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自然大好き、食べるの大好き
「いたーい。ヒリヒリして我慢できない!」。
ウォーキングに出掛けた近所の丘で、息子がネトルの葉を触ってしまったらしく、痛がっています。「早くドック・リーフを探して」。そう言いながら、見慣れた葉っぱがないか、私は娘と一緒にあたりを探しました。
ネトルとは日本でイラクサと呼ばれる植物で、葉のトゲが刺さると、めっぽう痛い、触ると危険な植物です。トゲが刺さったときにドック・リーフ(和名エゾノギシギシ)という草の葉を擦り込むと痛みが和らぐ、というのが英国での言い伝え。なので、息子のためにその葉を探していたのです。葉っぱを探しながら「ネトルはスープにするとおいしいんだけどね」という私に、「そんなことはどうでもいいから、早くこの痛いのを何とかして」と、自分が痛い思いをしているのに、ネトルを食べる話をしている母親に息子はあきれた顔をしていました。
息子には申し訳ないのですが、英国でネトルがスープにできることを教えてもらった私は、この植物を見ると、ついスープを思い出してしまいます。そして、英国でウォーキングをしていると、ついつい食用となる植物に目がいくようになってしまいました。英国では、食用植物を採集することを「フォラジング」(Foraging)といいます。ネトルのようにどこの道端でも見かけるような草や、あるいは夏の終わりに実を付けるブラックベリーなどを気軽に摘んで調理し食べることは、英国の人々にとって珍しいことではありません。
古い時代には食用植物の採集が生活のために必須だったのは想像に難くありませんが、現代ではエコロジー的な視点でフォラジングをしている人もいるようです。また、第二次世界大戦中、オレンジなどの果物の輸入が制限されていた時代には、野生のローズヒップを採取してシロップを作ることが、英国の人々がビタミンCの摂取を補う重要な方法となっていたともいいます。
このところ、娘と私が心待ちにしているのが、エルダーフラワーの開花です。いつもジョギングをする通りにエルダーの木が数本あり、毎年ここで花を分けてもらうのです。作るのはコーディアルという甘いシロップで、水や炭酸水などで割って飲むと、爽やかな花の香りが口いっぱいに広がるおいしい飲み物です。
日本でも子どものころにつくしやワラビを摘みに行った覚えがあるので、フォラジング自体は英国特有というわけではありません。でも、日本では見掛けなかったエルダーフラワーやブラックベリーなどを摘んで、飲み物やお菓子を作るたびに、英国の食文化の豊かさを感じます。