ロンドン五輪の開催期間中、開催国である英国のメディアまでもが日本人選手の動向を
様々な角度から取り上げている。中には、日本ではあまり報道されない
意外なテーマを追ったものや、いかにも英国的なユーモアに満ちた見解も。
大会の中盤までに見られた、ユニークなものを選んで紹介する。
体操 男子団体総合
英国代表が100年ぶりのメダルを獲得した男子団体総合。日本の抗議が受け入れられた結果、当初4位と判定された日本が銀メダルとなり、英国が銀メダルから銅メダルになったという経緯も関心を集めた。
非人間的
「ガーディアン」紙 7日30日付
日本のスターである内村選手は王者としての状態を取り戻した。彼の鉄棒の演技は、決勝における最も華やかなイベントとなった。彼は、鉄棒の高さよりもずっと高く飛び、宙返りとひねりの非人間的な組み合わせを披露する時間を確保したのである。
一理あり
BBC Online News 7月30日
最終的に認められた日本の抗議が、英国の地元ファンたちからの嘲りの対象となったのは致し方ない。ただ再生映像を観る限り、あの抗議には一理あったように見える 。(覆った判定が)英国人たちを失望させてしまうかもしれない。しかし、がっかりすべきではない。銀メダルだと思ったら、銅メダルだった。だが英国代表の演技は、黄金時代の到来を告げるものでもあったのである。
体操 男子個人総合
体操の男子団体で英国が100年ぶりのメダルを獲得してから、英国内の体操競技への関心は膨らんだ。そして金メダル候補とされながら、不調にあえいでいた内村航平選手への注目もさらに高まっていった。
飛行のよう
「タイムズ」紙 8月2日付
内村航平選手は、漫画の登場人物のような、スコットランドの国花であるアザミの花の綿毛に似たふわふわした髪型を持つ、非常に痩せたモデル体型に巨人から借り受けた上腕を取り付けた選手である。彼は力技をバレエの演技のように見せてしまう。そしてバレエの演技のような動きをレイヨウ(陸上で最速とされる動物)の動きに見せる。彼のジャンプは跳躍ではない。あれは飛行だ。鉄棒種目で見せた輝かしいまでの着地は、鳥を彷彿とさせるような静けさであった。内村選手の準備ぶりは「くず」と形容できるものではあったが、彼はそのくずを金に変えてみせた。そして真に偉大な五輪選手としての地位を確かにしたのである。
『死んだオウム』より静か
「ガーディアン」紙 8月2日付
過去3年間、内村選手の動きはあまりに完璧だった。その完璧な動きは、あらかじめ運命によって定められているかのようであった。しかし今週になって、彼もミスを犯す人間であるということが明らかになったのである。昨日、世界選手権を3度にわたり制したこの王者は、楽々とした動きとすさまじい努力を合わせたアプローチで目新しい演技を披露した。彼の跳馬からの着地は、モンティ・パイソンの有名なコントに出てくる「死んだオウム」より静かなものであった。
(写真左から)男子体操の内村選手の活躍を報じる8月2日付の「タイムズ」、「ガーディアン」、「インディペンデント」紙
女子サッカー 日本対カナダ戦
ロンドン五輪開幕式の2日前に行われた、女子サッカーの日本対カナダ戦。まだそのほかの競技が進行していない時期に実施されたこともあり、1次リーグの初戦にも関わらず大きな注目が集まった。
誇りに思う日が来るかも
「ガーディアン」紙 7日26日付
世界王者である日本女子代表の応援団は、「ニッポン、ニッポン」という掛け声で、観客席そして報道席から目立った応援を行っていた。(なでしこの最初のゴールについて)会場となったコベントリー・スタジアムにおいて、もしかするとより素晴らしいゴールが過去に生まれていたかもしれない。しかしその数はそれほど多くはないはずだ。もし日本がこのまま勝ち進み、米国やブラジルといった強敵をなぎ倒して、W杯での成功に続き、ロンドン五輪で金メダルを獲得すれば、コベントリーの街は、その日本のスタート地点に居合わせたことについて小さな誇りを感じることができるだろう。
(左)サッカー女子での日本代表の勝利を伝える7月26日付「ガーディアン」紙
(右)スペインを破る金星を挙げたサッカー男子日本代表の活躍を報じる7月27日付の「インディペンデント」紙
サッカー男子 日本対スペイン戦
優勝候補と目されていたスペイン代表を日本代表が1対0で下した、サッカー男子1次リーグD組の初戦。まさかの金星(Giant Killing)に、英国メディアも飛びついた。
「ガーディアン」紙 7月27日付
日本は歴史を作った。勝利に相応しい。フィニッシュさえ良ければ、スペインから5、6点を奪うこともできた。永井謙佑選手は本当に使える選手だ。前線を一人で張りながら、強靭さと豊富な運動量を示してみせた上に、正確なボール・タッチと狡猾な頭脳をも持ち合わせている。イングランドのプレミア・リーグにおける移籍期間はまだ1カ月間残っていることだし、このような活躍を続ければ、永井選手には英国のクラブからお呼びがかかるかもしれない。
スペイン対策のお手本
「インディペンデント」紙 7月27日付
日本のプレーは、スペインのユニークなスタイルを崩すにはどうしたらよいかという実施教育を見せているようだった。疲れ知らずの永井選手は日本最強の武器の一つだ。
なでしこのエコノミー席利用で波紋
五輪開幕直前には、サッカー日本代表の待遇における「男女差別(Sexism)」について英各紙が取り上げた。これらの記事の内容は、ロンドン入りする直前の東京〜パリ間の移動において、男子代表はビジネス・クラス、女子代表はエコノミー・クラス(今回のパリ入りではプレミアム・エコノミー)を利用したというもの。「ガーディアン」紙に至っては「女子代表に比べて、男子はメダル獲得の可能性が少ないにも関わらず」といった厳しい見解を付け加えていた。
(写真)「ワールド・クラスの女子、エコノミー・クラスの旅」との見出しを掲げる、7月20日付の「ガーディアン」紙の記事
馬場馬術 個人
馬術への出場で、今大会の最年長選手となった71歳のアスリート、法華津寛選手にも英国メディアの関心は向けられた。五輪開幕前にはBBC とのインタビューでその流暢な英語を披露していた。
経験豊かな者はいない
「インディペンデント」紙 7月31日付
眩しいくらいの若々しさに満ちた五輪の舞台では、スポーツでのチャレンジにおける、経験というものの価値が簡単に忘れられてしまう。ロンドン五輪の最年長選手である、71歳の法華津寛選手ほど経験豊かな者はいない。1964年の東京五輪で五輪初参加を果たした同選手は、年金受給資格の有無に関わらず、いわゆるシニア層に属する競技選手たちの筆頭に立つ存在だ。実際の年齢より20歳ほど若く見えるこの日本の馬術選手はドイツで練習を積んでおり、妻には1年以上も会っていない。
(写真)法華津選手を大きく取り上げた8月3日付「メトロ」紙の記事
そのほかのオリンピック報道
- ●カンボジア代表としての男子マラソンへの出場が問題視されていた猫ひろし氏を、「日本の猫芸人(Japanese Cat Comedian)」と紹介。(BBC)
- ● 柔道のルール解説で、判定の種類を「一本・技有りッス・ようこ(Ippon, Waza-aris and Yoko)」と説明。(「デーリー・テレグラフ」紙)
- ●平泳ぎの北島康介選手を「カエルの王様(Frog King)」と呼んで解説。(BBC)
- ●日本のメディアが、北島選手を「顕微鏡で見つめるように細かく追いかけ、そして彼がひとかきする度にその動きについてコメントを発している」と表現。(「ガーディアン」紙)
- ●レスリング女子の吉田沙保里選手を「世界で最も素晴らしい10人のスポーツ選手」の中の一人として紹介。(「ウィーク」誌)
- ●女子レスリングの吉田沙保里選手は「ポケット・ターミネーター」。(「ロイター」)
- ●柔道女子57キロで金メダルを獲得した松本薫選手の決勝戦の最中に、同選手が「引退後は柔道のコーチか菓子職人または天文学者になりたいと言っている」という談話を引用した上で、アナウンサーが「天文学者は夜の仕事だから、すべての職業を両立させることが可能じゃないか」とコメント。(BBC)
- ●総合馬術個人の馬場馬術第2日目に首位に立った大岩義明選手について「(英国の王室メンバーでもあるザラ・フィリップス選手の同種目出場が話題を集める中で)本来の馬術競技好きにとっての話題は、これまでそれほどの賞賛を集めていない、36歳の大岩選手であった」と解説。(「ガーディアン」紙)
- ●五輪史上最重量選手である柔道男子のグアム代表、リカルド・ブラス・ジュニア選手について、218キロという彼の体重は「日本の女子体操チーム全員の体重を合わせたものよりさらに約44.5キロ重い」と解説。(「サンデー・タイムズ」紙)