第170回: 法定居住者判定テスト(SRT)
英国とほかの国を行き来している従業員がいます。英国での税法上の居住ステータスは、183日の滞在日数で判断すれば十分と聞きましたが本当ですか。
必ずしもそうではありません。どの課税年度についても英国に183日以上滞在していれば、税法上の英国居住者であることは間違いありません。しかし、滞在日数が183日未満であっても、英国非居住者になるとは限りません。
思っていたより複雑そうですね。その人が税法上の英国居住者であるかどうかは、どうすれば分かりますか。
英歳入関税庁(HMRC)は、税法上の英国居住者かどうかを判断するために、法定居住者判定テスト(SRT)という、さまざまなテスト(国外居住者自動判定テスト、英国居住者自動判定テスト、十分なつながり判定テスト)を公表しています。英国での滞在日数だけでなく、仕事、宿泊先、家族など考慮すべき要素はほかにもあります。
従業員が出張で英国に滞在するため会社が不動産を借りた場合、英国の居住ステータスに影響しますか。
はい、自宅がなくても雇用主が所有する不動産を使用している場合、英国に宿泊先があると見なされることがあります。十分なつながり判定テストにより、宿泊先のつながりが英国の居住ステータスに影響する可能性があるため、代わりにホテルを予約することを検討した方がよいかもしれません。
従業員が海外で働いている間、家族が英国に滞在している場合も問題になりますか。
配偶者または未成年の子どもがその課税年度に英国の居住者である場合、英国で家族とのつながりがあることになります。未成年の子どもがフルタイムの教育のためだけで英国に滞在している場合、あるいは従業員が未成年の子どもと過ごす時間が十分にない場合は、一定の免除があります。
英国での滞在日数はどのように数えますか。
滞在日数の数え方は、その目的によって異なります。例えば、ある従業員が英国で1日3時間以上勤務していれば、その日は勤務日に算定されますが、午前0時前に出国していれば、その日は勤務日または滞在日にはなりません。さらに、例外的な事情で英国に滞在した日や英国を通過した日は、十分なつながり判定テストでは英国の滞在日数を計算する際に除外されるかもしれません。ただ、国とのつながりや仕事とのつながりがあるかどうかを判断する際には除外されません。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の際にHMRCは、英国に長く滞在しても英国での居住ステータスに影響を与えないことを認めたと聞きました。
その通りです。例外的な事情により英国に滞在していた人が、その事情がなくなり次第、英国を出国する場合は、最大60日まで除外できます。法律では、その例として「国家的または地域的な緊急事態」や「突発的または生命を脅かす疾病やけが」を挙げています。
記録の保存について教えてください。
自分の居住ステータスを判断するために、またHMRCから問い合わせがあった場合に証拠を提出するために、十分な記録を残しておくことが重要です。英国に滞在した日数については、搭乗券やパスポートのスタンプなどの書類でも十分な場合があります。
*この記事は一般的な情報を提供する目的で作成されています。更なる情報をお求めの場合は、別途下記までご相談ください。
チー・ラム
アソシエートパートナー
DeloitteとPwCに15年以上勤務し、駐在員税務に関するアドバイスを多くの多国籍企業に提供。英国税務のコンプライアンス、HMRCへの対応、渡英前の個人・企業税務計画なども得意とする。