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mizkan
Fri, 04 December 2020

ウィズコロナ時代を生きる英国市民たち

ウィズことな時代を生きる英国市民たち

暮らしに見える7つの変化

新型コロナウイルスが世界中に広まり、誰も想像しなかったパンデミックに突入して半年以上が経過した。国家統計局が集計したグラフからは、夏以降、人々が再び外出を控えるようになったことが読み取れる。数値に反映されない、英国の市民の生活は実際どうなっているのだろうか。
今まで着けたこともなかったマスクが必需品になったように、新型コロナと共に生きるウィズコロナ時代の新しい生活様式を、戸惑いながらも受け入れている。見通しの立たない状況に奮闘する市民たちの姿や、新型コロナによる社会への影響をまとめた。
文: 英国ニュースダイジェスト編集部
参考: BBC、The Guardian、Big Hospitalityほか

社会的な交流パターンの推移

新型コロナウイルスによって、
国内で7つの大きな変化が生まれた。

フード・デリバリー事業の発達 フード・デリバリー事業の発達

英国では、新型コロナウイルスの蔓延を防ぐため、3月23日のロックダウン以降、多くの企業が一時閉鎖することを義務付けられた。特にパブやカフェなどの飲食業は、7月に再開が認められたものの、10月から再び限定的な営業となり、厳しい状況におかれている。

この状況下で伸びてきた分野がフード・デリバリー事業だ。消費者データを扱うマーケティング会社スタティスタのレポートによると、英国のデリバリー市場はパンデミック前の2018年から19年にかけて81億ポンド(約1102億円)から85億ポンド(約1157億円)に市場価値を上げており、ロックダウン前から成長の受け皿が整っていたことが分かっている。「週末のごちそう」の位置付けだったフード・デリバリーが、ロックダウンによって曜日、時間帯を問わず利用されるようになった。その結果、フード・デリバリー・サービスのデリバルー(deliveroo)には、3月以降、約1万1500店舗が新規に登録。配送員も2万5000人から5万人以上に増やし、爆発的な需要拡大に対応している。また、利用者が配送員への感謝の気持ちを込めて、直接チップを払える機能を新たに搭載し、デリバリーをレストラン感覚で利用できるシステムを整えた。

新ビジネスの誕生 新ビジネスの誕生

「ロックダウンで公共交通機関が使えなくなり、職場に通えなくなった」「一時閉業に追い込まれ、雇用の余裕がなくなった」などの理由で、新しい職場への就職や新事業の立ち上げが反故になってしまい、夢を一瞬にして失った市民も大勢いる。メディアでは、そうした個人事業主に起こった苦労話や、規模の小ささを生かしてその後成功したビジネスの例を頻繁に紹介している。

フリーランスのヘア・スタイリストであるモニーク・マーフィーさんは、自分が住むエリアにアフロ・ヘアーを扱えるヘアサロンがないことに注目し、自分のサロンを立ち上げた。カフェの経営者であるエミリー・ファーフィーさんは、ロンドンから思い切って英南部フォークストンに拠点を移し、ソーシャル・ディスタンスを確保できる広々とした空間のカフェをオープンした。「再出発するなら人々に今求められているものを提供するのがいいのではないか」。機転を利かせたアイデアがヒットし、新たな仕事と共に生活を送っている。

不動産事情の変化 不動産事情の変化

2020年10月末時点で、ロンドン在住の会社員は、できる限り自宅で働くよう推奨されている。自宅がオフィスになるという新しいライフスタイルがいつまで続くか見通しが立たないため、庭付きの戸建てや、緑豊かな公園がそばにある物件の人気が上昇している。

英大手不動産ポータルのライトムーヴによると、この秋、市場に出回っている住宅の平均提示価格は過去最高を記録しており、不況に突入しているにも関わらず、購入者は昨年の同時期に比べ5.5パーセントも高い住宅購入を検討していることが分かった。夏以降に住宅事業が活発化している理由は、今年7月、「最大50万ポンド(約6807万円)で販売された住宅までは、住宅購入時に課せられる印紙税を無料にする」、というスキームが発表されたことによる。同スキームは来年3月31日までイングランドと北アイルランドで適用される。

環境問題の改善 環境問題の改善

第1回目のロックダウンは英国経済にとっては痛手だったものの、公共交通網が止まり、飛行機の移動も大幅に制限されたことで、7月時点で大気汚染や温室効果ガスが昨年に比べ激減したという、予想外の朗報がもたらされた。

人々の移動パターンのデータを扱うストラヴァ・メトロによると、ロンドンでの新規自転車利用者数の上昇率は5月でピークに達し、前年比119パーセントの増加が見られた。理由としては移動の手段がほかにない、人の往来が減って走りやすい、などの要因が挙げられている。現在自転車の走行車数は減少傾向にあるものの、電動自転車や電動スクーターなど新たな移動手段の需要は高まってきているという。また、自転車利用者数の増加に伴い、自転車修理の請負サービスがロンドン各地に新設、電動自転車の共有サービスの拡大など、環境に優しい新たな雇用の創出も加速している。

市民による医療従事者への支援が盛んに 市民による医療従事者への支援が盛んに

もともとチャリティー活動に熱心な英国市民。パンデミック以降は、医療従事者への支援が一段と目立った。歩行器を使って自宅の庭を100回往復するチャレンジで、約3200万ポンド(約43億円)の寄付を集めた退役大尉のトム・ムーアさんをはじめ、自らデザインしたマスクの売り上げ金2475ポンド(約33万円)を寄付したバスのオペレーター、ロックダウン中の6カ月間、1日約5キロメートル走り、1000ポンド(約13万円)以上を集めたティーンエイジャーなど、さまざまな形でチャリティーを行う市民が後を絶たない。

また、チャリティー以外にも、NHSスタッフを対象としたカフェやショップの割引制度の開始、NHSスタッフに感謝の気持ちを込めて木曜日の夜に拍手をするイベント「クラップ・フォー・アワ・ケアーズ」(Clap For Our Carers)、雨の後に出る虹を希望に見立て、メッセージを添えた虹の絵を窓に貼る運動なども実施された。

ファッションの変化 ファッションの変化

不織布マスクが高値で売買され、一時期マスクが手に入らない状況となったのは英国も日本も同様だ。現在は洗える布製のマスクが主流となっており、ファッション感覚で着けられるおしゃれなものや、顔とマスクの間に空間を設け、呼吸がしやすいスポーツ用など、使用目的に合ったマスクが販売されている。中でも、このコロナ禍で売り上げが跳ね上がったのは、手作りのファッション・アイテムを販売するオンライン・サイト「ディーポップ」(Depop)だ。さまざまな人種の肌トーンに合うような豊富なカラー・バリエーションのマスクを取り扱い、ファッションに関心の強い若者を中心に人気を博している。

また、通勤など自宅勤務で確保できた時間をエクササイズに充てる人が増え、トレーナーなどのカジュアルな服やスポーツ・ウエアの売り上げが昨年比で17パーセント増加。ファッション業界の業績不振は顕著だが、一方で恩恵を受けているブランドも一部あるようだ。

オーガニックな暮らし オーガニックな暮らし

ロックダウン当初に起こった買い占めでスーパーマーケットでの品薄が問題になり、食料品の調達ルートにも変化が見られた。今まであまり利用することのなかった地元の個人商店で食品を購入する人や、地元の農産物などに関心を向ける人が増加。また飲食店が一時閉業になったことで、良質な食材が地元の商店へ流通するようになった。そのほかにも、在宅勤務で荷物の受け取りがスムーズにできることから、新鮮野菜の配送サービスを利用する人も増えた。

ロックダウン中にガーデン・センターが飲食店より早くオープンしたことで、都市部を中心に、家庭菜園を始めた人も。地方では、近所の農場から堆肥を分けてもらい、本格的な野菜作りに挑戦する、鶏小屋を自ら作り、ニワトリを飼育するなど、自給自足とまではいかないものの、新たな趣味の一つとして、自家栽培を楽しむ人が増えた。


次世代へ記憶をつなぐ

増え続ける感染者、愛する人の死、経済的な打撃、友人との交流の制限など、新型コロナウイルスが市民に与えた影響は、挙げればきりがない。
「2020年は失われた年」だと囁かれているなか、この異例の事態を何らかの形で残そうとする動きがある。あとで振り返って笑えるようになるまで、まだまだ時間はかかりそうだが、この出来事を未来へ伝えるさまざまな活動を紹介しよう。

「コロナ・アート」の誕生

ロンドン博物館(ミュージアム・オブ・ロンドン)では、パンデミック時のロンドン市民の生活を後世に残すため、関連のオブジェを4月から公募している。ロックダウンで自宅が活動の拠点に変わり、ライフスタイルが変化していく様や、一連の出来事が若い世代にどのような影響を与えたかを、市民の記憶とともに紹介する予定だ。

また先月、毎年デザイン・ミュージアムで開催される、過去12カ月で制作された革新的なデザインに贈られる国際的な賞「ビーズリー・デザインズ・オブ・ザ・イヤー」(Beazley Designs of the Year)のノミネート作品が発表された。新型コロナウイルス感染症の原因となるウイルスSARS-CoV-2のグラフィックや、3D プリンターで作ったフェイス・シールドなど、新型コロナにまつわる作品が数多く選出された。

ビーズリー・デザインズ・オブ・ザ・イヤーにノミネートされた「3D rendering of SARS-CoV-2」 ビーズリー・デザインズ・オブ・ザ・イヤーにノミネートされた「3D rendering of SARS-CoV-2」

新型コロナをテーマにした創作活動は、市民にも影響を与えている。ロンドン在住のエリザベス・キュエストレットさんは、3月から8月にかけて感じたパンデミックに対する怒りや怖れ、またそれを受け入れていく様子をイラストで表現した「My Grief - life during lock down 2020(auto-bio comic)」を制作。マーク・ビーチルさんは、ロックダウン中に、気が滅入り、家にあった果物に顔を描き始めたことがきっかけで、街中にあふれる「顔」を撮影したミニ写真集「lockdown faces」を出版した。自分なりの方法でロックダウンを記憶する自主制作も盛んに行われている。

ミニ写真集「lockdown faces」 ミニ写真集「lockdown faces」

新型コロナウイルス関連の単語がオックスフォード辞典に掲載

新型コロナウイルスにより、日常生活で使用する言語にも変化があった。4月、オックスフォード現代英英辞典に、新型コロナウイルスにまつわる用語が新たに追加された。

例えば「コヴィディオット」(Covidiot)という名詞。意味は「新型コロナウイルスの蔓延を防ぐために作られたソーシャル・ディスタンスの規則に従うことを拒否することで、他者を悩ます人」のことだ。こういった造語の他にも、「COVID- 19」、「Social distancing」(感染症の蔓延を防ぐため、自分と人との間に安全な距離を保つこと)、「Elbow bump」(自分の肘と相手の肘をタッチさせてする挨拶)、「WFH」(Work From Homeの略で、自宅勤務)など、ニュースで頻繁に聞かれるワードを中心に採用された。

なお、今後の情勢次第では、ワクチンや治療薬など、医学的、科学的な専門用語などが追加される可能性があるようだ。

叙勲リストに戦う市民の名が連なる

10月、エリザベス女王の誕生日を記念する叙勲リストが発表された。そこには、スーパーの店員や配達員、看護師、パブのオーナーなど、新型コロナウイルスの流行を食い止めるために立ち上がった、一般市民たちの名前が並び、1495名のうち、414人が新型コロナウイルス関連で活躍した人物だった。

英中部ケンブリッジシャーのスーパーマーケットで働くジェフ・ノリスさんは、免疫力がないため、気軽に外出できない高齢者のために、買い物しやすいシステムを独自に構築し、休みを返上して買い物を代行した。また、看護師のアシュリー・リンズデルさんは、医療現場で使用する医療用ガウン不足を補うため、自費で布を買って同僚のためにガウンを作った。さらにこの活動をSNSで拡散し、英国各地にガウン作りのボランティア・グループを作り、多くの手作りガウンやマスクを医療現場の最前線に届けた。なお、「市民による医療従事者への支援が盛んに」で紹介したトム・ムーアさんはナイト爵位を与えられている。

エリザベス女王からナイト・バチェラー(勲爵士)に任命されたムーア退役大尉 エリザベス女王からナイト・バチェラー(勲爵士)に任命されたムーア退役大尉

 
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