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支払う前に食べてもOK!?
渡英した年の夏、ロンドンのセントラル・セント・マーチンという芸術学校のサマー・コースに通っていました。ランチ時になると、毎日、近くにあったスーパーにサンドイッチや飲み物を買いに行きました。あるとき、果物コーナーでりんごを買おうと品定めをしていると、隣にやってきた女性が、陳列してあったマスカットに似た緑色のブドウを皮ごと3つほどつまんで、そのまま買わずにどこかへ行ってしまいました。英国に来る前に東南アジアの国をよく旅していたときには、野外マーケットで人々がフルーツをちょっとつまんで味見して買うかどうかを決める、という様子をよく見ていたので、英国ではスーパーでも味見できるのかしら? とそのときは思いました。それから数日後に、ベビーカーに子どもを乗せたお母さんと思われる女性が、陳列棚から取ったビスケットを、その場で開けて子どもに食べさせているのを見ました。そのときはちょっとびっくりしたのですが、当時まだ子どもがいなかった私は「子どもがあまりにも愚図るから、仕方なく食べさせたのかしら?」と思っていました。
数カ月して、ロンドンの新金融街ともいわれるカナリー・ワーフのDLRの駅のそばにあるスーパーで、会計に並んでいたときです。目の前に並んでいたスーツ姿の男性が、おもむろに、手にしていたサンドイッチの包装を開けて、中身を食べ始めました。そして、空になった三角形のパッケージをレジの人に渡して、相手もまるでそれが当たり前とでもいうように、そのゴミ(!)のバーコードをスキャンしていました。男性はカードで支払いを済ませ、ゴミを捨てておいてくれるようにレジ係の人に頼んで、去っていきました。
当時ボーイフレンドだった夫のフラットメイトのDは、カナリー・ワーフにある金融機関のアナリストをしていました。そこで、Dにスーパーで見た出来事を話して、これは普通のことなのかを質問してみました。「僕はやらないけど、そうやって会計前に食べる人はいるよね。決してマナーがいいとは思わないけれど」というのがDの答えでした。
その後、いろいろな人にこのことを聞いてみました。結果、全員が「そうする人がいるのは知っている」とのことでしたが、実際にやったことがある人はいませんでした。また「スーパーで働いている人たちは、商品は別に自分のものではないから、食べた人がお金さえ払ってくれれば問題ないと思っているのではないか」というのが大半の人の考えのようでした。
刑法専門家によると、実際には支払いの済ませていないものを食べることは違法とのこと。ということで、皆さま、英国流をまねるのはやめておいた方がよさそうですよ。