達に指定された。加えて、ナポレオン3世や名優ローレンス・オリヴィエなどそうそうたる面々が同店を贔 屓にしたと伝えられている。日本にも支店あり。
3 St. James’s Street, London SW1 1EG
Tel: 0800 280 2440
最寄駅: Green Park
www.bbr.com
日本食ブランドも手掛ける健康食品販売店
Community Foods Ltd
自然派食品販売の草分けとして知られる、オーガニック食品販売店。英国で少しずつ自然派食品に対する意識が芽生え出した1970年代に、トルコ、インドや中国といった国々から食品を買い付け、英国に輸入するというビジネス・モデルを築き上げたという。ドライ・フルーツ、ナッツ、豆類などの種類が豊富。また昨今、英国を含む欧州各地で健康食として広く認知されている日本食の普及にも取り組んでいて、「Sanchi」というブランドの名の下でインスタント味噌汁、ラーメン、醤油などを販売。注文はオンラインで受け付けている。
Micross, Brent Terrace, London NW2 1LT
(*同オフィスでは商品の販売は行っていない)
Tel: 020 8208 2966
www.communityfoods.co.uk
意外な王室御用達品たち
「王室御用達」と聞くと高級品ばかりを思い浮かべてしまうが、意外にも、その中には私たちのような庶民が日常生活で知らず知らずのうちに購入している食品も数多くある。ここで紹介する王室御用達商品のいくつかは、皆様の冷蔵庫にもきっと紛れているはず。
Coca-Cola
意外にも米国の現代文化を象徴するコカコーラ社の商品も英王室御用達。
Carr's
チーズとの相性が抜群のクラッカー。
Silver Spoon
どこの英国人家庭でも見かける砂糖。
Strongbow
国民的な人気を集める
サイダー。
McVitie’s
英国のオフィスでのおやつ休憩でこのクッキーを食したことのある人も多いのでは?
Kelloggs
王家も忙しい朝はケロッグのコーンフレークで朝食を済ますのか?
Cadbury
イングランド中部バーミンガムが誇りとするチョコレート会社の商品。
Pedigree
ドッグフード。犬好きで知られる女王が愛用していると想像される。
Heinz
ケチャップの人気ブランド「ハインツ」。ビーンズの販売元としても知られる。
Robinsons
ロンドン西部ウィンブルドン生まれの濃縮ジュース。
英王室がお墨付きを与える認定書
12世紀のイングランド王、ヘンリー2世
過去7年間のうちに少なくとも5年以上にわたって英王室メンバーに商品を提供し続け、その品質を認められた企業や店舗の経営者に対して与えられる認定書のこと。最古のものは1155年にヘンリー2世により発せられたというから、850年以上の歴史を有する制度だ。
ロイヤル・ウォラントを下賜できるのは3人のみ
写真左から、エリザベス女王、
フィリップ殿下、チャールズ皇太子
現在のところ、エリザベス女王とその夫のフィリップ殿下、さらに彼ら夫婦の息子であるチャールズ皇太子の3人のみがロイヤル・ウォラントを与える権利を持っている。この3名すべてからロイヤル・ウォラントを授かるという、王室に愛し尽されている店も存在する。
英王室御用達店には 「ロイヤル・アーム」が!
ロイヤル・ウォラントを授かった店は、店前などに、提供者の名前が記された「ロイヤル・アーム」と呼ばれる紋章を掲げることができる。提供者はそれぞれ異なる紋章を持っているので、どの王室メンバーによって贔屓にされているのか一目瞭然。
エリザベス女王(写真左)、フィリップ殿下(同中央)、チャールズ皇太子(同右)のロイヤル・アーム
具体的に何の商品が御用達なのかは秘密
エリザベス女王が家具デパートのジョン
・ルイスで購入しているものとは?
ロイヤル・ウォラントは、王室が頻繁に購入する商品の提供者に与えられるものであることから、私たちは王室メンバーが具体的にどの商品を愛用しているかまでを知ることはできない。例えばエリザベス女王によりロイヤル・ウォラントを授かっている家具デパート「ジョン・ルイス」から女王が購入している商品は果たしてヤカンなのかベッドなのか、明らかにされることはない。そうした情報を公表した店舗は、ロイヤル・ウォラントを剥奪されてしまう決まりになっているのだ。
ロイヤル・ウォラントの有効期限は5年間
2000年にロイヤル・ウォラントを失った
高級デパートのハロッズ
ロイヤル・ウォラントの認定店は、通常5年ごとに英王室内の長官によって審査される。また認定を受けた事業主が死亡したり、他の業者によって買収されたりした場合も再審査の対象となる。王室御用達のデパートとして長く知られてきた高級デパート「ハロッズ」は、62年間保持していたロイヤル・ウォラントを2000年に失った。1997年にダイアナ元妃とともに事故死した同妃の恋人が、ハロッズの所有者モハメド・アルファイド氏の息子であったことなどが関係していると当時は取沙汰された。
ロイヤル・ウォラントの保持者は約850の商人
ロイヤル・ウォラントが与えられる対象となるのは、いわゆる商人のみ。弁護士や医者などは該当しない。現在、保持者は約850人。そのほとんどが、「ザ・ロイヤル・ウォラント・ホルダーズ・アソシエーション」と呼ばれる団体に所属している。
The Royal Warrant Holders Association www.royalwarrant.org