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「子どもや若い人は感染しても平気」は嘘
7月19日に英国では新型コロナに関する法的規制の大半が解除になり、マスクなしでパーティーを楽しむ集団があちこちで見られるようになりました。多くの新聞で規制解除の日を「Freedom Day」と表現をしていましたが、現場で勤務するスタッフにはピンとこない言葉です。英国の医療現場は今、どうなっているのでしょうか。
英国は世界の中でもワクチン接種が順調に進んでいる国の一つで、その成果もあり二次ピークまでは突出していた高齢者の重症化や死亡率が減少しています。しかしその一方、感染率が高いのはワクチン未接種の若年層だといわれています。「子どもや若い人は重症化しないので、感染しても問題はない」と思う人も少なくないでしょう。ところが現場では子どもの感染増加による二次的な問題が起きているのです。
ある日の仕事中、師長が大慌てで病棟にやってきました。複数のスタッフが同時に病欠になり、翌日からの配置人数を埋めることができないとのこと。病欠スタッフのうち、半数以上が自身の子どもがコロナ感染や濃厚接触者として自宅隔離を言い渡されたために出勤ができなくなったというのです。普段からギリギリの人数でスタッフ配置をやりくりする師長にとって、複数のスタッフの病欠は大打撃となり、人員配置は火の車状態となりました。
出勤できるスタッフは可能な限り超過勤務を行って病欠の「穴埋め」に奔走し、私も7月は毎週1、2日の超過勤務をこなしました。12時間勤務を5連勤行った同僚は、私服になると患者と見間違えるほど疲弊している様子。ところがこの問題はまもなく皮肉な方法で解決を迎えることになるのです。
今度は手術部でも同じ問題が発生。手術医、研修医、麻酔科の看護師など複数が順に病欠になりました。そのほとんどが子どもの感染または濃厚接触によるもの。さらにホリデー・シーズンで有給取得率が高くなる時期とも重なり、深刻なスタッフ不足に陥ったことで手術を複数、延期せざるを得なくなりました。手術患者が大幅減少したことで、少数の看護師配置でも問題なくなった外科部は命拾いとなりました。しかしコロナ感染のために待機手術の待ち時間が記録的な長さが大問題となっている現在、このような理由で手術件数を減らすことは残念でなりません。
また地域医療でも同様の問題が起きている地区も少なくないのが現状です。私の勤務先近辺の複数の家庭医(GP)でも、子どものコロナ感染関係によってスタッフの病欠率が記録的な数値となっており、中にはワクチン接種をしたにも関わらず感染をしたスタッフもいました。極端なスタッフ不足で家庭医の予約が非常に取りづらく、必然的に患者は緊急ではなくてもA&E(救急外来)に行ってしまいます。この結果、A&Eは、夏場には珍しく記録的な混雑と待ち時間となり、本当の緊急患者にも影響が及ぶ可能性が指摘されています。
新型コロナに感染することは仕方がないことです。ただ「子どもは感染しても平気」という理由で全く感染対策をしない無責任な行動は、最終的に全く関係のないほかの患者さんにまで影響が及ぶのです。これを心にとめて一人ひとりが節度ある行動を心掛けることを、現場スタッフは切望します。