(Text: Shoko Murakami)
Terry Holt
剣道を始めたきっかけを教えてください。
剣道を始めたのは26歳のとき。今から45年ほど前のことです。それまでは柔道をやっていました。サッカーには全く興味を持てない子供で、10歳の頃、近所の学校で行われていた柔道のクラスに通い始めたのです。柔道をやっているときには怪我が絶えず、金銭的にも大変だったので、道場で稽古を見る機会のあった剣道を始めることにしました。
近年、柔道人口は世界的に増えていますが、剣道はまだマイナーというイメージがあります。その違いは何だと思いますか。
伝統と礼儀作法を重んじるという点で、元々は違いがないと思います。ただ、柔道はオリンピック種目になってから、伝統の持つ比重が低下し、純粋なスポーツになっていったのではないでしょうか。剣道もオリンピック種目になるよう働き掛けるべきか、剣道関係者の間では意見が真っ二つに割れています。難しい問題ですが、現実的に考えれば、剣道も伝統さえ守られればもっと前に進むべき。競技人口を増やしたいのならば、スポーツの要素を強めてもいいのでは、とは思います。
剣道を始められた当時は防具を揃えるのも大変だったのでは。
その頃は、日本から取り寄せるしかなかったですからね。当時の価格で防具一式30ポンド、ひと財産です。竹刀を長く持たせるために、油やアルコールに浸したり、自転車のチューブを被せたり。確かに長持ちしましたが、とても重かった(笑)。
無名士道場で後進の指導に当たるホルトさん
剣道をやる上で、一番つらかったことは何ですか。
1975年、日本で初めて、外国人向けの剣道の稽古会が開催され、参加する機会に恵まれました。16日間、休憩を挟んで一日9時間、毎日剣道漬けの日々を過ごしましたね。教える側も初めて、教わる側も初めての経験。日本人の先生たちは、「やってあげよう」という気持ちが強かったのでしょう、凄まじい稽古となりました。体調を崩す参加者が続出、私は元気は元気だったのですが、体重はがくんと落ちました。
剣道をやっていて、一番うれしかったことは何ですか。
今から11年ほど前、7段の昇段審査に受かったことですね。当時は日本でしか受けることができなかったので、日本に赴き実技審査を2回、筆記試験も受けた上で、合格することができました。現在は8段に挑戦中。これまで2度失敗していて、今年の11月に3度目のチャレンジをします。
スポーツと武道の間に違いはあると思いますか。
確実に違いますね。スポーツはアクティビティー、楽しむことが一番。武道では、礼儀を重んじ、広い心を保つ。生き方そのものが問われてくるのです。もちろん、剣道でも楽しむことは大事ですが、楽しみから多くのことを学び取ることが必要となります。
剣道を通して、自分自身、そして他人の人生に心を開く。なぜなら剣道では、相手を知る前にまず自分自身を理解しなければならないからです。自分自身の弱さを知れば、相手の弱点も分かる。これが剣道の哲学だと思います。そしてその極意を知るためには、一生懸命、稽古に励まなければなりません。稽古を通じて己を解放し、己が自由になるのです。
剣道を続けていく上での目標は。
これまで通り、死ぬまで世界中に剣道を広めていきたいですね。剣道は社会に広く門戸を広げたフリーメイソンのようなものだと思うのです。竹刀を合わせれば、一生友情は続いていく。
今から2年前、道場の創立40周年の記念パーティーを東京で行いました。その席上で20代の若者10人ほどを紹介され、「彼らを知っているかい?」と聞かれたのです。「いや、知らないな」と答えると、彼らが「ハロー、センセイ!」と口々に言うではないですか。すっかり成長していて分からなかったのですが、その昔、ロンドンの道場で剣道をやっていた教え子たちだったのです。とても幸せなひとときでした。
あとはやっぱり、8段に合格できれば最高ですね(笑)。
孫のオーウェン君も子供部門のクラスに通う
大会情報
● オックスフォード・ケンブリッジ大学対抗戦
(ケンブリッジ大学)
オックスフォード大学とケンブリッジ大学の間で行われる対抗戦。ホルトさんは審判長として参加予定。
3月5日(土)
● 欧州剣道選手権(ポーランド)
3年に2回開催されている大会。欧州剣道連盟が主催している。
5月5日(木)