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くしゃみをすると言ってもらえるのは?
「ブレス・ユー」。
ロックダウン解除になってしばらくしてから、久しぶりにバスに乗ったとき、たまたまくしゃみが出てしまいました。すると、後ろの席から聞こえてきたのがこの言葉。英国では公共交通機関内であっても、今ではマスクをしている人はほとんど見かけなくなりましたが、当時はまだみんなマスクをしていました。
新型コロナにかかっているわけではないけれど、くしゃみをしてしまった自分に、なんとなく後ろめたさを感じていたところに「ブレス・ユー」と言われたので、うれしくなって思わず振り向いて「サンキュー」と答えました。言ってくれた若い女性はにこりと笑顔を返してくれました。
このように、英国では人がくしゃみをしたときに、「ブレス・ユー」という習慣があります。本来は「ゴッド・ブレス・ユー」(Godbless you)という文章で、「神のご加護を」と日本語に翻訳されるフレーズです。
そういえば先日、義弟が遊びに来た際に、隣の家まで聞こえるのではないかと思うほど大きな「アチュー」というくしゃみをしたので、私はすかさず「ブレス・ユー」と言いました。すると「サンキュー」 と答えた義弟から「そういえば日本ではくしゃみをしたときには何て言うの?」と質問されました。
「日本では特に何も言わないよ」そう答えながら思い出したのは、英国に住むようになってからも、私は長い間、人がくしゃみをしても、すぐに「ブレス・ユー」とは言えなかったこと。今考えると、多分日本ではくしゃみをした後に何かを言うという習慣がないので、人のくしゃみを聞いたらすぐ反応する、ということが、なかなか身に付かなかったのではないかと思います。
ちなみに、なぜ「ブレス・ユー」というかについては、諸説あるそうですが、その一つは、西暦590年ころにペストがまん延した際、毎日のように人々が亡くなっていたため、咳やくしゃみは黒死病の兆候とされていたことだそうです。もし誰かがくしゃみをしたら、「神のご加護を」と言うことで、病気がまん延するのを防ぐことができると考えられていました。ただし、ペストでは多くの人命が奪われたため、「ブレス・ユー」の言葉が効いたという訳ではないようです。
ほかには、くしゃみは悪魔を追い出すためのもので、くしゃみをした人に祝福を与えることで、悪魔の影響が再び戻ってくるのを防ぐ効果があると考えられていた、という説もあるそうです。
そうそう、くしゃみをした人は「エクスキューズ・ミー」というのがマナーとされているので、そちらもどうぞお忘れなく。