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コロナ・ワクチンの打ち手はシェフや劇団員!
2021年も折り返し地点を過ぎた地点で、英国では約50パーセントの人が2回目の接種を終えました。道路工事などのプロジェクト遅延が珍しくない英国で、なぜコロナ・ワクチン運営は順調に進んでいるのか? 今回は、現在ワクチン接種センターでアルバイト中の私が、現場目線で書いていきたいと思います。
ワクチンのスピーディーな接種には、人材の確保が必須です。でも普段から人手不足に悩むNHSが通常通りのNHS報酬で求人を出したところで大規模な人数の看護師を確保することは不可能でしょう。
そこで国はコロナ・ワクチンのみに限り「非医療従事者」を注射の打ち手として認めました。英国でワクチン接種を受けた皆さんの中には、非医療従事者から接種された方々も多かったかと思います。私が勤務している接種会場でも航空業界、サッカーのコーチ、劇団員、飲食業界とさまざまな業種の方がワクチンの打ち手として活躍しています。その多くがコロナで失業や減収を経験しており、仕事の希望者は多くシフトの奪い合い状態です。しかし、そのお給料は正看護師より若干低い時給設定になっています(もっとも正看護師でもかなり低い設定ですが!)。
会場によってはボランティア・スタッフがワクチンの打ち手をしている場合があります。こうして英政府は、安価で大量のワクチンの打ち手を確保に成功しました。コストのかかる医師は配置されず、若干名の薬剤師が常駐しています。
でも非医療従事者に注射をさせて平気なの? と心配になる方も多いかと思います。英国が大規模ワクチン接種を進める上で順守してきた点が「早い、安い、安全」です。非医療従事者は国が概要を定めた座学、実技ともにトレーニングを受け、試験に合格しています。その仕事は「患者のIDを確認して出来上がっている注射を打つ」に限定されています。
それでは正看護師は現場で何をしているのでしょうか? 看護師の担当は主に患者のアセスメント(問診)と注射を打つブースの二手に分かれます。会場ではまず問診があり、これは正看護師の仕事になります。ここで過去のアレルギー反応や既往歴など心配ごとがあれば常駐の薬剤師に相談します。
次に接種現場のナースの仕事は、シリンジ(注射器の筒)に正しい量のワクチン液を入れることです。ファイザーなら希釈も必要です。ワクチンの保存は温度、時間など全て記録を残しますが、正看護師が直接注射をすることはありません。こうしてわずかな人数の看護師でも現場が回る体制が取られており、スピード接種は今のところ維持できています。
ワクチン看護師のバイトは経済的に良いとは言えませんが、異業種の仲間たちと仕事ができることは魅力的です。さまざまなバックグランドを持つ仲間と「ワクチン接種」という仕事で一つのチームになることは通常では考えられません。
コロナ病棟で日々「死」と向き合い、「ご主人は今朝4時15分にお亡くなりになりました」という苦しい電話を何度もかけた絶望の場所にいた私にとって、希望に関わる業務は、心を軽くしてくれます。今、ワクチン会場にあるのは希望と皆の笑顔。これほどすてきな職場が他にあるでしょうか?