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クリスマスに欠かせないもの
新年明けましておめでとうございます。毎年のことですが、日本と違って英国ではお正月休みが短いこともあり、皆さんお正月気分はすっかり冷めているかもしれませんね。と言いつつ、今日は、お正月よりさらに少し前に戻って、クリスマスに改めて英国と日本のギャップを感じたものについてお話しさせてください。
それは、私が英国で初めてクリスマスを過ごしたときに恋に落ちた(というと大げさですが)もの、クリスマス・クラッカーの存在です。
12月になって、街を歩いていると、レストランの窓越しにテーブルを囲んでいる人々が、紙でできた王冠のような形の帽子をかぶっていました。それも、スーツを着た男性、ばっちりメイクでドレスアップした女性など、いかにもビジネス関係のパーティーといったグループです。「なんで、あの人たち、あんな格好しているんだろう?」「頭に着けているものは一体何?」と不思議に思っていたのですが、当時、ホームステイをしていた家族に招待してもらい、大家さんのご両親のお宅で一緒にクリスマスを過ごしたとき、初めて、どうしてみんながあのひらひらした王冠をかぶっているかの謎が解けた……というわけです。
ご存知の方も多いと思いますが、クリスマス・クラッカーとは筒状のキャンディーのような形をしたもの。クリスマス・ディナーをいただく前、両手を交差させて、テーブルの隣に座っている人とクラッカーの片方の端同士を持ち、一気にこれを引っ張ります。そうすると「パンッ」という大きな音がして、中味が出てくるという仕組み。歴史はヴィクトリア時代にさかのぼり、当時スイーツのお店を経営していたトーマス・スミスという人がパリで見た、ボンボンを薄紙で包んで両端をひねったものからヒントを得て作ったといわれています。
よほど高価なものを買わない限り、中に入っているのはたいてい紙の王冠とチープなおもちゃ、ジョークの書かれた紙です。そして、クラッカーをあけた後は、みんながこの王冠をかぶります(髪型が乱れる……とか、帽子はキライ……とか野暮なことはいいっこなしです)。
毎年、家族そろってこのひらひらと薄い、紙製の王冠をかぶり、お皿からあふれんばかりに盛り付けられたクリスマス・ディナーをいただくとき、みんなのちょっととぼけた様子につい笑顔になります。そして、大切な家族とまたこうしてクリスマスを一緒に迎えられたことに感謝の気持ちが湧いてきます。そのせいか、私にとってクラッカーに入った王冠は、その場に集う人々の気持ちを優しくさせる貴重な役目を担っているような気がします。