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ロンドン生活便利サイト neconote
Tue, 07 April 2020

不可解な景観規制は何のため? - ここが変だよ英国人

英国暮らしを送っていると、外国人である私たちには不可解に思える習慣や決まりに戸惑うことがある。その一つが、建築物における、俗に「景観規制」と呼ばれるもの。この規制があるがために、テレビの日本語放送を観るためのパラボラ・アンテナ一つ自宅に取り付けることができないなどの不便を強いられている人も少なくないはず。また賃貸しているならともかく、自分が購入した家の改築さえ認められないという納得できない事例も多い。一体何のために、ときに理不尽とも言える景観規制が英国には存在するのか、果たしてそうした規制は本当に必要なのか。日本と英国で活動する識者の意見を聞いた。

London

英国の巷でよく聞かれる「景観規制」の事例

1. 商店の看板が出せない

個人で起業して、ようやく念願の店舗を出すことができた。ところが、景観規制によって看板を店の前に掲げることができない。だから店の存在すら、いまだ地域の人々に認知してもらっていない。

2. パラボラ・アンテナが 付けられない

英国で日本のテレビ番組を観るためには、パラボラ・アンテナを設置しなければならない場合がある。このパラボラ・アンテナの設置に対して、「景観を乱す」との理由で、カウンシルからの許可が下りない。

クーラー室外機3. オフィスに冷房を設置できない

大都市とされるロンドン市内でも、室内に冷房が設置されていないオフィスはいまだに多い。そこで新しく大型の冷房装置を設置しようと思ったが、外部に設ける排気口が景観を乱すとして許可されなかった。

テラス禁止4. テラスを設置することができない

遂に英国で念願のマイホームを購入。ベランダやテラスを設置して、その空間で毎朝コーヒーを飲むのが夢だったのに、許可が下りないことが分かった。なぜ自分で購入した家を改築できない?

内装工事禁止5. 内装工事さえも禁止された

オフィスにエレベーターを設置することもできないと言われた。内装工事なのに、「景観規制」と一体どういう関係があるの? どうも「リスティッド・ビルディング」* だからというのが理由みたいだけれど……。

セントポール大聖堂の見晴らし6. セント・ポール大聖堂の見晴らしを妨げてはならない

グリニッジ展望台などロンドン市内の見晴らしの良い場所からは、セント・ポール大聖堂がいつでも見られるような視界を確保しなければならない。その視界のライン上には、高い建物を建設できないとか。

*リスティッド・ビルディング
歴史的価値を有するなどの理由で、保護対象として認定された建築物のこと。認定されると、その建築物を破壊、拡張、改築する際には、特別な許可を得る必要がある。「Grade I」「Grade Ⅱ*」「Grade Ⅱ」の3段階に区分けされている。

英国の「景観規制」とは?
各地域の景観を守るために定められた規制のこと。新築及び改築などを計画する当事者は、その内容によって、事前に居住地域の地方自治体に開発許可(Planning Permission)を提出しなければならない定めとなっている。

建物
鶴田 太郎さん

1968年5月4日生まれ、大阪市出身、ロンドン在住。
The Architectural Association School of Architecture(AAスクール)卒。マイケル・ホプキンス & パートナーズ(現ホプキンス・アーキテクツ)、エリック・パリ・アーキテクツなどロンドンの主要設計事務所に勤務後、ツルタアーキテクツを設立。王立英国建築家協会の資格を保持する日本人建築家としてロンドンで活動している。
www.tsurutaarchitets.com

大規模な開発だと政治的要素が強くなります

英国の景観規制は、どのように策定されているのですか。

景観規制と言うよりも、私たちは開発規制と呼びます。開発を行うには、開発許可(プランニング・パーミッション)を地方自治体から得なければなりません。建物の持ち主が代わっても、建物は残る。管轄地域に価値のある建物があれば、それを残すのが義務、というのが開発規制を支える一つの考え方です。

具体的には、どのような建物が規制の対象となりますか。

景観保護の面では、まず「コンサベーション・エリア」という指定地区があります。開発許可のほかにも更なる許可が必要になるなど、より多くの制約が出てきます。また各地方自治体は、コンサベーション・エリアを指定する法的義務を負っています。よって歴史的、建築的な意義のある建物群が少ない地域では、価値がそれほどないのにコンサベーション・エリアに指定されている場所もあるのです。逆に多数の歴史的建築物を有するケンジントン・チェルシー地区などは、全体の約7割がこのエリアに該当します。

またリスティッド・ビルディングと呼ばれる、イングリッシュ・ヘリテージ(政府公認の保護団体)を介して守られている建物もあります。それらの建物に手を加えるには、地方自治体に加えてイングリッシュ・ヘリテージを説得する必要があります。

開発が困難な建物に対して、建築家はどのようにしてプロジェクトを進めるのですか。

基本的にグレードの高いリスティッド・ビルディング以外ならば、開発は不可能ではありません。私の携わったプロジェクトの中にも、リスティッド・ビルディングのGrade Ⅱに指定された建物がいくつかあります。その中の一つに、「価値のある部分以外は取り壊せる」という許可が出たにも関わらず、近隣住民による反対運動が展開されたことがありました。開発が進むことで近隣地域にある物件の価値が下がることを懸念したようです。彼らは取り壊す許可が出た部分をも保護対象に加えるようにとの申請をイングリッシュ・ヘリテージに出しました。そして、後にその部分もリスティッド・ビルディングとして指定されたのです。ただ、最初に出た許可が覆されることはなく、開発は進みましたが。

開発の規模によっても事情は変わってきます。大規模なものの場合、政治的要素が強くなり、建築家の知名度も決定を左右します。そうしたときに建築家は、地方自治体の開発規制を取り扱う部署の署長や、CABEと呼ばれる開発計画の質を審査する機関などと折り合いをつけることになるのです。一方、規模の小さいリスティッド・ビルディングでは政治的要素が小さくなり、地方自治体はマニュアル通りに事を進めるので、許可を取るのが困難になるということがよくあります。

公聴会議に、反対派のロビイストがいました

地方自治体以外の機関が決定に関わることも多いのですね。

リスティッド・ビルディングの増改築や取り壊しに関しては、イングリッシュ・ヘリテージからの推薦(実質は許可)と地方自治体からの許可、規模が大きくなるとCABEからの推薦も必要です。開発許可申請の過程としては、まず申請書を出すと、近隣所に通知をしたり街頭に掲示をしたりして、開発事業に対する一般からの意見を募ります。そこで一般からの反対が出なければ、地方自治体の開発規制部署が申請の可否を決めます。もし反対が一般から4つ以上寄せられるも、地方自治体が賛成した場合は、申請は地方自治体の公聴会議に掛けられ、カウンシラー(地元の町会議員)などが議論して可否を決めます。逆に許可が下りない場合、申請者は地方自治体から切り離された国の機関に異議を申し立てることができます。

地方自治体や公聴会議の判断は、妥当なものだと思いますか。

私も開発案を設計した建築家として、公聴会議にて反対意見への応答をしたことがあります。あるときは、カウンシラーの中に反対派のロビイストが2人いました。この会議は夜7時くらいから行われたためにカウンシラーの中には疲れている方もおられ、計画案を理解しないまま、その2人のロビイストに全体が流されているとの印象を受けました。民主主義のあり方に疑問を持ちましたね。こうした事例は決して特殊なものではありません。

景観規制自体ではなく、その運営のされ方に問題がある

交渉や圧力によって、景観規制の対象になるかどうかが決まることがあるのですね。

開発許可の申請を専門の仕事とする人たちもいます。地方自治体の開発規制の部署で過去に働いていた経験を持つ人が多いようです。彼らは各地方自治体における開発規制の政策に通じており、規定や政策が書かれた文書の言い回しを深く解釈した上で、開発の正当性を論理的に主張します。

さらに、彼らは申請の異議申し立てを嫌う地方自治体の体質をもよく理解しています。その意味では、彼らの力が申請の可否を左右する場合もあるとも言えます。

煩瑣(はんさ)かつ、ときに政治的なこうした規制は必要ないと思いますか。

景観規制を含めた開発規制は必要です。私も仕事柄、土地開発業者の方々とのお付き合いがありますが、中には景観やら安全面などに気を払わず、とにかく安く建てることしか考えていない業者もいますからね。だから、住民はもちろんのこと、建築家が規制によって守られている部分もあるんですよ。

問題があるのは規制そのものではなく、その運営のされ方です。例えば、地方自治体の職員の中には、図面さえ読めない人がいます。公聴会議にロビイストが紛れ込んでいるというのも問題でしょう。

建物
妹島 和世さん
妹島 和世
1956年生まれ、茨城県出身、日本女子大学大学院卒。95年に同じく建築家の西沢立衛氏と共に、建築家ユニット「SANAA」を設立。現在、慶応義塾大学教授。2010年には、建築界のノーベル賞と言われる「プリツカー賞」を受賞。同年、ベネチア・ビエンナーレ建築展の総合ディレクターを務める。ロンドンでは、09年にサーペンタイン・ギャラリーが開催する建築プロジェクト「サマー・パビリオン」を手掛けた。

写真: ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー前に設営したパビリオンの前で写真撮影に応じる妹島氏(写真右)


www.sanaa.co.jp

集まって暮らすには何らかのルールが必要

英国では建築物に対して厳しい景観規制が敷かれていますが、このような規制は必要だと思いますか。

人間は、一人では生活することができませんよね。だから集まって暮らすことになります。ところが集まって生活すると、今度は色々な問題が生じてくる。集まって暮らすには何らかのルールは必要だろうと思います。

だから、一般論として、ある程度の景観規制は必要だと私は思います。ではどんな規制をどのくらいかけるべきかとなると、これは難しいです。実際に景観規制の対象となった家に住んで不便を強いられている人の話によると、随分と大変だと聞きますからね。ただ何かを「守る」ということは大切だし、不便も強いられるし、お金もかかるということだと思います。

景観に対する意識が低い東京の方が例外的だと思います

「景観を大事にする」という考え方は、実際にその場所に住んでいる人の利便性よりも、「美しい景色を守りたい」という、観光客や通行人の願いの方を尊重しているという意味で理解できない部分も多いのですが。

ただ、その「住んでいる人」も、やはりきれいな景観で生活することができるわけですから。景観に対する意識が比較的低い東京のような都市の方が、むしろ例外的なのだと思います。というのも、東京の住宅は、一つひとつの部屋の作りがとても狭いですよね。それなのに地価は高い。どうしても、内側のスペースをどう有効に使うか、ということだけに意識が向いてしまいます。だから住宅を作るときにも、それぞれの部屋の中に何が欲しいかという形で、家の内側の要求条件ばかりを考えがちです。

でも、どんなに小さい家でも、一人の人間の体よりは大きいものですからね。それだけの大きさのものが、街というさらに大きなものを構成していると考えれば、やはり景観について考えることは必要なのだろうな、と思います。

建築家としては、景観規制が少ない日本の方が自由な建築活動を行うことができると思いますか。

建築規制そのものは、形を変えて、どの国にも存在します。例えば英国に比べると、日本では景観上の規制が少ないという印象を持ちますが、でも日本は高温多湿でものすごく雨が降って、さらには地震もあってという国ですから、そういう意味では厳しい規制がかけられているわけです。もし、英国で長年にわたって建築家として働いてきた方が急に日本の建築物を手掛けることになったら、耐震力とか耐風圧の規制の厳しさに驚くのではないでしょうか。

一方で、日本ではまだ、エネルギー効率などの面においては、欧州諸国に比べて遅れている部分があるかもしれません。日本でも最近厳しくはなってきていますけれどもね。エネルギー規制が厳しい国や地域の住宅では、熱を逃さないために気密性を高くしようとして、扉が重くしっかりと閉まるように設計されているんですよね。でも私の体格は日本人の中でも小柄な方だから、あんな重い扉を開けるだけで一苦労してしまうんです。日本であんなものを作ったら、「開かない扉なんか作るな」というクレームがくると思いますよ。昔ながらの日本での暮らしというのは、気密性よりは、むしろ風が自在に通り抜けられるようにとの考え方から、扉の開け閉めが軽くできる作りを好みましたからね。つまりエネルギーを大切にすることは重要ですが、それぞれの場所でのより良いやり方を考える必要があるのだと思います。

英国の方が、建築そのものに興味を持っている人が少し多いかも

ほかに建築に関して、日本と英国の違いを感じますか。

英国ではサーペンタイン・ギャラリーでのパビリオン建設の仕事しか手掛けたことがないので、日本と英国の違いといったことについて、はっきりとしたことは言えません。ただ本当に大雑把な印象を言うと、日本よりも英国の方が、建築そのものに興味を持っている人が少しだけ多いというか。特に日本の若い人たちは、建物の中身、つまりどの場所で何が食べられる、どんなエンターテイメントを観ることができるということは常に話題にしているけれども、何かの建物そのものを観るために遊びに出掛けることは少ないんじゃないかな。一方で、ロンドンでは観光客でなくとも、建物めぐりをする人が多くいらっしゃいますよね。

あとはやはりロンドンの街の作りが好きです。東京に比べれば、スケールが小さいじゃないですか。親しみを覚えやすいと思うのです。また現在の街の形ができあがった時期が、東京よりも早くて、イタリアの古都と呼ばれるような地域よりは遅い。世界の中でも特別な街を作り上げていると思います。

サーペンタイン・ギャラリーのパビリオンの話が出ましたが、振り返ってみて、どのような仕事でしたか。

一番大変だったのは、やはり制作の時間が限られていたということですね。その他の面では、色々な場所で組み立て可能であることと、公園の中に設置できることというのがほぼ唯一の条件みたいなものでしたから。例えば音楽ホールを作るということになったら、音響とかその他の性能とか色々な注文があるけれども、あのパビリオンは、そうした機能的な制約はほとんどない。自由であるという意味で、楽しい仕事でした。

話は変わりますが、英国人は日曜大工を好むことで知られています。わざと古い家を買って、改築を楽しむ人さえいるほどです。ご自身が設計した家を好き勝手に変えられてしまうことについては複雑な思いを抱きませんか。

いや、むしろ私はそういった試みに対して大変な興味を持っています。ある建物の中で暮らす人がどういう使い方をするかを考えながら設計するのが好きだし、それと矛盾するけれども、建築家が精一杯考えた形とは全く別の使い方を、その建物を使う人々が考え出す、という過程にも大変興味があります。そしてまた新しいものが作り上げられるのだろうと思います。

 
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