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英国の春はイースターから
毎年のことながら、英国に住んでいると、イースターのころになって「ああ、やっと春が来た」と、ほっとしたような気持ちになるのは私だけでしょうか。イースターは「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日(!)」とされているので、毎年日付が同じではないものの、だいたいは3月後半から5月始めまでとなっています。そして、このころには公園や庭のラッパ水仙をはじめとして、レンギョウやタンポポなど、春の便りを伝えてくれる黄色い花があちこちに咲き出します。暖かくなって突然伸びてきた庭の芝生を刈る音がご近所から聞こえ、ロビンをはじめとする野鳥たちのさえずりもひときわ大きくなると、これぞ英国の春。日本の春はなんといっても桜が象徴的ですが、英国の春は黄色と若緑に目を奪われます。
さて、英国ではクリスマスに次ぐ大きな行事ともいわれるイースター。家族や友人で集まって一緒に食事をしてお祝いすることが多いですが、プレゼントやパーティーのために何カ月も前から準備しなければならないクリスマスのような切迫感はありません。また、イエス・キリストの復活を祝うお祭りとはいえ、現代では、熱心なクリスチャンでもない限り、教会のミサに行く人も多くはありません。一方で、子どもたちのいる家庭では、庭や家の中などでイースター・エッグ・ハントを楽しみます。クリスマスのサンタクロースに変わって、この日はイースター・バニーと呼ばれるウサギが、卵のプレゼントを残していってくれるのです。
「イースターはクリスマスに比べると、『こうすべき』というルールが少なくて、みんな気楽にお祝いしている気がするわ」と、イースター・ホリデーに久しぶりに会った義母が言いました。その義母に英国のイースターについて教えてもらい、以前本誌で連載していた「英国の口福を探して」というコラムで、イースター・サンデーにはローストしたラムをいただくのが伝統で、この時期にはイースター・ビスケットやホット・クロス・バンズ、シムネル・ケーキなどを食べることを紹介しました。近年では英国の人々でも必ずしもイースターにこうしたものを食べるとは限りませんが、英国のイースターにはやっぱりこれらを食べたいと思うのは、私が外国人だからでしょうか。
今や日本でも、こうした食べ物を売っているお店もあると聞いています。とはいえ、イースターのお祝いは、クリスマスやハロウィンほど日本では知られていません。それはもしかしたら、イースターを迎えた「歓喜」ともいえる晴々とした喜びは、1年の半分以上が寒い北国、英国に暮らしているからこそ、しみじみと味わえるものだからかもしれません。