55
ギャップ・イヤーってどんなもの?
「あのとき、ギャップ・イヤーを取っていなかったら、彼らとは同級生にはなれなかったと思うと、不思議な気がする」。
この秋、夫の大学で毎年開催されている、卒業年次を超えた同窓会に初めて参加させてもらったとき、同級生たちとの久しぶりの再会を楽しんだあとに夫がそう言いました。
日本ではあまり聞いたことのない「ギャップ・イヤー」。これは、大学の入学資格を得た学生が、入学前の1年間、ボランティアをしたり、世界各地に旅行に出掛けたりして過ごす期間を指します。夫は大学の面接を受けたときに、担当のチューターからギャップ・イヤーを取ることを勧められ、入学資格はもらったものの、入学するのは1年後にすることを決めたのだそうです。そして、その年の前半には地元デヴォンの煙突工場でアルバイトをし、稼いだお金で、やはり同じくギャップ・イヤーを取った別の大学に進学予定の友人たちと一緒に、バックパッカーとして欧州中を旅したのだとか。
リュックごと盗まれたり、途中のアクシデントで友人と離れ離れに旅することになったり、予想外の経験を重ねたようですが、そのときに学んだことは、それまでの学生生活では得られなかった貴重な社会体験だったと言います。
ギャップ・イヤーの起源は、17世紀に英国のエリート層の若者が行った「グランド・ツアー」だといわれます。学生たちは、欧州各地の都市や建築物を訪れ、文化施設や芸術品を見学し、英国以外の世界に触れたのでしょう。
近年では、イートン校を2000年に卒業したウィリアム王子が、スコットランドのセント· アンドリューズ大学に入学する前にギャップ・イヤーを取りました。ウィリアム王子がベリーズのジャングルで探検生活をしたり、チリでボランティア活動をしたことがメディアで報道されたことにより、ギャップ・イヤーがさらに知られるようになったともいわれます。
ちなみに2012年の調査データによると、英国では20~25万人の学生がギャップ・イヤーを取得していて、それに基づく計算によれば、2022~23年では18~18万5000人ほどの人がギャップ・イヤー取得予定とのこと。
そして、ギャップ・イヤーを取得する理由の最上位には「自立する、独り立ちすること」が挙がっています。そういえば、5年ほど前にギャップ・イヤーで日本をはじめ1年かけて世界中を旅してきた友人の息子さんが帰国直後に「自分がようやく大人になった気がする」と言っていたのを思い出しました。私の大学入学時の日本にこういう制度があれば、ギャップ・イヤーを取ってみたかったと、英国の学生さんをうらやましく思います。