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紅茶を飲むときのお作法?
以前、本誌で5年間連載していた「英国の口福を探して」というコラム。最終回に満を持してご紹介したのが紅茶でした。ただ、そこで書ききれなかった英国の紅茶にまつわる話題がたくさんあるので、今日はその一つをご紹介します。
皆さんもご存知だとは思いますが、この国で紅茶のお供に欠かせないものといえば、ビスケットですよね。日本ではクッキーと呼ぶことの方が多いですが、英国人いわく「クッキーは米国のもの」とのこと。英国ではサクサクした焼き菓子系スナックはビスケットと呼ばれます。そして、この国では、老若男女を問わず、紅茶と共にビスケットを出せば「サンキュー」とにっこりして、たいがいの人は英国流お茶請けに手をのばします。
先日、わが家の引越しを担当してくれた屈強な男性たちのグループも、ミルク・ティーと共に出したファミリー・サイズのビスケットをしっかり食べていました。そのとき気付いたのは、4人のうち3人が、ビスケットを紅茶に浸して食べていたことでした。それを見た私は「あ、やっぱりやっている!」と思いました。そうなんです。ここでは、紅茶にビスケットをちょこんと付けて食べるのを見掛けるのは決して珍しいことではありません。
実は子どものころ、給食のパンを牛乳に浸して食べる級友を見るだけで気分が悪くなった私。なので、初めて英国人が紅茶にビスケットを浸して食べるのを見たときには、そのイメージがあって、果たしてそれがおいしいのか?という疑問が湧きました。でも、せっかく英国にいるのだから、と試してみると、意外にいける!というか、紅茶に浸したビスケットは口の中にいれると、とろけるようにあっという間になくなってしまうので、つい「もう1回」というように、後を引くのに気付きました。
ビスケットを紅茶に浸すことを英語では「ダンキング」(Dunking)と言います。そして英国では、しばしば、どのビスケットがダンキングに最も適しているか、ということが話題になります。2023年の「デーリー・メール」紙の記事によると、英国で人気の17種類のビスケットを「どれが最も長い時間、形をとどめている(ダンキングしやすい)か」のリサーチがあったそうです。それによれば116回ダンキングができたジャファ・ケーキ が「最もダンキングに適する」という結果で、最下位はたった6回のダンク、12秒しかもたなかったプレーン・ダイジェスティブだったそうです。ところが、その後16歳以上の2000人を超える人々に行ったリサーチでは、そのプレーン・ダイジェスティブこそが、紅茶に合わせるお気に入りビスケット第1位に輝いたとか。さて、あなたがダンキングするときは、どのビスケットがお気に入りですか?