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英国の家にある不思議の間
もう20年近く前、夫と結婚する前の年のクリスマスに、初めて義父母の家に泊まらせてもらいました。初対面のときから、まるでずっと前から知っているかのように気さくで優しく接してくれていた義父母。英国における一大行事ともいえるクリスマス・ホリデーに一緒に過ごすことでさらに打ち解け、自分の家にいるようにリラックスして滞在させてもらっていました。
そのときは滞在が数日におよびました。そのため、滞在3日目にバスタオルに新しいものと交換してくれようとした義母が、「マミ、タオルはエアリング・カバードにあるのを使ってね」と言いました。
エアリング・カバード(airing cupboard)が何かを知らなかった私は「エアリング・カバードは何?」と聞くと、バス・ルームにあるドアの付いた小さな部屋を見せてくれました。部屋というよりも、日本人的には「押し入れ」と呼びたくなるような場所です。その「秘密の隠れ間」みたいな小さな空間には、大きなタンクが置かれていて、木製の棚のようなものが同居していました。カバードは棚という意味で、棚があるからこう呼ぶのかもしれませんが、ここは、温水をためるタンクが設置してある場所でした。1メートルを越える高さの円筒形のタンクは、触ると温かく、その空間全体もほんわかとした空気が漂っています(義父母の家ではバス・ルームの中に設置されていますが、家庭によってエアリング・カバードのある場所は違います)。
義母に教えてもらったところ、ここに洗濯物をかけておくと1日もたたずに乾かすことができるのだといいます。洗濯物を屋外で乾かせるのが1年のうちでわずか数カ月という英国の家庭には、たいてい乾燥機がありますが、乾燥機を使うと、乾きすぎて生地が縮んだりしてしまうのもよくあること。でも、このエアリング・カバードで乾かすと、その心配はないのだとか。たくさんの洗濯物を干すスペースはありませんが、義母は、乾燥機で半乾きにした段階で、最後の仕上げにこのスペースを使うことが多いのだと教えてくれました。
また、畳んだタオルをここにしばらく収納しておくと、使うときにふんわりとして気持ちがいいので、お客さんが来たときに、ここからタオルを出してあげることがあるのだとも教えてくれました。
夫と結婚した当初に住んでいたモダンなフラットにはエアリング・カバードがなかったのですが、今の住まいではまだ畳んでいない洗濯物を一時収納する場所として活用しています。ほかにもわが家では、パンを焼くときに生地を発酵させる家庭用パン発酵器としても活躍してもらっています。